38:不滅の指輪

「――――!!!」


 言葉に形容出来ない鳴き声を上げ、力なく倒れ伏す殺戮の黒蛇。まだ息をしているとは言え、いつそれが止まるかは分からない。まさに死にかけだ。

 しかし俺は間髪入れず、とあることを始める。


生者晦冥リビングキル


 俺は殺戮の黒蛇こいつをただで殺そうなんて思っていない。俺はこいつを支配するつもりでいる。


「な、何をして……!?」

「うるせぇ……あ、これ他言無用だから。うちの秘術って思えば良い」

「絶対言わない。約束する」


 そうして術を使えば、既に真っ黒な蛇が黒い液体に飲み込まれた。今度も手を入れてみるも、何も変化はない。ただ浅い川のようなだけだ。


 少し経ち、それが消え去るとそこにいたのは小さくなった蛇だった。


「あの大きな蛇が小さくなった……! 可愛いです!」


 アリアがにっこりしているようで何より。しかし摩訶不思議なもんだな。


「じゃあ行くぞ? 《支配》」


 すると次は真っ白に光り、その大きさがまたもやどんどん小さくなっていく。


「これは――!?」


 光が消え、そこに一つの指輪であった。

 先程の寝ていた姿がそのまま指輪になったかのようで、尾を口で咥えているので丸いスペースが出来上がっている。


「これ、見たことがあるでござる!」

「それ本当か!?」

「もちろんでござる!」


 突然声を上げたのはモミジだった。俺は話を続けるよう促すと、モミジは指輪を拾って俺に見せつける。


「これはかつて――勇者殿がつけていた指輪でござるよ!」

「勇者の……指輪……!?」


 なんでそんなものがここにあるのか――そう言おうとしたが、言葉に出来なかった。驚きで頭が混乱してしまったからだ。


「この指輪があれば、その身体は滅びることがないのでござる。それが戦いには大変役に立ったし、仲間も守ってくれるでござるよ。とても便利で何度命を救われたことか……」


 懐かしむように、感謝を伝えるように、しみじみとした表情でそう語るモミジ。しかし内容が濃すぎる。意味が分からない。つまりそれは――


「拙者たちは『不滅の指輪』と呼んでいたでござるな」


 やっぱり、か。そういう名前になるよな。


「モミジ……それ、どうするつもりだ?」

「それはぜひともネビュトス殿につけてもらうべきでござるよ。なにせ我々の皇帝リーダーなのでござるからな」

「そう、だな。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」


 モミジから指輪を受け取ると、俺は右の人差し指につけた。しかしそこに手が伸びる。


「陛下っ! 私がつけてもいいですかっ?」

「ま、まぁいいけど……」

「ありがとうございますっ!」


 いつになく笑みを浮かべ、楽しげにしているアリア。すぐに指輪を外すと、俺の左薬指へと付け替えた。


「あ、アリアっ……!?」

「えへへっ、陛下にはこっちのがお似合いです!」

「アリア殿……さすがでござる」

「お主……愛されてるんじゃな」

「うっせぇおっさん」


 いかんいかん。空気が変な方向に行ってしまった。


「そろそろ帰るぞ。時間は有限だからな」


 そうしてすぐに街へと転移で舞い戻ってきた俺たち。門の前には数人が待ち構えていた。


「い、今いきなり!?」

「びっくりしたぜ……」


 どうやら出迎えらしい。優しいこって。


「そういや、蛇は?」


 驚きからすぐに正気を取り戻し、質問してきた男が一人。それは例のイヨド君であった。


「あぁ。意外にも強くてな、鱗一枚残さず消し飛ばしてしまったよ」

「嘘だろっ!?」


 鱗の一枚も残っていないのは事実。嘘だと断定できる証拠もないのだ。戦闘の形跡も残っているしな。これぞ完全犯罪……違うか。


「なぁ、これって脅威が去ったってことだろ!? 祭りだ祭り!」

「いいなぁ! 酒を飲んでうまいもん食いてぇぜ!」

「じゃあ俺準備に行ってくるぜ! 行くぞお前ら!」

「「「おう!!」」」


 全く元気だな……まぁいいや。これは生魚を食べるチャンス!


「俺も協力するぞー!」


 そう叫びながら彼らのあとを追いかけていく。

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