39:生魚食ってバイバイ、ゲーテ
https://kakuyomu.jp/works/16817330668066613679
新作よろしくです!
◇
「あぁ美味え! 酒が止まらん!」
「今日は大漁だったな! 美味い魚も最高だぜ!」
「あぁ生き返る~! 冒険者のあんちゃんには感謝だな!」
そこにはむさ苦しいおっさん共が十数人、酒を片手に魚や肉を食いまくっていた。ちなみに俺も魚を食っている。美味しいのぉ……これには涙が出るね。涙腺ないけれど。
「しっかしあんた、強いんだな! そんな若さで黒蛇を殺してしまうなんてよ」
「まぁな。……ただ持病があってあまり長くないんだ。それを治すために俺たちは旅をしてるのさ」
「そんなつらい話があってたまるかよ……! 女神様は一体何をしているのだ……こんな将来有望な若者をっ……!」
「心配してくれてありがとな。でも仕方ないんだ。だから、この祭りが終わったら俺たちはここを発つ。最大限楽しんで思い出に残すよ」
「全く、あんたは優しいな」
「おっさんこそ」
まさかこんな辺境の村で――いや、だからこそだろうか。こんなにも人情に溢れた人々と出会うことになろうとは。
クソ女神はこの世界の人々を『腐っている』とか抜かしたが……それも嘘にしか思えないな。未だに何を企んでいるのかさっぱりなのが怖い。次会ったときにはきっちり問いただしてやる。
「陛下ぁ~。ここのお酒おいひいですよぉ~!」
「……アリアには二度と酒を飲ませないべきかな」
「えぇー!? ひどいれす! 私はお酒が飲める女れす!」
うん。絶対飲ませないことにしよう。淑女らしく紅茶にするべき。酒に飲まれるなら紅茶脳になった方がマシだ。
「ネビュトス殿、楽しんでござるか?」
「モミジか。もちろんだよ。そうだ、モミジは酒に強いのか?」
「無論でござる。日本は酒の国でござろう? たくさん飲んできたでござるよ!」
「なら安心だな。ほら、アリアの分も飲んで良いぞ。というか飲んでくれ」
「いいんでござるか!? ありがたくいただくでござる~!」
「あぁ~! 私のお酒~!」
……アリアは酒禁止だな。どんな事があってもダメだ。命令してもいいくらいだよ本当に。なんかやらかしたらそうしよう。このアル中メイドめ。
――そうして楽しい時間はあっという間に過ぎ、夜も更けたのでお開きとなった。
「さぁ、出発だ。アリア、モミジ。行くぞ」
「……殺戮の黒蛇の討伐、ゲーテの元領主として本当に感謝する。陛下のご指示があればいつでも全力で遂行致しましょう」
「俺も感謝だな。ここの住民は優しくて温かい、いい奴らだ。いつか世話になるだろうな」
「陛下、お言葉ですが、この国の住民の大半は――」
その言葉は最後まで言うことができなかった。突然、俺の頭に弓矢が飛んできたのだ。
「――腐りきったクズどもです」
奇しくもそれが合図となったのか、武器を持った住民が数十人現れた。
「お前ら、勝手に現れては善人気取りか。この魔物風情が!」
「そうだそうだ! お前らはここで死ね!」
「「「死ね! 死ね! 死ね!」」」
「……なんだこれ、小学生の暴言かよ。しょうもないなぁ……無視して行くぞお前ら」
こんなのに時間を割いていられるほど暇なわけではない。正直既に予定は狂っている。だから急がなければならないというのに。
「逃がすかっ!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、大きな棍棒で殴りかかってきた者が一人。大きく右手の武器を振りかぶっている。素人だな。
「我が陛下に傷はつけさせぬ」
「――ッ!? 手が、手があああ!」
ただ俺は一人ではない。優秀な配下がいるのだ。襲ってきた無礼者の手首を、モミジは目にも止まらぬ速さで切り飛ばした。一拍遅れて血が吹き出す。
「なぁ、もう忘れたのか? お前らが苦労していた黒蛇を殺したのは俺たちだ。分かったら去れ――死にたくなければな」
ろくに覚悟も決まってないうちに行動を起こしたのだろう。その言葉に一瞬迷いが生じた。そんな程度の思いでこんな事をしたのか。自惚れすぎだろう。
「う、うおおおお!!!!」
「行けぇ!」
「殺せぇ!」
「……
たった一言。たった一回の魔術。それだけで全てが終わった。
彼らは石のように――いや、実際に石になったのだ。ついでに地面に固定されているため、人間と思えぬ姿勢で静止している者もいる。滑稽だ。
「忠告どうも。しかしどうにかなるらしい。それじゃ、俺たちは行くよ。達者でな」
「世話になったでござる」
「ありがとうございましたっ!」
「……ありがたきお言葉」
そうして俺たちは次の街へと向かった。そこに言葉はもはや必要なかった。
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