13:過剰戦力
「さて。次は妾の番だな」
ヴィルの戦いへ意識を向けさせることで喧嘩をどうにか収めたのだが、2人ともふくれっ面をしているのでまだ喧嘩したりないらしい。後で手合わせさせてあげようかな。
「猛き獣よ! 戦いたくばここへ集え! 強者というものを味あわせてやる!
ヴィルが声高々に叫ぶ。
すると森がざわめきだした。すぐにドドドド……という足音も聞こえてきた。そして姿を現したのは、
「ひぃ……ヴィルさん、ほんとにこれ倒せるんですかぁ……?」
「大丈夫だ、問題ない」
怯えるアリアに紳士な対応。かっこいいぞ~ヴィル。
「魔物よ! 勝負だ!」
その宣言を皮切りに双方動きだした。
ヴィルがどこからか取り出した弓を番えると、虚空から紫電を纏う矢が数十本ほど生成され魔物目掛けて飛んでいく。
そんな彼らの脳天に矢が直撃すると、魔物たちは身を乗り出すような勢いで前に崩れ落ちた。
間一髪で避けた者もいたが、その矢は追尾式なのか空中で旋回し脳天へ後ろから深々と刺さる。
たった一回の攻撃で、半数の魔物は死に絶えた。
残った魔物の反応は逃げるか、残るかの2つだった。
しかし逃げた者はすぐさま撃ち抜かれ倒れ伏す。
その場に残った者は賢明ではあったが、勝負には勝てぬことを理解する事となった。
「うむ。では貴殿らの勇気をたたえ、痛み無く殺してやる」
そうヴィルが告げると、魔物たちは異種族ながらも身を寄せ合いブルブル震え始めた。共通の敵を前にして言葉を交わさずとも意思疎通が出来ているのだ。だがヴィルはそんなものは気にせず攻撃の準備をしている。
「
ヴィルが番えた矢は、先程の紫電を纏うものと打って変わって金色に煌めいており、神聖な何かを感じる。クソ女神と出会った空間に似た雰囲気だろうか。
そして矢を放つ。
その矢が触れた魔物たちは即座に光の粒となって崩れ始め、風に流されどこかへ消えた。
「どうだ。これが妾の実力だ」
自慢げな表情だし、目はチラチラ俺とアリアを行き来している。
「うん、よ、よく頑張ったな」
そう俺が褒めるとヴィルは満面の笑みを浮かべた。
「ん、じゃあ最後はボクの番だね」
うずうずしていたツァトリーがすぐに話しかけてきた。しかもヴィルとの間に割り込んで。よほど戦いたかったのだろう。
「まず――
その澄んだ声はとても響いたような気がした。どこまでも、どこまでも広がっていきそうなほどに。
そしてやまびこのように広がった声は、地獄から響いてきたような怨嗟の声になって返ってきた。
「な、なんだ……!? ツァトリー、何をしたんだ!」
「ん。この地で1番強いやつに宣戦布告の魔法をかけたんだよ。そしたら封印されていた太古の魔王を呼び出しちゃったみたい。えへっ」
「えへってなんだよ! やばいんじゃないのかそれ!?」
そんなことを言っている間に、怨嗟の声――咆哮は揺れとなり、グラグラと地面が揺れ動き始めた。
「陛下! あれは一体!?」
アリアが指差した方向には、漆黒を身にまとった巨大な全身鎧が仁王立ちしていた。そしてそれは明らかにこちらを見下ろしていた。
『貴様ハ……大逆人ノ臣下……ナゼ、ナゼ我ヲ呼ビ起コシタ!』
どこからか響き渡る低い声。発言の内容からも相当お怒りなのが分かる。
「ん……これは厄介な強敵だね。ここでボクがこいつを倒してネビュトスに褒めてもらう。アリアに負けてられない」
「わ、分かった……分かったから早く倒してくれ! 精神が持たない……」
化け物を呼び起こした理由がそれってどういうことだよ……アリアに負けないためだけに褒めてほしいって、負けず嫌いも過ぎるのではないだろうか。
しかもあんな化け物を目の前に平然としていられる方がおかしい。だってアリアは泡を吹いて倒れてる――って大丈夫かアリア!?
「ヴィル! アリアを頼んだ! 俺にはどうしようもできん!」
「了解した、マスター」
全く……ツァトリーのやつめ。褒めた後に数倍叱るからな?
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