第3章: 騒動、騒動、そして騒動
1. 影
§3-1. 今月も生徒会の影とともに
新しい週の始まりとともに、新しい月を迎えた。
7月1日、月曜日である。
今日も元気に楽しく参りましょう――などと声高に叫ぶには些か気候的にも暑苦しいので止めておくべきだろう。そもそもキャラじゃないし。
先日の生徒会
とはいえ、生徒会室への呼び出しが全く無かったかと訊かれれば、もちろんそんなことはあり得なかったわけで。
先週の金曜日は唯一呼び出しがされた日だった。さて今日は部活に集中するぞと思った矢先に、恒例になりつつある校内放送が聞こえてきて、俺はそれにため息を重ねるしかなかった。
他の部員もだいたい俺への認識が統一されてきたらしく、苦笑いを浮かべながら俺を送り出す。学園の天使と過ごせることと、小間使い的でありつつもわりと重労働をさせられることを天秤にかけた結果、アイツらも『だったら部活やってる方がいいや』もしくは『学祭準備をクラスでやってた方がいいや』という結論に至ったらしい。――だから言ってただろうが、と小一時間は問い詰めたい気分である。
それはさておき、その日呼び出された内容としては、予想外とも言える『クラスから提出される書類に不備があったので確認をお願いしたい』という、真っ当に学校祭準備委員としての仕事だった。
いや、それを『予想外』にすることがおかしいだろうが――というツッコミが来そうだが、まったくそんなことはない。呼び出された際にいつもなら付いているはずの枕詞、『学校祭準備委員会の』が無かったから、しっかりとした仕事じゃない何かで呼ばれたのだろうという邪推が働くのも無理は無いという話。
そういえば、呼び出された際に作った棚だが、しっかりと業務で使われているところを見られたことは良かったと思う。盛大に感謝はされたが、そもそもあなた方が
そんな事情もあり土日の部活は濃度の高い練習を積むことだけを考え、しっかりとプラン通りの練習が出来たので良かったとは思う。人間、追い込まれたらどうにかなるものだ。それが生徒会からの余計な圧力のせいだと考えると、ちょっとモヤ付くけれども。
〇
7月にも入ってくると祭り本番までは残り半月くらいということで、徐々に部活と学祭準備の比率が変わってくる。先々週くらいなら月曜日は部活メインで行けたのだが、俺も今日は学校祭関連の作業に回されている。
「お、
「……どもっす」
やってきたのは体育館のステージ脇、体育館倉庫やステージ脇に繋がる扉の前。待ち構えていたのは
「裏方だったのかぁ」
「え、何か意外でした?」
「てっきりダンスとかそういうパフォーマンスをする側で出演するモノだと思っていたから」
「そんなわけないですって」
俺の何を見てどう買い被ってくれたのかが全然解らなかった。リズム感は有る方だし、カラダを動かすのは好きだが、だからと言って人前で踊りたい欲は一切無いし、スポットライトを浴びたい欲もないわけで。
「そうかぁ、……残念だなぁ」
「何がですか……」
何故そこまで残念がるのやら。
「会長、ちょっと来てください!」
「おっと。じゃあ朝倉くん、後でね」
「……ッス」
他の役員に呼ばれ去って行く会長を見つつ、俺はひっそりとため息。
今日俺がここにやってきたのはステージ脇での裏方仕事――つまり、ステージ設備の操作の講習会に出るため。生徒会主催ということで何となく嫌な予感はしていたのだが、まさか会長が出張っているとは思わなかった。
部活の都合と学校祭準備委員会を請け負ったこともあって、クラス単位の出し物への出演が免除されその代わりに裏方仕事をする流れになったところまでは良かったのだが、まさかこんなオチが待っているとは。
余計な気疲れがしそう。そもそも何となく既に疲労感があるような。
主に精神的な方向での休憩を挟みたかったが、現実はそんなことを許してくれない。あっという間に各クラスからステージ装置担当者と思しき生徒が集まってきた。微妙に女子比率が高そうなのは、気のせいだろうか。いや、違うんだろうな。
「お! 集まりがイイねえ」
「かいちょー!」「雨夜会長っ!」
「やぁやぁ、どうもどうも」
会長が姿を現すなり黄色い声が上がる。手慣れた感じでそれに反応を返す会長。それを見てさらにキャアキャアという声が上がって危うくエンドレスループ。
人気者ってすごいね。キャアキャア言われ慣れているだろう人は、その声を増幅させることなんて朝飯前なんだね。俺には絶対に無理だ。顔からして違うし。
「もしかして各クラスみんな来てたりするのかな? ちょっと整列してくれますか? いち、にの……さんっ!」
くれますかの『か』を言ってからカウントダウンしながら手を叩けば、あっという間に列の完成。
いや、マジかよその統率力。
俺も何故か不思議と何となく引き込まれる感じで動いてしまったけれど。
動揺してちょっと遅れたけど。
会長、学校の先生とか保育士とか、あるいは歌のお兄さん的なヤツとか。
そういう仕事が向いているんじゃないか。
「あ、揃ってるね。じゃあ、時間ちょっと早いけど始めちゃいましょうか。みんなそれぞれの作業とか部活とか戻りたいでしょ?」
会長が訊く。肯定の返事こそ聞こえなかったが、会長の目にはきっと『はい、戻りたいです』と書かれた顔が並んで見えたのだろう。大きく頷きながら話を続ける。
「では早速始めましょう。点呼のために並んでもらっただけなので、あとは自由に好きなように中に入ってきてください。……暴れたり騒いだりしたらダメだけどね」
先導に従ってステージ袖へ向かう。雑然とした物置のようなスペースを経由してステージ脇へ上がると、会長はほぼ隠し扉のようなドアを開ける。開閉音はとても静かだ。
「やっぱり、こういうところのドアが開くときには、何か変な音がしたり、変なことが起きたりしてほしかったよね。……ね、朝倉くん」
「へ?」
いきなりおかしな弾が飛んできた。1発目から直撃を狙うのは止めてほしい。
「え、えーっと……コウモリが飛んでくるとかそんな雰囲気ですか?」
「そうそう、それだよそれ。隠し扉と言ったらそんな感じだよね」
何だそれ。っていうか、会長的にはその反応で正解だったんですか。
怖すぎる。俺のメンタル的ヒットポイントはもう半分くらい削られた感じだ。
誰か俺に回復薬をくれ。即効性のヤツを。
個人的には体育の授業中に何度か見ていたので扉の存在は知っていたが、実際に開けられたところを見るのは初めてだった。とはいえ、どこかの洞窟に繋がっているわけもないし、当然異世界へ続く扉なわけもない。
開いた扉の先にはただただ細く長い階段が続いていた。
「さぁみんな、こちらへ」
会長が数段登ったところで振り向いた。姫君の手を引くが如く、恭しくこちらへ手を伸ばしている。
しかし、誰も行かない。
牽制し合っているのか。さっきキャアキャアヒイヒイ言っていた女子連中が誰か先陣を切れば良いのに。ああ、でも、そこで誰かが言ってしまえば『抜け駆け女』みたいなことを陰で言われたりするのだろうか。それはキツイよなぁ。
でも誰かが行かなければどうにもならないような――。
「さぁ、朝倉くん」
「……ッス」
そうですね。それが賢明ですわ。
指名されれば仕方ない。
俺は一歩、一歩と足を踏み出し、会長に従った。
――もちろん、手は繋がなかった。
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