§2-3. 頼まれ事
「おーい」
「
選択科目とかでいっしょになったこともないはずで、当然俺は彼女の名を知らなかった。
少々小柄で人なつっこそうな笑顔がわりと印象的な子だ。
「何か必要なモノとかあるの?」
「あっ……、あー、えーっと……まだ委員会とか生徒会の仕事中……だよね?」
立待月は彼女にそう訊くが、当の宮越さんとやらは俺を見ると途端に言いづらそうな雰囲気を出した。ひと目見て、俺を学祭実行委員かもしくは生徒会役員だと思ったらしい。察しが良い。
「一応、その……買い出しに行かないといけないのがあるんだけど……」
「別に大丈夫よ?」
「えっ。……でも、まだ仕事中でしょ? そっちの彼とか……」
「仕事はみんなもでしょ? 宮越さんたちの手が離せないんだったら行ける人が行くべきよ。……それに、生徒会でもちょうど買い出しがあるところだったし、そのついででよかったら行くわ」
「ほんと!? それだとすっごく助かるっ」
そんな話があったのか。
今日の委員会に関しては俺はそもそも少し遅れてきているし、役員達はそもそももっと早く生徒会室に来て何らかの会議をしていても不思議ではない。
「じゃあ、えーっと、これがリストっ」
「了解。……もしかしたらちょっと遅くなっちゃうかもしれないけど、今日中なら大丈夫?」
「大丈夫!」
一件落着――。
「あ、丁度いいとこに! おい、
――とは行かなかったらしい。今度はウチのクラスからだった。
こちらに駆け寄ってきたのは
「ちょっとさぁ、頼まれてほしいのがある…………えっ」
いい、いい。余計なことに気付かなくていい。
面倒事をさらに引き起こさないでくれ。
「…………」
――だからぁ! そうやって立待月を二度見三度見すんな!
その後で変な事を言われるのは俺なんだから!
「どーした? 何か用事なんだろ?」
だから早く要件を言ってタチサレ――ということを言外に含ませる。
「……んぁあ、ちょっとテープとかその辺の細々したヤツが足りなくなりそうなんだよ。買い出し行けるか?」
「ああ……、まぁ、大丈夫だ」
「助かる~。ちょっと待ってな、今足りないモノのリスト作ってくるから」
頻りに立待月をチラチラと見ながら光太は教室へ戻っていった。
気付かれないとでも思っているのだろうか。見られていた側ではない俺でさえ視線の行き先に気が付いたのだから、見られていた張本人である立待月が気付かないわけがなかった。
30秒ほど待って、すぐに光太はリストを持ってきた。よろしくーと言い残しつつも、やっぱり立待月に視線は釘付けだった。
そんなにイイかね。
言い方は悪いけど。
たしかに見た目は良いけれども。
そこはしっかり認めなくてはいけないけども。
そんなわけでようやく会議室への帰路に就く。
無言というのもアレなので、場をちょっとだけ保たせようとしてみる。
「……ところで、さ」
「何?」
「そっちの買い出しは?」
「『買い出しは?』って、そりゃあ行くわよ?」
承ったのだからそれは納得なのだが。
「生徒会の買い出しってのもあったのか」
「無いけど?」
「へ」
あれ?
「今日はずっと委員会の仕事ってことでもないし、別に大丈夫でしょ」
「生徒会の方は?」
「そっちは無くもないけれど、今日中にやらないといけないってこともないし」
優先順位的には問題無いという事らしい。
「ってことは、さっきのは『やっぱりイイや』って言われそうだったから、って感じか?」
俺の質問に立待月は口でこそ肯定しなかったが、その眼差しで察する。
「頼みづらそうにしていたけど、ウチのクラスの準備もけっこう切羽詰まり始めてるのは知ってたし。クラスの方にあんまり参加出来ないのも申し訳ないしね。こういうときくらいはしっかりやっておきたいでしょ」
負い目とまでは言わなくていいだろうけれど、心残りのようなモノがあったらしい。
「……なるほどなぁ」
「何よ」
「俺のことはああ言ったけど、立待月もけっこう貧乏くじ引くタイプか」
人が良いというか何というか。安請け合いこそしないだろうけど、頼まれ事はあまり断らないような感じはする。
「……貧乏くじだとは思っていないけれどね、そもそも」
ふふん、と少しドヤ顔混じりで笑う立待月。それが本心なのか、あるいは強がりなのか。今の俺にはあまり判別が付かなかった。
「断
「別にこれは断る必要もない。みんなが楽しむための仕事なんだから、当然でしょ?」
素晴らしい奉仕精神をお持ちなことで。――だから生徒会に入っているのだろうけど。
「っていうか、あなたも買い出し頼まれたでしょ?」
「……まぁな」
じっとりとした視線を向けられた。散々人のコトを言っておいて――みたいなことを思っているのだろう。案外思っていることは顔に出すタイプらしい。
「行くんでしょ?」
「そりゃあな」
今更『無理だわ、あはは~』的ろくでなしムーブをカマす理由はない。そんなことをしたら人間性を疑われたとしても致し方ない。
「だったら私と変わらないでしょ」
「そうなるか」
「そうよ」
「なるほどな」
立待月は何度か頷いた。俺にどうにか理解をさせて溜飲は降りたらしい。――意外とコドモっぽいところがある。
「幸か不幸か、そっちのクラスとウチのクラスで欲しがっているモノは同じみたいだし、いっしょに行きましょう」
「え」
「何で嫌がるのよ、そこで」
「嫌がったわけじゃないけども」
弁解しながらも一応、立待月が手渡されたリストを拝見。たしかに同じ雰囲気だ。これだと恐らくひとつ遠いところにあるホームセンターに行くのが良さそうだ。比較的近場にも1軒あるのだが、すなわちそちらは赤向坂高校の生徒が学祭時期によくお世話になる場所。需要の高そうなモノはすでに他クラスによって
「じゃあ、この後行くか」
「ええ、すぐ行きましょう」
「荷物はどうしたらいい? 会議室に置きっぱなしとかでも良いのか?」
「それなら生徒会室に置けばいいわ。私のすぐ側にでも置いててもらえば大丈夫でしょ」
「助かる」
やはり立待月、話が早い。
とはいえ、ひとつだけ気になることが。
「ところで、これも『見張り』の一環か?」
「……ん?」
そんな、小首を傾げながらキョトンとされましても。
「言ってただろ。俺を監視する目的でマンツーマン体制にしたって。これもその一環なのか、って話」
「え? え、ええ、まぁ、うん。そうね?」
「何で微妙に疑問形なんだよ」
あと、何でそんなに動揺するんだよ。
指摘したらしたでまたヤブヘビな感じもするから黙っておくけれど。
「ちなみに、学校は何で来てる?」
「私? ふつうに、歩きだけど」
赤向坂高校は最難関校とまではいかないまでも、そのひとつ下くらいのランクに位置するレベル。そのためやや遠方から電車通学をしてくる生徒もいるし、もちろん徒歩圏であれば歩きでも充分だろう。
「じゃあ荷物は任せとけ」
「どうして?」
「俺は自転車だからな」
もちろんスピード重視ということで、俺のように少々の距離を自転車でやってくる者もいる。
「幸いカゴのデカいヤツを使っているから、そこに突っ込めばいいだろってことでさ」
「ああ、そういうことだったの」
「ん?」
何か承知いかなかったことがあったらしい。何だろう。
「てっきりあなただけさっさと行って来てくれるのか、あるいは私を放っておくのかと思ったから」
「え、何。俺ってそこまで無慈悲なニンゲンだと思われてたの?」
「冗談だってば。ほら、行きましょう早く」
先日からのこともあって、あんまり冗談に聞こえないんだってば。
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