§3-31. 宴の酣も半ばを過ぎて
「さて、そろそろ時間だけど、どうだい?」
「……ここから綺麗に見えます?」
「さぁ?」
何でそこでいい加減になるんですかね。
「今から屋上上がっても良いけど」
「それはそれで見づらくないです?」
「だよねー」
そんなこと言っている間にマイクを通したカウントダウンが聞こえてきた。クラス毎に制作した灯籠と生徒会で作った灯籠をひとつにまとめて擬似的なキャンプファイヤを作って再点灯して大団円――というのが例年の流れだそうだ。今年はそのタイミングで花火もあるよという流れを追加しているのだが。
「うおおお!」
「マジで!?」
「すげえ!」
グラウンドからは割れんばかりの歓声が上がっている。『成功』を信じるには十分するぎるほどの声量だった。
「……会長」
「これくらいの規模だと、やはり下から見るのが妥当だね。これはひとつの成果と言っても過言では無いね」
うんうんと納得したように頷く会長。冷静だなぁ。いや、そうじゃなくて。
「来年は作業担当者ももう少し見やすくなるような感じにできたら、良いよね?」
「その方がみんな楽しめますからね」
「そうそう! やっぱり
さらに嬉しそうに頷き続ける会長。ゴキゲンなのは構わないんだが、ちょっと引っかかる点はある。
「……それって、つまり俺にやれという話で?」
「僕は別にそこまでは言ってないけどね」
どうせそういう感じでしょうに。言外のエリアに詰め込めるだけ詰め込んでいるくせに。
「……考えておきますよ」
「それでこそ朝倉くんだね」
あまり高く買われても困るんだけどな。まぁ、期待されないよりは気持ちが良いので、その気持ちだけもらっておくことにする。
「よし! じゃあ今度は僕らの番だ! やるよ、生徒会バンド!」
――あ、あれマジなんだ。
「そういえば結局ベースがいないんだけど、朝倉くん」
「できませんって」
〇
生徒会バンドは結局のところ大成功だった。
盛り上がったという意味では充分に大成功だと思う。楽器を実際に弾いていたのは会長だけだったし、他はカラオケ音源でエアプレイだし、ボーカルも歌詞を見ながらだったりしたけれど、それが返って大ウケという流れを生んだのだからファインプレイだったのだろう。
――さて。
諸々が終わった後の校舎の中、3階。ここは生徒会室の隣にある小会議室。
居るのは、俺と、雨夜会長。そして
会議室のドアを開ける直前、ノックの音に返ってきた声に対してある意味当然ながら立待月は警戒感を隠さなかった。
「ちょっと……!」
中に入ろうとしたところで裾を掴まれ、そのまま近場の階段の踊り場にまで連行された。
気持ちは解るけどね。あれだけ俺とふたりでその一挙手一投足を注視し続けていた相手と、やたら
「朝倉くん、貴方もしかして寝返ったとか……?」
「違う違う。本人からも説明があるけど、会長は『敵』じゃないんだ」
「……本当に?」
「ホントだって」
ウソではない。少なくとも敵対する必要性は皆無になったのでウソは言ってない。その更に上で『実はお前の身内だ』という項目もあるけれど、そっちは秘匿条項なので黙っておくしかないのだが。
「……ウソだったら承知しないわよ」
「だからマジで大丈夫だって」
もしも俺を抱き込むためにウソを吐いているとしても、そんな不効率なことをするのかという疑問もある。ウソの内容があまりにも回りくどいし、余計な手順を踏んで俺を手籠めにするよりもあの時点で殺した方が早いだろう。俺ならそうするし。
「……うん。解った。信じるわ、朝倉くんを」
「そうしてくれ」
どうにか立待月も納得したらしいので、改めて小会議室のドアをノックし直して入室。少し苦笑い気味の会長は概ね状況を理解しているらしいので、安心――なのだろうか、これは。ちょっとよくわからないけれど、少なくとも第一段階は突破したような気はした。
「まずは、ふたりともお疲れさま」
「お疲れさまです」「お疲れさまです」
「花火は、上から見てどうだったかな?」
「え?」
天気の話を振るのと同じような感じで、会長は切り出す。実益を伴っている話題提起。
「……綺麗でしたけど、たぶん下からの方が綺麗だったんじゃないですかね」
「みんなは盛り上がってた?」
「それはもう」
立待月の声が満足そうだ。
「なるほどねえ……。いやぁ、イイ情報が採れたね、朝倉くん」
「俺に振らんでください」
まだその話はしてないんだから。
「……とまぁ、そんな前振りはさておき。ここからが本番というか何というか」
「あら? そういえば、朝倉くんは下から見てたんじゃないの?」
すんなりと予定通りには行かないらしい。矛先を立待月が変えてくるとは思わなかったが。
「ああ……それは」
「朝倉くん、ちょっと校舎の方に用事があったらしいんだけど、そこでちょっと怪しい影を見たらしいんだよ」
わりと核心を突くようなことを訊かれて、さてどうしたものかと思っていたところだったがさすが会長。この辺りの手回しは早い。
話の内容としては概ね合っている。だが、あくまでも
「……へえ、そうなんだ」
睨まれた。虫の居所の悪そうな雰囲気は隠さない。果たして、どういう心境で俺を睨むのか。現代文の試験で出題されそうだが、俺はきっと誤答するんだろう。
「実は僕もちょっと妙な感じを覚えていろいろ確認していたんだけど、同じような感じの朝倉くんを見つけて、せっかくだからとしばらく一緒に見回りをしていたって感じだね」
「そうなんですね」
会長がそのまま説明をあっさりと締めた。立待月の口調からすればそこまで納得はしていなさそうだが、攻め立てられそうな部分も見つからないので大人しくしておいた。そんな感じだろう。
「……そうなの?」
うん、やっぱり信じてない。仕方ない部分はあるけれど。
「ああ」
極力早い反応を心がける。会長はともかく、ここで俺まで信用を失うとこの後の話に繋げられなくなってしまう。
「ふうん……。理解はしたわ」
納得はしてないけど――という意味だろう。
「それで? 顛末は?」
「異常は無し。……俺と会長で挟み撃ちするみたいな感じで、鍵を開けた扉の方に誘導するようなことはしたから、何かが居たとしてもそこから出て行ったか、あるいはただの気のせいだったか。そんな感じだ」
「なるほどね」
ウソ7割だったが、信じてもらえたらしい。わりとしっかり心苦しくなったが、今は仕方ないと自分に言い聞かせる。会長はやたらと『やるねえ朝倉くん』みたいな顔をしてくるが、まだ俺はそこまで墜ちてないと思いたい。
間違っても言えないだろう。会長の防御術だの翼だのの話になんて持って行けるわけがない。
「朝倉くんには申し訳なかったわね」
「え? 何でだ?」
しかし突然立待月から謝られる。そんな要素はひとつも無かったはずだが。
「だって本当なら、花火の担当者以外はみんな見られたはずなのに」
「何だ、そういうことかよ」
全く、
「俺は自分の意志でやったんだから、気にするな」
「そうだよ。朝倉くんはもう来年の花火の改善点を考えているんだから」
――何だか、巧いこと話の流れを作らされてしまったような気がする。
最早見慣れた光景。会長は腕を組んで、満足げに何度も頷いた。
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