第20話 攻守トランプ

「雌雄を決するときがきたァァァ!!」

「フッ。毎月、子羊の誰かに噛付かれるとは我は人気者だな。流石は神たる我」


 今回だけでなく、毎月勝ちが多い人とタイマン勝負をしている。今回が初めてではない。だからこそ幸也は現人にカマをかけれたのだ。


「いってろッ! 今日こそ勝つゥゥゥ!!」

「負け犬はよく吠える」

「どっちが犬だァ! とっとと始めるぞ!!」


 シアターには次々と星座や銀河が映し出される。二人は妄想する。


「ゲーム内容はアレか?」

「当たり前だァ。そのために用意もしてきた!」


 龍治はトランプを取り出す。


「俺はスペードを選ぶぜェ」

「我はハートだ」


 マークにはそれぞれ意味がある。スペードは貴族や騎士。ハートは聖杯や僧侶。ダイヤは商人や金。クラブは農民や棍棒を表す。


「ルール説明はいるかァ!?」

「後付けされると面倒だ。擦り合わせの意味も含め理を示せ」


 理一、マークを一つ選び、一から一三とジョーカーを含めた一四枚を持つこと。

 理二、奇数は攻撃、偶数は防御。数字が大きいほうが勝つこと。

 理三、同じ攻撃の場合は、数値の大きいものが勝つこと。

 理四、防御同士なら何も起きなく、ただカードを無駄に使うだけになること。

 理五、攻撃を受けるとダメージ一が加算され、合計ダメージ四で敗者となること。

 理六、一三はジョーカーでカウンターでき、ダメージ二を与えること。

 理七、ジョーカーは攻撃や防御に使えない。一や防御にすら負けること。

 理八、先攻後攻に別れ、両者が選び終えたあと同時に見せ合うこと。

 理九、攻撃を与えた者が先手に変わること。

 理一〇、先手がカードを選び終えると、後攻が推測する時間が与えられること。

 理一一、時間は二分。先攻は後攻の問いに答えること。ブラフもありのこと。

 理一二、全てのカードが無くなったときは多くのダメージを与えた者が勝者となること。


「攻守トランプを始めようぜェ」

「ふっ。子羊は理すら満足に示せないときた」

「アァン!! どこが可笑しいってェ!? エェ!?」

「はぁ。ダメージが同数のとき、神である我の勝利か」

「クッ。アァァァ!! それでいいさァ!!」


 現人の指摘は的を射ている。それに気付けなかった龍治は悔しさのあまり叫んだ。


「なら先攻は我だ。神に挑みなさい」


 現人は一枚のトランプを伏せて出す。トランプは等身大になり浮く。もちろん妄想中で。


「ッハ! 見下ろした態度もここまでだァ」


 龍治は問答をせずトランプを出す。ある程度人読みができるといっても心理戦は必要だ。


「ふんっ。愚策にもほどがあるぞ」

「勝つのは俺だァ!! トランプオープン」


 トランプはゆっくりと回り、数字を相手に見せる。


「俺はァ、攻撃の一一だァァァ!」

「つまらない男だ。フッ、防御の一二だ」

「クッソがァ!」


 この場合、防御成立となり両者ダメージを受けない。ただし龍治の攻撃回数は減った。ダメージを与えた者が勝つこのゲーム。七回の攻撃チャンスをいかにものにするか。先後はそのままにゲームは進む。


「フフッ。マイクパフォーマンスくらいしてほしいものだ」


 現人はトランプを選び終え、すぐ龍治の番になる。


「ッチ。そのトランプは攻撃かァー防御かァー」

「まったく。雅さに欠ける。答えるわけないだろ」

「ったくよォ」

「愚かさを得てまで神に挑むとは……」


 莉乃と幸也も勝ったときは現人と一対一でゲームをしている。龍治だけが挑んでいるわけではない。ただ彼の執着心は他の二人より大きい。


「ハンッ。下々には目もくれないってかァ。流石神を自称するだけはあるなァァァ!」


 嫌味である。


「神の手でも全ては救えない。零れ落ちる者を気にして、救えるものを疎かにするのは愚の骨頂。それくらい理解できるだろ?」

「もちろん理解も共感もする。ただ、そういうことじゃないんだよォ。そういうことじゃァァア!!」

「勝ってから言え」

「ァァァア!! お前はァ、そうやって俺らを見下すゥ! 普通ならァそれに怯むがァ、俺は反骨真の塊だァァァ!! お前には負けねェェェ!!」


 龍治は選ぶ。そして二人は同時に叫ぶ。


「トランプオープン!!」


 そして回り出す。


「我は攻撃の三」

「俺の読み勝ちだァァ!! 攻撃の七ァ!」

「っく」


 攻撃力三と七。現人にダメージ一が入る。


「少しは足元が見えたかよォ!!」


 龍治はドヤ顔だ。それに現人は見下し気味に言い返す。


「子羊の抜け落ちた毛髪くらいなら見えた」


 ダメージを受けないと次も現人の先攻だ。ターンが増えるごとに先制は有利なる。だが結果は見ての通り。攻撃同士なら数値の高い者が勝つ。


「ハァン!! マイクパフォーマンスしろよォ!」


 龍治は選び終え煽る。


「ふむ。なら聞こう。何故ゲーム中の我にそこまで執着する?」


 現人には心当たりがあるが、結論付けらけるほどの根拠はない。


「答え合わせといこうじゃないかァァァ!」


 龍治は少しだけ真面目に答える。


「抑圧された性格おもいを開放しているからだァ。有り体に言やァァァ! 俺とお前だけがキャラぶれしてねェーんだよォ!! この答えに花二重丸はもらえたかよォォォ!!」

「勿論だとも」


 ゲーム時、日常から完全に乖離しているのは現人と龍治だ。莉乃と幸也も普段と違うが、この二人ほどではない。龍治はそれに固執し同レベルの現人に執着した。


「お前の考えも見えてきた」

「ならご高説願おうじゃないかァ!」

「簡単だ。我に執着する故に、先ほどと同じように裏をかきにくる。ならこのカードは攻撃ではない。防御だ」


 防御対防御にすることでカードを無駄に使わすことができる。


「御託はいい。数字を読んでみろよォ!! 神様よォォォ!!」


 現人はニヒルに笑う。


「防御の二と言いたいところだが、愚か者は羊のくせにチキンときた。ならここまで大胆には選べない。結果、防御の四だ」


 現人は選び終える。


「いつまでも昔の俺だと思うなァァァ。人間は成長するゥゥゥ!! トランプオープン!!」

「我は攻撃の五」

「俺は防御の八だァァ!! どうだ神よォ!! 己の未熟さを思い知ったかァァァ!!」

「我は神だ。下々のことなど気にかけぬ。故に愚か者の特権を忘れていた」


 読み間違えてもただでは済まない。現人は傲慢さで煽り返す。


「なら次も思い出させてやるよォァォ!! 愚か者に問いかけな堕神だしんめ」


 龍治はカードを選ぶ。


「我を堕神と貶めるな!! 我が堕落するなどあってはならないことだ」

「なら読み勝てよォォォ!!」

「くっ。今回も防御を選ぶのは性格上明らかだ。ただ先ほどのこともある。大胆な数値を選びそうだが……」

「ハァ。人間は成長する者だァァァ!!」


 龍治は真面目な顔で忠告する。


「ふん。今回は我の勝利だな。トランプオープン!!」


 現人は選び叫ぶ。


「攻撃の九」

「俺は防御の一〇だァ!! どうしたァァァ!?」

「祈りは不要だ。カードを選べ」


 現人は即座に次を催促する。


「アァン? その減らず口を黙らしてやるゥゥゥ」

「子羊の考えが手に取るようにわかるぞ。我はこれだ」


 二人はすぐに選び終える。


「トランプオープン」


 二人の声が重なる。


「我は防御の八」

「クッソ! 俺は攻撃の五だァ」

「足元を見た幻想はさぞ気持ちよかったか?」

「次で腰まで登ってやるゥ」


 龍治は今までと違って、少し考えてから選ぶ。


「考えても子羊は足元すら到達できない。それをこのカードで示そう」


 先ほどと同じように現人は即選ぶ。


「戯言はいらねェェ! トランプオープン!!」


 ゆっくりと回り出す。そしてお互いの数字が露わになる。


「俺は防御の六だァ!!」

「我も防御の六だ」


 現人は狙って同じ数字を選んだ。


「我は示したぞ。子羊はどうだ?」

「……クッ。次は俺が示すゥ!!」

「子羊の狙いも読めた。トランプオープン」


 二人は間髪入れず選び終える。


「俺は攻撃の三だ!」

「っく。我は……防御の二だ」

「ざまァーねーなァ!! 何が読めただ!! 笑わしてくれるぜェ」


 これで現人のダメージは合計二だ。

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