第35話 混合
次の予選種目は男子混合クラス対抗リレー。その次はスウェーデンリレー。そして団体戦の大縄跳び。一〇〇m走予選二回目で昼食休憩に入る。二回目の第一はSBJJ。第ニはAIEG。この二回目の上位二クラスが決勝に出れる。
昼休憩後はチアや応援団、吹奏楽部のお披露目である。山次郎はここで何かをするようだ。そのときは一、二年生も再びこの競技場に戻ってくる。その後はまた別れ学年ごとに競技を行う。
午後一の種目は障害物競走だ。一〇〇m走決勝。借り物競走。混合リレー決勝。二人三脚。スウェーデンリレー決勝。そして閉会式となる。
開会式はスポーツで優秀な成績を収めた生徒が宣誓するが、閉会式は三年生の優勝クラスの代表が行う。故に突拍子もないことをいう生徒や、告白しだす生徒などなどバラエティに富んだ締めが味わえる。
「続いて男子混合クラス対抗二〇〇mリレーを行います。選手は運営テントまで速やかに移動を開始してください。繰り返します。選手は――」
既に下に降りていた選手たちはアナウンスを聞き移動を始める。運営テントでは各走者のスタート位置を指示していた。といってもこの競技場は他と同じで一周四〇〇mだ。
混合は一人二〇〇mを走る。スタート位置は分かりやすい。第一の和子と第三の美沙が正面側。
「それは先生お願いします!」
「on your marks! SET!」
選手たちはクラウチングスタート。再び大きな音が鳴る。
「出遅れもなく皆一斉にスタート!!」
実況するも、その声は生徒たちの歓声や応援で掻き消される。それほどまでにリレーというものは盛り上がる。
「出遅れも飛び出しもなく一斉にスタート!!」
二〇〇m。長いようで短く、短いようで長い。終始全力疾走は難しいがスポーツ組はやり遂げる。それは強さでもある。それでも人間。等速は不可能だ。後半はスピードが少し落ちる。
スタート地点では走者以外の生徒たちがスターティングブロックを邪魔にならないように片付ける。一五〇mを過ぎた頃、順位の変動が起きた。
「ここで特待生が一人を抜いたか!?! その表情には余裕があるぞ!! 他の生徒は苦しそうだ!!」
和子は殺陣訓練を毎日数時間欠かさず行う。瞬発力を持続させるのは普通の人よりも得意だ。ただスピード自体は平均並み。前には速い生徒が二人もいる。
「和子!!」
「おい!!」
「こっちだ!! こっち!!」
三組ほぼ同時にバトンが渡る。
「うぉっしゃー!!」
一翔は走りながら雄叫びをあげる。そして一気に加速する。余力を考えない走りは即座に一位に躍り出る。そして、あっという間に美沙にバトンが渡る。普段の軽そうな雰囲気から一転。表情は鬼気迫るもの。後続の走者を引き離す。
「英知!!」
バトン渡しも大きなロスがなくアンカーの英知に委ねられた。
「これは速い!! 松茂君もかなり速かったが柴浦君も速い!! 速いぞ!! 各クラス陸上部をアンカーに据えていますが差が縮まらない!! そして……今!! ゴール!! 結果は特待生の圧勝!! 流石Sクラス!! 優遇されるだけのことはあるぞ!!」
生徒たちの歓声が競技場にこだまする。アナウンサー役の生徒も声量をこれでもかとあげる。
「ゴールした柴浦君の元に各走者が笑顔で集まってきます!! 特待生たちの友情!! 青春!! 何か滾る物があります!! そして全クラスゴールしました!! 一位はSクラス!! 圧倒的でした!! そして二位はJクラス!!」
混合リレーでは陸上部所属の生徒は一人しか出られない。だが最後のスウェーデンリレーでは二人まで出られる。ここまで圧倒的な勝利はまずないだろう。
「熱も冷めないままに二回目に移ります」
一翔と和子はゴール側から客席に移動を始める。英知と美沙は次の競技ためにフィールドの脇でストレッチ。
「二人ともおめでとう」
戻っていた二人は通路で現人と良太に出会った。現人はハイタッチの構えだ。
「おう!!」
「うむ!!」
気持ちがいい音が二回鳴り響く。通路故に客席よりよく響く。
「ほら君も」
「仕方ないなー。そこまで言うならやぶさかでもないさ」
「まったく素直じゃない」
「う、うるさいな!! 熱血少年!! ほら!! ハイタッチだ!!」
委員長に促され良太は構えを取る。
「おう!!」
「うむ!!」
少し鈍い音が二回小さく鳴る。
「だからしたくなかったんだ!!」
「お、おう。なんか悪いな」
「音にも本人の性格が出るのか。一つ勉強になった」
「……和子。それは流石ないよ」
彼女は真面目に首を傾げる。
「良くも悪くも彼には脂肪が全然付いていないでしょ?」
「もっと肉を付けないと躰によくないぞ。脂肪もある程度必要だぞ」
「そんなことわかっているわ!! 食べてもつかないんだよ!! クッ!!」
女性にとっては羨ましい体質であるが女性にこそ体脂肪は必要である。良太は一人でいじけていた。
「オペラ歌手をイメージしてくれるかな」
現人の説明に和子は相槌を打つ。
「ふくよかな人が多いけど、よく声が響くよね。だけど彼の手は皮と骨だけだよね」
「なるほど。骨で鈍い音になったのか」
「正解だよ」
実際は細身のほうが声はよくなる。籠らないし、口周りや喉に余計な重量を背負い込むこともない。不必要な力がかからない。声の通りがよくなる。現人はこのことも知っているが、説明しやすいイメージとしてオペラ歌手を引用した。
正しく述べることも時に必要だが、日常的な会話ではイメージが求められるのだ。生徒の歓喜や落胆の声が通路にこだまする。
「ほら!! さっさと行くぞ!!」
良太はあからさまに話題を切り替える。
「改めて二人ともお疲れ様」
「おう!! 頑張れよ!!」
「期待しているぞ」
三人は笑い合い歩み出す。一翔たちは応援するために客席へ。現人たちはトラックへ。
「遅かったな」
「おそーい」
「ごめん。通路で一翔たちと会ってね」
活動的なストレッチをしていた二人は納得した。そんな二人に現人は心配そうに尋ねる。
「選んだ私が聞くのも可笑しいけど二人とも大丈夫?」
「無論だ」
「もちろん!」
英知は不敵に笑い、美沙はガッツポーズ。二回目のリレーはAとGが勝った。男女混合リレー決勝はSAGJの四クラス。
「身体温まっているのか?」
「みんなが出場している競技中は無理だけど、それ以外はではちゃんと熱を維持していたからね。筋肉は十分に解れているよ」
特待生たちは客席でも体を冷やさないように軽い柔軟や階段の昇り降りをしていた。その中でも特徴的だったのは奈恵だ。大きな深呼吸で肺を膨らます。吐くときは腹筋や横隔膜を使って息を鋭く一定に吐く。声優らしいギアの維持だ。
「もちろん君も大丈夫だよね?」
客席では常に奈優と座って観戦していた良太。現人は念のために聞くが、その返しは手に取るように分かる。
「はぁ!? 当たり前だし!!」
そう強がりだ。
「君にも期待しているよ」
「ふんっ!!」
「しっかりしてよね」
「僕はエンターテイナー。それも勝ってリスナーを魅せる手法だぞ!!」
「任せた」
最後は英知が締めた。
「スウェーデンリレー予選を開始します。選手は運営テントに集まってください。繰り返します」
男子混合二〇〇mリレーとは違ってバトン受け渡し位置はバラバラだ。正面をゴール位置にする関係上、第一走者はコーナーからのスタートになる。走者はそういう位置関係を運営テントで通達される。そして各自が自分のスタート位置に向けて移動し始めた。
「予選は必ず突破するよ」
「もち!」
「任せろ」
良太は何故かこの場面で粋がって
「当たり前だし!! 何!? 君は負けると思っているわけ? Sクラスの委員長ともあろう者が? クラスメイトをよく分からない青春に巻き込んだ君が? 笑わせてくれるよ。まったく。でも、まあ、この僕がいる。負けるわけがない!!」
だが他の三人は早々に移動を開始していた。良太は誰もいない場所に向かって話しかけたことになる。とても痛い行動だ。いや、近くには実況の生徒と教師が数名いた。
「あのー。足、震えていますよ? 怪我なら無理せず医務室に……」
「あっ……いや、あっ……そのー、だ、大丈夫でしゅ。し、失礼しました!!」
良心からくる生徒の問いかけに、良太は逃げるようにスタート位置に向けて走り出す。本番さながらなスピードだ。それを見ていた現人たちは気合十分だなと思うのであった。
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