第7話 多種多様

「では、紹介していきます」


 先程と同じように、プロフィールが映し出され現人が紹介する。その間、画材などは片付けられタワーパソコンが設置されていく。茅池有梨華。低身長で茶髪の長髪。顔つきは綺麗系。体形は幼児体形ではなく年相応だ。全国模試五位。仕事はハッカー兼プログラマー。


 ハッカーと言ってもホワイトのほうだ。ホワイトハッカーとは、高度な知識や技術を善良な方向に生かす者のことである。作成したセキュリティーソフトの性能を確かめるために攻撃し、弱点や性能評価をしたり、高度な知識から企業へアドバイスをしたりする。


 有梨華はその技術を生かし、企業向けのセキュリティーソフトやファイヤーウォールなどを提供している。彼女のおかげで、この学校のネットワークシステムは大幅にアップデートされている。


「面倒臭がらずに話してね」


 紹介し終えた現人は注意しながらマイクを渡す。


「よろしく」


 案の定、有梨華は発声を面倒くさがって一言で済ます。彼女はマイクを返し、設置されたパソコン前に座る。画面がプロフィールからパソコン画面へ変わる。


『改めてよろしく!! 声出すより、打ち込む方が速いから、こっちで慣れてね』


 かなりの面倒くさがり屋だ。いや、この場合は効率を求めた結果かもしれない。


『じゃー今回は学校にハッキングをかけて、一年生で一番成績が良い人を特定しますね』


 表示された言葉に一年生はざわつく。


「事前に、教師から生徒に打診して了承を得ています」


 ざわつきは収まる。


『ありがとう。五分くらいで特定するから。技術的な解説は現人よろしくね』

「ということで、有梨華に合わせて解説します。質問は終了後にお願いします」


 山次郎のような盛り上がりには欠けるが技術的には同等だ。現人は分かりやすく、映し出されている数字や英語の文字列、ツールの解説をする。そして、画面に一人の生徒写真が映し出された。


『この生徒だ!』

「正解です。有梨華とハッキングを了承してくれた彼に大きな拍手を」


 大半の生徒は困惑しながら拍手をしているが、成績優秀の彼や彼の友達、パソコンが得意な者の拍手は先ほどと同じだ。


『あ、学校のソフトはアップデートするから、皆心配しないでね!!』


 教師陣に安堵の色が浮かぶ。有梨華は颯爽と椅子に戻る。


「次は桑沼くわぬま和子かずこです」


 呼ばれた女子生徒は、ゆっくりとステージの真中へ移動する。他の生徒と比べると、制服のスカートがマキシ丈と言われるほど長い。なんといっても目に付くのは左手に持っている日本刀だ。和子は熱烈な拍手に迎えられる。


「紹介します」


 桑沼和子。剣道インターハイ個人戦を二年連続で制覇。年齢制限のため三段で止まっているが、古武術桑沼流を幼少期から習っている。段以上の実力は有している。流派の主要武器である日本刀で、熊と死闘を繰り広げたいと和子は公言している。父は政府要人警護を賜り、祖父は門下生や自衛隊員を指導している。


「マイクをどうぞ」


 和子は堂々とした態度で受け取る。


「武道を嗜む者の挑戦はいつでも受けよう」


 彼女は少し男勝りな口調だ。


「日本刀はパフォーマンスに?」

「もちろんだ。真剣で演武をする。出てきてもらおう」


 防具と刀を装備した屈強な五人の男たちが、和子を囲むように陣取る。現人は音も立てずに、滑るように陣の外へ動く。それを見届けた和子はゆっくりと刀を抜く。一年生は初めて見る刃文はもんに魅了される。


 刀の持つ独特の雰囲気は凄まじい。和子が持つことでそれが一年生に指向する。男たちも一斉に刀を抜くその様は、後ろの生徒たちにも見えるようにカメラで捉え液晶に映し出された。


「お願いします」

「「お願いします!!」」


 そして沈黙が場を支配する。


「はっ!!」


 和子は鋭く息を吐き、瞬時に男の胴に一振り。次はその勢いのまま回し蹴りを放つ。他の四人は素早く和子に詰め寄る。和子は回し蹴りの体勢のまま、片足で後方へ飛ぶ。着地した場所は詰め寄ってきた男たちの間合い。


 だがそれは同時に和子の間合いでもある。男は刀を振り下ろすが、和子は勢いを消さず流れるように切り上げる。瞬く間に二人をのし、残りは三人。


 和子は男たちに突撃するがごとくに翔る。男は我武者羅に任せ振り下ろすが、和子は股の間目掛けてスライディング。そのときに膝裏を刀で叩く。二人の男は和子に飛びかかる。体制を起こした和子は一刀で、同時に二人を受け流す。


 そして一人の首に刀を当て、もう一人の首裏を踏み動きを抑える。まさに神技。


「勝負あり!!」


 一年生は呼吸を忘れ魅入った。それほどまでに鋭く冷たい演武は和子の圧勝で幕を閉じた。


「ありがとうございました」

「「ありがとうございました!!」」


 礼に始まり礼で終る。


「諸君らの挑戦は常に待っている」


 和子は盛大な拍手に送られながら颯爽と戻る。男たちも捌ける。現人は意識して優しい声で茶化す。


殺陣たてに飲まれるのは仕方ないですね」


 そのおかげで一年生は緊張を解していく。


「続きまして、小梅美沙、柴浦英知。順番が飛びますが、松茂一翔の三名の登場です」


 全国的に有名な三人は、今日一番の拍手で迎えられる。三人ともユニフォーム姿だ。


「パフォーマンスの関係で一緒の紹介となります。まずは美沙からです」


 小梅美沙。ギャルっぽい可愛さで、世界的に活躍しているバドミントン選手。また人気に火を付けた立役者である。


 柴浦英知。地元サッカークラブに所属しているが、卒業後はミラノ一部のサッカーチームに移籍することが決まっている。ポジションはフォワードよりのミッドフィルダーだ。トップ下や攻撃を展開する役割を持つ場所だ。学校生活はダルそうにしているが、サッカーに関わることには積極的だ。それはファンサービスにも表れ、爽やか王子と親しまれている。


 松茂一翔。投げてよし、打ってよしの二刀流。一六〇キロのストレートが話題になりがちだが、変化球もピカイチだ。ホームランや盗塁も多い。またライトの守備に就くことも多々ある。日常生活から熱血である。特待生クラスの中では脳筋タイプだが、一般生徒と比べると学力も優秀だ。


 卒業後はメジャーチームに入団し、スプリングトレーニングの結果次第だが開幕投手が濃厚だが、当の本人は開幕投手より、甲子園連覇に意識が向いている。


 英知と一翔は幼馴染だ。二人はリトルで、ツートップやバッテリーを組んでいた。そのため二人の絆はとても固い。


「改めて説明するほどでもないですね。皆さん待ち望んでいるのが、手に取るように分かります。それでは三人にお渡しします」


 最初は美沙だ。


「みんな元気? 美沙だよ。よろしくね!」


 イントネーションも少しギャルっぽい。


「初めまして。一翔共々、応援よろしく」


 ダルそうな態度から一変、爽やか王子の名に相応しいスピーチ。


「みんなよろしくな!! 野球しようぜ!! いつも応援もありがとうな。これからも頼むぜ!!」


 熱血全開の一翔はお誘いとお礼を述べた。マイクを現人に返し、三人はピンマイクに切り替える。


「それでは準備を始めて下さい。その間に一緒のパフォーマンスなのか説明します。身構えるほどの理由ではないです。単純に、このステージ上でできることになると限られまして……。三人を一人一人紹介してしまうと、ライブペインティングや殺陣と比べると派手さに欠けます。なので纏めました。それでは準備が整いました。美沙からです」


 現人はアイコンタクトで美沙に流れを渡す。


「みんなにバドミントンの凄技を見せるね」


 美沙はトレーナーからラケットを受け取り、軽いラリーを始める。英知と一翔はストレッチで身体を温める。


「よし! それじゃーやるよ」


 美沙は説明しながら、数十回後ろ向きで返球する。


「基本のスマッシュとか、みんな知っているよね」


 笑顔で一年生に確認する。


「だから、地面スレスレの返球とフェイントをするからね!」


 腕の使い方や目線、体勢が崩れていてもできる技術を見せながら解説するが、理解できる一年生は少ない。それでも有名税なのか、視線は美沙に向いている。


「ちゃんと見てくれて、ありがとうね!!」


 美沙は羽にサインを書き、一年生に向けてハイクリアーを打つ。


「という感じ! みんな、バドミントンも楽しいよ。一緒にやろうね」


 元気よく勧誘した美沙は椅子に戻る。トレーナーも掃けた。

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