第8話 お遊戯会

「おはよう! ステージはサッカーができるほど広くないだろ。だからリフティングを見てね」


 英知と一翔は距離を取り、パスを始める。裏では職員がストラックアウトの準備している。


「えーっと、美沙みたいに解説するのは苦手です。だから単純に楽しんでほしいな」


 英知のサポートは一翔だ。そこは二人だけの世界。男子はボール捌きに目を奪われ、女生徒は二人のイケメンに目を奪われる。


「昔より上手くなったじゃん」

「投手は下半身も大切だからな!」


 二人はボールで心を通わす。解説が無い故、トリックが多く目がよく奪われる。


「ありがとうございました! 少しでもサッカーの楽しい所を知ってもらえたなら、嬉しいな」


 最後は爽やか王子たらしめるハニカミ笑顔。ボールにサインを書いて、スローインで一年生に渡す。英知は椅子に戻った。ステージ中央にはグローブを付けている一翔だけが残った。


「次は俺の番だぜ! 見てもらって分かる通りストラックアウトをします。って言ってもここはマウンドじゃない。全力で投げられなくてごめんな!」


 一翔は勢いよく頭を下げる。


「代わりに番号言ってくれ! それを打ち抜くぜ! リクエストは何番だ!?」


 大きく聞こえた番号に応える。


「じゃ、五番狙います!」


 一翔は軽く投げ宣言通り打ち抜く。


「次は何番?」


 先ほどのやり取りを繰り返し、全ての番号を打ち抜く。そしてボールにサインを書いて、下投げで一年生に渡す。


「これからも応援よろしくな!!」


 パフォーマンスが終わり、三人分の拍手が響く。


「三人ともありがとう。次に紹介するのは、このステージ本来の使用方法です。中羽なかは希子きこ長藤ながとう加奈未かなみ堀村ほりむら奈恵なえの三人です」


 幼いが品がある生徒。オシャレを満喫しているモデル歩きの生徒。幼くちっちゃい天真爛漫な生徒。制服姿の三人が現人の傍まで歩み寄る。


「希子から紹介します」


 プロフィール紹介と共にピアノ設置や楽師が準備をしだす。楽師は特待生以外の三年生や二年生だ。中羽希子。職業ピアニスト。若干一七歳でショパン国際ピアノコンクール一位を収め、明るい曲は世界一だと絶賛されるほどの腕前である。国内外からリサイタルの依頼が絶え間なく来ているが、今は学校生活を優先している。


 父方が大企業創業者一族である。清楚で儚げな雰囲気を醸し出すお嬢様。幼い外見と子供舌、仕草も少し幼い。可憐は彼女のためにあると一部から言われている。細く綺麗な黒髪セミロング。


 長藤加奈未。モデルから歌手デビューをしたマルチタレント。モフモフやお菓子が大好き。ハンドメイドやお菓子、煮込み料理までこなす。高い女子力の持ち主。少し抜けているが、世間では憧れのお姉さんキャラとして定着している。


 同性の購入者が多い写真集は、歴代売上トップ三に食い込んだ。メディアに取り上げられていないが、釣りや登山、素潜りやDIY、サバイバル的な趣味も持つ。日常生活から活き活きしており、ポジティブな性格だ。


 堀村奈恵。職業声優。幼いキャラから低音地味キャラまで、なんでもこなす演技派。キャラが実在しているかのような演技に定評がある。学業もあり別撮りが多い。腰まで届く綺麗な黒髪を二つに纏めている。おろしツインテールと言われるやつだ。性格は天然でドジっ子。フワフワしているが、仕事は要領よくしっかり熟している。


「一言頂いたら、準備のため一旦裏に掃けます。それでは希子からです」


 希子は照れるように笑い、現人からマイクを受け取る。


「皆さん、ごきげんよう。中羽希子です。宜しくお願い致します」


 希子は加奈未にマイクを渡しピアノに向かう。


「初めまして。テレビで見たことあるかな? 長藤加奈未です。皆、楽しんでね!!」


 加奈子は笑顔で手を振る。


「えーと、堀村奈恵です。応援ありがとうね!」


 声優独特な発声で元気よく名乗る。加奈未と奈恵は一旦ステージ裏へ掃ける。


「それでは希子のパフォーマンスです。ショパン、華麗なる大円舞曲です」


 トン、トトンと音が踊り出す。この時、この瞬間に感謝しながら一人の女性に向けた曲。それは一年生と教師へ向かう。三年生の希子から一年生に送る音楽だ。可憐で軽やかな音色は希子の技術で本質を増す。憧れのような淡さを秘めたウィーンの風や臭いが漂ってくるようだ。


「――ありがとうございました!」


 一礼した希子に拍手の嵐が襲いかかる。希子は恥ずかしそうに手を振り、再び頭を下げ拍手に答える。


「次はアップテンポで可愛い曲をお送りします」


 ピアノイントロが可愛らしく始まり、身体がリズムを刻みだす。ドレスアップした加奈子と奈恵が脇から登場し、軽やかに中央へ移動する。ライブに早着替えの技術は必須だ。


「皆、楽しんでね」

「一緒に楽しもうね」


 二人に野太い声と甲高い声が木霊する。二人の容姿と相まって、希子の音色はさらに魅力を増す。音楽ホールの熱量が一気に上がった。


「――」


 加奈子は一音一音、点で歌う。逆に奈恵は面で歌う。歌手と声優で唱法に違いが出ているが、二人のデュオは協和音を紡ぐ。


「――――」


 希子は身体を揺らしながら鍵盤を叩き、奈恵は小鳥のようにステップを刻む。加奈子は手拍子でコールアンドレスポンスを求める。一年生からは、はいはいはいやふぅーなどの合いの手が上がる。


「――」

「―――」


 そしてあっという間に音楽会が終わる。


「――ありがとうございました」

「ありがとうね!!」

「楽しんでいただけたでしょうかー!」


 一年生は大きな歓声で応える。三人は大きな歓声と拍手に包まれながら席へ。


「ありがとうございました。今が一番盛り上がっていますね。次は四人一緒に紹介します。夏川龍治、野多幸也、藤川咲、耶翠莉乃です」


 呼ばれた四人はステージ中央に移動し紹介される。


「藤川咲から紹介します」


 藤川咲。プロ棋士四段。普段はホワワーンとしているドジっ子で天然気質。幼く見られないために、明るい茶髪に染めている。家事全般できないが全国模試四位。試験や将棋に関するときだけ、天然はなりを潜める。普段は素で男受する口調だ。祖父が碁打ちのため囲碁二段を有している。古風物好きで服装や持ち物のほとんどが和風だ。


「はじめましてぇー。藤川咲ですぅ。よろしくお願いぃしまーすっ!!」


 甘く柔らかい声で自己紹介する。次は龍治の紹介。残り二人の紹介も順次終える。


「それで、私たちは何をすればいいわけ?」

「そう急がないで。紹介でご理解頂けたと思いますが、この四人は学力よりの一芸の特待生です。四人以外のクラスメイトは魅せる技術もありますが、学力で魅せるとなると模試の成績や各自の研究成果、小説や対局をお披露目することになるでしょう。それはとても退屈ですよね。なので、特待生全員でゲームをします」


 現人の説明にクラスメイトは理解を示す。


「ゲームで僕たちの学力を知ってもらうわけかな」

「それなら少しは楽しめそうね」


 幸也と莉乃は現人の提案に乗る。龍治や咲は専門誌に取り上げられることも多々ある。、メディア露出しない二人にとってはいい話だ。


「その通り。他のクラスメイトには事前に了承を得ています」


 知らないのは三人だけ。


「ゲーム内容は限定しりとり! 審判は私と霽月先生。そして龍治にお願いしています」


 龍治は無言で頷く。龍治は文学賞受賞時にかなり騒がれた。他の三人に比べれば認知度は高い。


「よろしく。それではルールとグループ分けを映して下さい」


 限定しりとり。審判が一巡毎にお題を出し、それに沿った用語とその説明をする。一度正解した用語は使用不可。一〇秒以内に用語を言うと、説明のために一分二〇秒足される。用語説明は簡潔に要点を纏めること。


 施設名はしりとりの言葉として使わない。例えば有名な公園というお題のとき、新宿御苑の場合はぎょえんのんでなく、しんじゅくのくが次の人の始まりとなる。逆に、イエローストーン公園の場合はストーンのんになる。


 勝敗は制限時間越えと最後にんが付くと負けになる。簡単に言うなら、しりとりと古今東西が一緒になったゲームだ。


「それではグループ分けです」


 Aグループ――河谷山次郎、芽池有梨華、中羽希子、藤川咲。審判、荒世現人

 Bグループ――桑沼和子、長藤加奈未、松茂一翔、耶翠莉乃。審判、夏川龍治

 Cグループ――小梅美沙、柴浦英知、野多幸也、堀村奈恵 。審判、永志霽月


「解説は審判役が行います。それでは、グループごとに距離を取って開始です」


 審判がグループを引き連れ適度に距離を開ける。


「それでは始めたいと思いますが折角です。一巡目はグループ共通で始めませんか?」


 現人は全員からアイコンタクトで承諾を受け取った。


「皆さんもゲーム参加者だと思って、自分なら何を選択するか考えながら楽しんで下さい。お題は江戸時代!!」


 一年生からどよめきが起きる。動物や食べ物など簡単な種類だと思っていたからだ。だが、歴史はお遊びの知識比べではない。


 江戸時代。現代では初期の出来事より、幕末といわれる後期が親しまれている。時代というお題のため人物や出来事、発明品なども含まれる。例えば、りんご単体の説明では平安時代にはあったとされるため使えない。


 だが、説明に御所千度参ごしょせんどまいりを組み込んだ場合は使える。このように江戸時代に起こった出来事を説明に含まれていれば問題ない。幅広いようで、限られた解答しかできないお題でもある。

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