第9話 限定しりとり
「それではゲームスタート!!」
現人の開始宣言に、山次郎が、和子が、美沙が同時に答える。
「幕末志士」
「西郷隆盛」
「中岡慎太郎」
開幕は知名度がある言葉だ。彼らは同時に説明しだす。解説の現人は楽しそうだ。
「幕末志士っていうのは、幕末に活躍した民間人のことです。坂本龍馬が一番有名です。でも最近では、新撰組みたいな政府機関の人たちも含めることがあります!」
山次郎は不安げに現人を見る。他の二人も説明後、各審判を見る。
「正解です。志士が歴史用語となります。それに幕末という時代が付属することで、その期間に活躍した人と指定できます。最近の傾向で創作物に幕末の志士という謳い文句で、沖田総司や坂本龍馬が出てきます。次は有梨華でしからです」
有梨華は持参したタブレット端末に打ち込んでいく。
『
いつの間にかタブレット画面がプロジェクターに映し出されていた。
『幕末の四賢侯と言われるほどの知略と先見の明を持ち合わせながら、好奇心旺盛な薩摩藩の第一一代藩主だよ。お家騒動もあったけど、蒸気船やガラス作成、後任の育成とか内政チートキャラ!』
中浜万次郎を保護した人物としても有名だ。近代的な雇用思想の君主は愛憎で人を判断してはならない。十人が十人とも好む人材は非常事態に対応できないので登用しない。有名な格言もある。
「正解です。西郷隆盛や勝海舟とも交流がありましたね。次は希子でらです」
希子は悩む。
「六、七、八……」
カウントダウンが迫るなか、希子は咄嗟に答える。
「
咄嗟に答えたがんが付いてしまう。更に言い直したが意味はなかった。希子は落ち込みながら説明した。
「正解ですが、んが付きました。残念ながら失格です。どうだった?」
「家族で見に行った大相撲がでました……。江戸でなく同じ年代ならラ・カンパネラがありましたのに残念です。皆さん頑張って下さい」
江戸と括ると国内の出来事に限定される。一六〇三年三月二四日から一八六八年五月三日までの世界の出来事ならフランツ・リストが作曲したラ・カンパネラでも正解だ。
「希子が間違えたので咲もらからです」
咲は素早く答える。
「蘭学ですぅ」
用語を答えるのが早ければ早いほど説明に時間が回せる。
「オランダから日本に入ってきたぁ、西洋の学術や文化ぁ、技術の総称のことですぅ!」
「正解です。次のお題は日本の妖怪です」
一巡したためお題が変わる。
「山次郎でくです」
他のグループでも人数が減っていた。不正解者は椅子に戻っている。
「
真面目な空気から一転、柔らかな雰囲気が一年生と職員に流れる。逆に一部の教師と特待生は真剣だ。
「狐が妖怪になって、長年生きた種類だよ!」
山次郎は自信満々に言い切る。
「不正解です」
だが結果はついてこない。現人は不正解の理由を述べる。
「空狐は狐が妖怪になった妖狐または神獣です。確かに長年生きたは正解ですが、それだと空狐か天狐か判断できません。三〇〇〇年以上生きた妖狐。尚且つ尾は無く神通力を自在に操れる。肉体は持たず、霊的な存在まで述べて正解となります」
単語だけ分かっても正解にはならない。妖怪というアンダーグラウンドな世界。雑学といえばそれで終わりだが、知識の広さを比べにはもってこいだ。山次郎は落ち込みながら席に戻る。
「有梨華でくです」
タブレット端末に妖怪の名前を打ち込む。
『
有梨華は目にもとまらない速さで説明文を打ち込む。
『憑き物の一種で別名
「正解です。次は咲でねからです」
全国模試四位のプロ棋士四段。全国模試五位のホワイトハッカー。一騎打ちが今始まる。咲は可愛らしく一文字ずつ強調しながら言う。
「ねこまたぁー」
少し考えてから内容を述べる。
「うーんーとぉー。人家で飼われていたネコちゃんがぁ、年老いて化けた猫ですぅ! お年寄りのネコちゃんの尾がぁ二股になってぇ妖怪になりますぅ。女性の身なりをして三味線を奏でている姿が有名ですぅ!!」
「正解です。それでは次のお題は楽器の名称です。有梨華、たからです」
有梨華は回答に時間をかける。
『っく! ……太鼓』
日常的にタブレット端末で会話しているため、感情もつい書いてしまう。
『世界各地で昔からある楽器の一つ。動物の皮などで作った薄い膜を枠に張り付けて、叩いて音を出す打楽器だよ! トーキングドラムっていう遠距離通信に使われることもあるよ』
「正解です。咲でこからです」
咲は間髪入れず答える。
「コルネット! 金管楽器です! コルネットが、トランペットの元と言われるくらい構造が似ています! トランペットよりも円筒管部分が三割程度長いとかぁ、いろいろありますが年代や時代背景によっても様々な傾向があります。一概にここが違うからといって判断できません。吹奏楽やブラスバンド、ジャズなどでもよく使われていますぅ」
伸ばしが少ないのは真剣に考え始めたからだ。普段の咲は気を張っていない。故に子供のように伸ばしてしまう。
「正解です。次のお題は世界遺産です。有梨華でとからです」
有梨華が悔しがっていたのは、コルネットやコンガなどの楽器を相手が使うことを予測したからだ。考えさせることもできない状況に焦りに似た悔しさが滲みでたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます