第39話 お披露目会

「Jクラスの一人が出遅れた!! 好調のスタートを切ったのはSとJ!! この二人は前の予選でも一位争いを演じてくれたぞー!! 一歩後ろにはBクラス。油断すれば逆転されるぞー!!」


 一翔の走りにSクラスから歓声が沸き起こる。


「やっぱりね! 一翔なら勝つわ!!!」

「まさか僕の予測が狂うなんて……面白いね」


 素直に受け止められる二人は素直に喜ぶ。


「最後まで油断はできないよ」

「躓く」

「流石にそれはないと思うよ」


 龍治の不吉な予測を現人は苦笑いしながら否定する。


「もうゴールするわよ!!」

「これは……」


 ラストスパートは予選のリプレイが如く。


「二人のデッドヒートだ!! 必死に駆け抜けていく!! そして……ゴール!! これは写真判定するまでもありません!! 一位はJクラス!! 予選の雪辱を果たしたぞ!! 二位はSクラスです!! 三位はB。四位のJクラスは出遅れが響きました!!」


 二人は手を膝に付き肩で息をしている。そしてお互いを称え合う。


「今回は俺の勝ちだ!!」

「あと少しだったのに!!」

「決勝も俺が勝つぞ!」

「決勝は俺の勝ちだ!!」

「だったら疲れをしっかりとれよ。クソエリート」

「……決勝は負けないからな」

「おうよ!!」


 熱い男の青春。汗がキラキラと輝き、二人の笑顔が更に光る。


「予選敗退にはならなかったわね。一安心だわ」

「一翔ならやってくれると僕は思っていたよ」

「よく言うわよ!! 連戦でって言っていたじゃない」

「それはそれ。これはこれだよ」


 二人は軽口を言い合う。そこに希子が混ざる。


「本当によかったですね。目標の徒競走一位総なめできそうですね」

「それ以外でも一位を目指すわよ!!」

「私たちは障害物競走ですね!!」

「昼一番の種目!! 私たちが勝って勢いづくわよ!!」

「はい!!」


 そうこうしている内に二回目も終わった。AIEGでの争い。一位はAで二位はEだ。一〇〇m走決勝はSAEJの四クラスで行われることになった。予定通り進み今の時刻は一二時二〇分。


「それではお昼休みに入ります。午後の予定は各自に配ったプリントを参照してください」


 生徒たちには事前に今日一日の予定表が配られていた。お昼休憩は一三時まで。それから一時間はチアや応援団、吹奏楽部のお披露目会だ。


「学食でいいかな?」

「いつもどりね」

「僕もそれでいいよ」

「日常」


 特に予定がない四人は昼食を手早く決める。


「皆さん、わたくしはここで」

「希子たちのライブ楽しみにしているわね」

「はい!」


 現人も話しかける。


「楽しみにしているよ」

「期待に応えられる仕上がりです」

「それは心が躍るね」

「ふふっ、楽しみにしていてください!」


 恋人らしく二人は微笑み合ってから、手を軽く振って別れる。


「それじゃー行こうか」

「待たせてごめんね」

「気にしていないわよ!!」

「行く」

「はいはい」


 お披露目会やクールダウンなどの予定がない生徒たちは、ぞろぞろと学食に移動を開始した。といっても広大で生徒たちも多い一芸高校。学食も一ヶ所ではなく数か所ある。それくらい設置しないと膨大な生徒たちを昼休みだけでは捌けない。


 現人たちが向かったのは競技場の近くにある臨時の食堂だ。臨時と言っても内装や外観、造りはしっかりしている。ここの競技場を含めたスポーツ施設は、道大会やプロの練習場として使われることがある。そのときに運営されるのがこの食堂である。


「何にする?」

「日替わりA定食」

「僕も」

「私も」

「皆A定食っと」


 私立高校だけあってメニューは豊富で美味い。栄養も考えられている。それも格安で提供されている。調理師や栄養士、搬入業者も卒業生だ。設立当初は、ここまで充実した施設や環境はなかった。当時の教師陣が励み、世界にも通用するように生徒を導いた。卒業生たちも大学やプロチーム、企業で活躍した。それらが数十年と続いた結果、今がある。


 四人は食券を購入し、メニューごとに区切られたカウンターから、調理場のスタッフに渡す。そしてカウンター越しに料理をもらう。四人は適当に空いていた席に座り食べ始める。


「いただきます」


 面倒くさがらず四人は手を合わせ、ちゃんと挨拶をする。


「今日も美味しいわね」

「栄養もしっかりしているね」

「流石」


 それからは黙々と食べ始めた。昼休みの時間は四〇分。移動時間も含めれば会話に花を咲かす余裕はない。日替わりA定食は頭脳系の生徒向けだ。B定食は運動部向け。今日は体育祭もあって、A定食でも少しこってりとしている。毎食栄養を考えなくていい故に生徒たちはよく頼む。


 無論うどんやラーメン、北海道らしい海鮮系定食や乳製品満載の定食もある。それらを頼む生徒も結構いる。特に運動部はその傾向が強い。


 彼らは若い。自己判断で食事をすることが正しいときもある。なので、学校側は選択肢を用意しても強制はしていない。例に挙げるなら英知は栄養をしっかり考えて定食を頼むが、一翔は食べたいものを食べたい時間に食べたい量を食べる。


「栄養も補給できたし皆はどうする?」

「私はお披露目会見るわよ」

「僕も」

「俺も」

「なら客席に戻ろうか」


 四人は移動を開始する。満席の客席に戻るとフィールドには既にチアと応援団が準備を終えていた。向こう正面のトラックには障害物競走に使われる物がすでに用意されていた。


「ギリギリ間に合ったね」

「遅刻しそうになるなんて、それでも委員長なのかな」

「〆日厳守」


 男二人は軽口を言い合う。仲がいい男友達ならではの会話。お互いに信頼しているから言えること。ある意味ロマンである。


「私は吹奏楽部がお目当てだから遅刻は別に問題ないわ」


 だが総じて漢のロマンというものは異性に通じないことが多い。冷ややかな目線や言葉の棘の応酬にあう。現人は苦笑いを浮かべお礼を言う。


「莉乃ありがとう。ちょうどよく始まるね」

「それでは皆さんお待ちかねのお披露目会です!! 最初はチアの皆さんです!!」

「うおおお!!」

「キャー!!」


 生徒たちから歓声がチアリーダーたちを歓迎する。クラス分けされた席はほぼ埋まっている。一、二年生用の席も全て埋まっている。通路に立って見ていたり、トラックの隅っこで座って見ていたりといろいろだ。だが徒競走で活躍していた生徒は見受けられない。そして大きく力強い声が開始の合図を告げる。


「One! Two! Three! Go!」


 スピーカーからは明るくアップテンポな曲が流れる。それからは可憐で鮮やかな技のオンパレード。位置取りもスムーズで笑顔溢れるチアリーダー。


「Thank you!」


 勢いよくお辞儀する彼女たちに盛大な拍手や歓声が飛ぶ。


「チア部の皆さまでした!! 続いて黒い学ランに身を包むのは、姿勢も体つきもいい応援団の皆さんです!!」


 今度も歓声が飛び交い演者を迎える。ただ、チアと応援団に向かうその歓声の質は違っていた。


「オス!!」


 白い手袋が演舞を際立たせ、大小複数の太鼓がリズムを刻む。大きな旗も振られ、スケールの大きさを視覚と耳で生徒たちは味わう。


「ありがとうございました!!」


 大きな拍手や指笛が彼らに向かう。


「続きまして吹奏楽部の皆さんです。各チーム一曲でお願いしています。それではお聞きください」


 指揮役の生徒が指揮棒を振るいだすと、いろいろな楽器が一斉に音を出し始める。チアと応援団は各自の大会に向けて励んでいる。吹奏楽部も自分たちの大会に向けて日々汗を流しているが、それ以外の大きな役割がある。


 それは各スポーツ部の応援だ。チアと応援団もその役割があるが、吹奏楽部に比べると追随する大会は少ない。野球やサッカーなどは大きな会場で試合をする。それらの部活にはチアも応援団も吹奏楽部も参加する。バスケ部や剣道部などは吹奏楽部や応援団。ラグビーや空手などは吹奏楽部とチア。このように吹奏楽部が求められる場所は多い。故に数チームに分かれている。


 よく甲子園などで聞く定番の曲から、吹奏楽コンクール御用達の曲などなど。弦楽器を入れた本格的な楽曲のお披露目もあった。


「ご拝聴ありがとうございました!!」


 大きく長い拍手が彼らや彼女らに送られる。


「各部活動のお披露目会でした! 応援に駆けつけてくれる彼らにもう一度拍手を!!」


 演者も含めた全員が拍手をする。チアは応援団と吹奏楽部に。応援団はチアを吹奏楽部に。吹奏楽部はチアと応援団に。


「それでは!! 今年限りの特別なショーをご覧ください!! 三年Sクラスの特別な催しです!!」

「きたあああ!!」

「待っていましたああ!!」

「キャー!! 河谷くーん!!」

「奈恵ちゃーん!!」

「加奈未さーん!!」


 生徒たちのテンションはピークを迎える。まさに有名歌手のライブが如く。サイリウムでもあれば、過度に明るいオレンジ色が客席を埋めていただろう。

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