大団円(カタストロフィー) 結

第47話 祝勝会

「それでは体育祭優勝を祝して、乾杯!!」

「「「乾杯」」」


 霽月の音頭で始まった祝賀会。参加者は担任と三年特待生全員。それと奈優の計一七人。各々テーブルに座って好きなソフトドリンクで乾杯。唯一お酒が飲める霽月も職務中ということでノンアルコールビールだ。


 普段のダルそうで適当な姿のままの性格なら本物のビールくらい飲んでいるだろう。生徒を信じて見守る放任主義。真面目で芯がしっかりある。それでも普段のスタイルが崩れないようにお酒っぽいのを選ぶのも彼らしい。


「実は一つ、通達しないといけないことがある」


 霽月のどこか呆れ気味な物言いに生徒全員が首を傾げる。いや言いたいことは分かる。白い布に覆われた一角。横に長いコンテナのような大きさ。何かがあるのだろう。ただなぜ呆れているのかが分からない。


「当初予定していた料理は寿司と焼き肉だ。地元の多種多様な新鮮で美味しい魚介類と王道の肉を用意してある。お店側のご厚意で乳製品も提供していただいている。ここまでは学校側が手配したものだが……」


 普段からは想像できないほどに歯切れが悪い。生徒たちの首は更に傾く。よく見ると霽月だけではなくホール担当スタッフたちも苦笑いしていた。中には微笑ましくしている者もいる。ここは札幌市内にあるホテルの焼肉店。内装や調度品もお洒落。追加で同ホテル内に出店しているお寿司屋さんが出張出店。


 数十人で肉を焼くと油や匂いが内装に付着する。故にレストランなどではなく設備が整っている店になった。牛肉、鶏肉、豚肉、そして羊肉。部位も色々。唐揚げなども用意されている。寿司ネタも豊富。マグロ、いくら、ウニを使った三食丼。奈恵の好きな貝類。鯛茶漬けまである。


「えっとだな。幸也が手配したものがある。幸也、起立」

「はい。提供内容が決まったとき、デザートがないことに嘆いていた人がいたね。だから僕が手配したよ。これで有梨華さんも楽しめるね」


 軽く言ったその内容に特待生たちは霽月と同じく呆れた。いや、嘆いていた山次郎と何も知らない奈優は無邪気に喜んでいた。話題に上がった有梨華は耳まで真っ赤にして俯いている。


「というわけだ。布を取り払っていただいても大丈夫です。お願いします」


 姿を表したのは全国展開しているクレープ屋とアイスクリーム店。更には都内で有名なケーキ屋もある。


「やったー! 僕の好きなクレープがある!! イチゴチョコカスタードクレープくださーい!!」

「もう少しで終わる。少し待て」

「はーい」


 不満げに返事をする山次郎であった。


「ケーキは有梨華が好きだって言っていたお店にお願いしたよ。喜んでもらえたかな?」

「……ぅん……」


 その声は消えそうなほど小さくか弱い。人気商売をしていない有梨華は純粋な好意をに慣れていない。そこにはポジティブもネガティブも含まれる。奈恵や加奈未なら感謝しながら軽く流すだろう。


「祝賀会については以上だ。各自好きに楽しめ」


 霽月の宣言に生徒たちは歓喜を上げ注文しだす。


「やっぱり肉だな!!」

「僕はクレープで!」


 一翔、山次郎、英知たちのテーブルが一番騒がしい。


「唐揚げ(ザンギ)があるぞ」

「本当!? 僕それとライス!!」

「俺は肉だけだ!!」

「俺はとりあえずアナゴで」

「英知、肉食え肉!」

「一翔が頼んだ肉から少しもらうよ」

「いつも通りかよー」

「俺はそこまで部位の拘りがないからな」


 英知も肉は好きだ。ただ、一翔のように前のめりになるほどではない。


「そんなことより唐揚げだよ!! 唐揚げ!! 速く頼もうよ!!」


 山次郎の好物はクレープである。だがしかし大好物は唐揚げだ。サクサクの衣に独特の美味い肉汁。くどくなった口内の油は白米が吸収し、唐揚げに箸を進ませる。ザンギと唐揚げは厳密に述べると別物。だが、最近は唐揚げに下味をつけることもあれば、衣に卵黄を混ぜるところもある。近年その境界は曖昧になっている。


「よしっ!! 肉だ肉!!」

「俺はアナゴで……いやちょっと待て!! なぜ鰻がある!?」


 普段からは想像できないほどの感情が籠った驚き。そう、英知の大好物はうな重である。通常の寿司屋ではないものだ。蒲焼特有のトロリとした甘めのタレ。それが炭に落ち煙となり鰻を燻す。風味もふわふわ感もさらに増す。濃い料理には白米が合う。


 唐揚げに関しては焼肉店で提供している店舗もある。それにここはザンギの本場の北海道だ。なんら不思議ではない。ちなみに一翔の大好物は肉だ。部位も種類も関係なく肉だ。サシが多い肉ではなく、アメリカン的なステーキ肉が大好物だ。


「俺が店側に注文したからだ」

「先生が……」

「せっかくの祝賀会だ。好物を食べたいだろ?」

「ありがとう」


 その話は隣のテーブルの奈恵たちにも聞こえた。


「先生!! フルールは!? 梨!! ありますか!?」

「天ぷら!! 海老天もあるの?」

「うちのカレーも!?」

「なら丼物となめこ汁を所望する」


 奈恵は果物が好きだ。その中でも梨が大好物だ。加奈未は天ぷら。大好物は海老天。ホクホクプリプリで濃厚な海老の風味が口いっぱいに広がる。味付けは塩派。ただ、二人とも寿司はそれなりに好きだ。貝類や白身魚が好きなのも嘘ではない。


 美沙はスパイスが強く、魚介類の旨味が染み込んだシーフードカレーが大好物である。大好きな具は海老、烏賊、貝柱だ。濃厚な味がスパイスで引きしまり、白米がその棘の部分だけを緩和させる。しかし、唐辛子系の辛い料理は大の苦手である。


 和子は肉系の丼物が好きだ。カルビ丼や親子丼等々好きだが、特に好きなのはカツ丼。玉ねぎと肉の旨味が溶け込んだ出汁がホカホカのご飯と絡み合う。カツに噛みつけば肉の風味と油が溢れる。それが卵やご飯にかかるとまた更に美味い。


 最初は勝負に勝つというゲン担ぎからだが、今では味自体が好きである。味噌汁に関しては丼物とセットで出てくるから好きになっただけ。


「カルビ丼なら作れるだろうが、別種の料理は流石に難しい。悪いな」

「あれば儲け物くらいの気持ちよ」


 加奈未の意見に奈恵たちは同意の声をあげる。それを聞いていた莉乃たちも反応する。


「私の好きなチーズはなさそうね」

「咲のだぁーい好きな、こってり豚骨ラーメンもないぃ……」

生醤油きじょうゆうどんもありません……」

「僕の好きなチョコクッキーサンドバニラはないね。でも有梨華が好きなベリータルトはちゃんとあるから」

『ありがとう』


 莉乃は乳製品全般が好きだ。その中でもチーズが大好きだ。プロセス、カマンベール、モッツァレラ、クリーム、チェンダー、ラクレット、パルミジャーノ・レッジャーノ。日本人の舌に合うチーズ全般が好物である。溶けるチーズを春巻きの皮で包みサッと揚げるチーズスティックが大好物である。


 男受けしそうさな仕草から好物もそういう系と思われがちな咲。大好物はこってりとした豚骨ラーメン。トッピングは白ネギ、大蒜、メンマである。寮に戻ると口臭予防のため林檎を食べる。皮はそのまま食べて、実はジューサーで絞り飲む。


 希子は前にも言っていたが本場の生醤油うどんが好物である。徳島県の名産すだちをツルツルのうどんに絞り、薬味として大根おろしと青ネギ乗せ、香川県産の生醤油をかける。のど越しの良さにコシのある食感。ふんわりと生醤油の風味が鼻孔を通り抜ける。


 幸也は黒いチョコクッキーで甘いクリームを挟んだお菓子が大好物である。ザクザクとしながらでもしっとりとした美味しいお菓子である。


 有梨華はケーキ全般が好きだ。特に好きなのは幸也が述べたベリータルトだ。タルトならではの生地。中はカスタード。その上には生クリーム。最上層にはナパージュされたイチゴを敷き詰め、ラズベリーとブルーベリーをイチゴの隙間に乗せる。淵には粉糖シュガーパウダーを振るう。

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