第21話 後日談

「神様どうしたよォ!」


 言葉とは裏腹に、龍治はゆっくりと選び終える。


「ふふっ。全ては我の掌。子羊は子羊らしく身の程を知れ」


 逆に現人は即座に選び終える。


「足掻いて見せろ。オープン」


 トランプも回るが龍治も周る。釈迦の掌の中で。


「俺はァ、一三だァ!!」


 龍治は勝負を決めにかかった。


「よくぞ、踊ってくれた。我は愚者ワイルドカードだ」

「アァァァんだとォォォ!! くっそがァァァ!!」


 愚者による一三キングへの反逆カウンター。それはもはや愚者でなく賢者だ。ジョーカーとはまさに賢愚である。


「愚かさを嘆く前に智を示せ」


 現人は先ほどと同じく、すぐに選ぶ。


「あァー!! 示してやるよォ!!」


 龍治も間髪入れず選び終える。


「トランプオープン!!」

「俺はァ、ジョーカーだ!!」

「子羊はまだ掌の中。エースだ」


 愚者は王から民衆の支持を奪う。だが、成長段階のエースや役割がある者には敵わない。なぜなら愚者は何者でもないからだ。


「あえて攻撃を受けて俺をノせたなァ!!」


 龍治に追加のダメージが入る。もう攻撃は受けたくない。だが、防御手段がない。なぜなら現人は最強のカードを持っているからだ。


「その通り。如何に気持ちよく乗せ、これ以上ない見せ場を演出するか。勝負の分かれ目だった。乗せられやすい子羊はまだまだだ」


 現人はトランプを選び龍治を煽る。


「答え合わせといこうか」

「見下すななァァァ!!」


 想いを爆発させても届かない聖域がある。それは神のみが住まう高天原せいいき


「トランプオープンンン!!」

「神たる我は一三(王)を選ぶ」

「アアアァァァ。一二クイーンだ!」


 王配であれば届いたかもしれないが、残念ならが一三は正道だ。龍治は自らを守れずダメージを受ける。


「ゲームオーバーだ」

「……クッソが」


 雌雄は決した。


《これにてプラネタリウムの上映を終了します。手荷物など、お忘れなきよう、ご注意下さい。この度は誠にありがとうございました》


 プラネタリウムも終わりを告げる。シアター内は光を取り戻した。


金鵄きんしは私に降りた」


 黄金に輝く鳥は勝利への道しるべ。その光と共に彼らの妄想は消える。それは影や闇のように。高ニ病らしく消え去る。


「……いつか……奪い取ってやるッ!! ……くっそ」


 自作ゲームに負けた龍治は悔しさのあまり膝を折り、顔を伏せて震える。


「先に帰るね。……それとも一緒に帰るかい?」

「先に……いけ……」

「次の金曜日も楽しみにしているよ」


 現人は龍治を置いて先に出る。


「お疲れ。帰るぞ」


 外で待っていた霽月が現人に声をかける。オレンジ色に染まっていたフロアーはもうない。今は人工の明かりに照らされている。


「龍治は大丈夫ですか?」


 安全面のこともあるだろうが、純粋に友達としての心配もある。


「大丈夫だ。龍治も月曜日にはいつも通りだ。それが友情だろ? 簡単に壊れる絆だと先生は思っていない」

「本当に生徒想いな教師ですね」

「本当に可愛げがない生徒だ」


 年が離れた二人は心を通じ合わせて微笑み合う。


「ほら帰るぞ」

「はい」


 二人は学校への帰路についた。そして時間は進み休み明けの月曜日。HRまでの空いた朝の時間。特待生たちは課外授業の思い出話に花を咲かせていた。


「昼夜で大きな変動はなかったね」

『誤差の範囲だけど、やっぱり夜のほうが精度はよかったね』


 二人は教室の後ろで話していた。


「そうだね。ただ誰もいない夜は少し怖かったね」

『怖かった!! 幸也がいたから頑張れたよ。アレを一人でやれって言われても絶対に断っている!!』


 多くの科学者はオカルトを信じている。信じているからこそ偽物には厳しい。不確定な物は存在しないが、それは観測できていないだけ。この考えが研究者たちの中では一般的だ。トーマス・エジソンが、死者と交信できる装置の開発に注力していたと言えば納得できるだろうか。


「僕も一人は嫌だね。それで構築は大丈夫?」

『もちろん完成したよ! 少し数値を弄るだけだからね。計測後は簡単だったよ。あとは責任者の人たちに体験してもらって、許可をもらうだけだね』


 幸也は心配顔で尋ねる。


「僕も一緒に参加してもいい?」


 その問いには業務だけではない感情が伺える。


『一緒にいてくれると嬉しいよ! ぜひお願いするね』


 有梨華の承諾に幸也は笑顔になる。


「日時が決まったら教えてね」


 幸也と有梨華の会話はまだまだ続く。二人の仲は課外授業を契機に緩やかに進んだ。これからの季節と共に春が深まるかは二人次第。奈恵と加奈未、美沙と和子の四人はスマートフォン片手に、教壇近くで姦しさを全開にしていた。自撮りやプリクラを見せ合っているようだ。


「加奈っち可愛い!! 凄い着こなし!」

「こういう雰囲気の服装は雑誌でよく見るぞ」

「ありがとう。奈恵のも見て。私がコーデしたの」

「何枚かあるけど、これがわたしのお気に入りだよ。もちろん購入済み!」


 自らの懐が痛まないからといって、分別なしに買う性分は特待生の中にはいない。


「うわぁー! 凄く可愛い!! お人形さんなのに生きているー」

「……生きているって当たり前だろ。人形のように可愛いのに、暖かみを感じられるいいセンスだ」

「奈恵の可愛さが服の特徴を十分に生かしているよね」

「大袈裟だよ! 美沙ちゃんたちのコスプレもいいね!」


 美沙と和子のプリクラは武士や町娘などの時代を感じられる物から始まり、カウボーイといったアメリカンやファンタジーの代表格であるエルフや姫騎士などのコスプレまで様々だ。


「和っちカッコいいでしょー! ほんと根っからの武士だよねー」

「凄いわね。これなら編集者に持ち込んでもいける」

「同性に好意を持つ主人公の気持ちが少しわかったよー」

「こらこら。妾は剣の道のみ。モ、モデルなんて恥ずかしくやってられるか!!」


 この面子では和子が場を纏めるが、同時に弄られもする。


「女の子女の子しているの苦手って言っているけど、素直になれないだけだもんねー」

「ぅぐ!」

「うん?」

「詳しく教えてよ」


 美沙はニンマリと笑い二人に教える。


「実はうちたちだけのあだ名があるの。寮に帰ってから二人でプリクラ見ているときに決め合ったよー。今はそれで呼んでほしいなー」


 和子は顔を赤くし、絞り出すように声をだす。

「……み、美沙っち……。あーー!! 恥ずかしいぃ!! よく普段から言えるな!!」

「うちが○○っち呼びすると気にしていたもんねー」

「そ、それはそれだ!」


 奈恵と加奈未は理解した。そしてニンマリ顔になる。


「えーっと、わたしも○○っち呼びがいいなー」

「もちろん私も呼んでほしいなー」

「な、なにを言っている!!」


 彼女ら四人は和気藹々と青春を満喫していた。逆に同じ内容でも男は静かなものだ。教室の右側では仲良しコンビがどこに貼るかを話し合っていた。


「英知! スマフォに貼るのが一番だと思うぜ」

「あーそうだなー。鞄でもいいなー」


 話し合っているが温度差はかなり大きい。


「鞄か! それだとすぐボロボロにならないか?」

「それならまた撮ればいいだろー」


 不器用な優しさに一翔は目を潤わす。


「英知……やっぱり俺たち親友だな!!」

「当たり前だろー」

「もっと見える場所でもいいな!!」

「あーそうだなー」


 これがいつもの二人だ。左側では女子三人がお喋りしていた。


「希子ちゃんは楽しめましたかぁー」

「はい。現人君やお店の人たちのおかげで楽しめました」

「現人ってデリカシーがないから……。それを聞いて安心したわ」

「はい。皆様のおかげで問題ありませんでした」


 服屋でのやりとりが思い出される。


「それでプリクラは撮れたの?」

「はい。皆様のアドバイスの賜物です」

「わぁーそれはぜひぃ見たいですぅー」

「ごめんなさい。今は部屋に置いています」


 休日中にプリクラやグラスの交換を終えたようだ。


「それはぁー残念ですぅ」

「本当に残念だわ。プリクラ補正の現人を見たかったわ」

「プリクラ補正って凄いですね。男前な現人君が中性的な顔つきになりましたから」

「それはお笑い物ね!」


 莉乃は心の底から笑う。


「希子ちゃんもぉ変わりましたかぁー?」

「わたくしは……もっと幼くなりました……」

「それは仕方ないね」

「咲は絶対にしたくないですぅ!」


 幼く見られるのが嫌で茶髪に染めている咲にとって、それは悲報だ。

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