第22話 連絡事項

 そしてこの話題の中心である現人は、教室の真中で龍治と山次郎の三人で談笑していた。


「僕に聞きたいって?」

「現人含めてだ」

「私より山次郎のほうが気づくことが多いと思うよ」

「素人の体験談。プロの感想。どっちも聞きたい。感想」


 龍治は敗北から立ち直り、ガラス細工の体験談を二人から聞き込みしていた。その顔はいつも以上に真面目だ。おそらく小説に使うのだろう。実体験を聞くと細かな描写が書ける。もちろん一番いいのは龍治が体験コースを受けることだ。だが、ことあるごとに作者が体験をしていたら時間も身も足りない。


「息を吹くときが少し怖かったくらいだよ」

「怖い?」

「師匠曰く、注意だけだと怖いもの見たさでやる馬鹿がいるからだって。だから脅して怖がらすくらいが、ちょうどいいって!」

「なるほど」

「それなら思惑通り怖かったよ」


 注意事項を伝えても、破るのがカッコイイと勘違いする輩がいるのも事実。


「次、完成時の達成感」

「私は単純に嬉しかったよ。やりきったような達成感はなかったけどね」


 もちろん多少の達成感は味わえた。だが現人の場合は大部分を親方がした。それは安全面を考慮した結果なのだが、少し過保護になったのも否めない。


「僕もやりきったより、もどかしいかな。もっと上があるのに手が届かない。そんな感じだよ」

「その道の人。素人。違う」

「それはそうだよ」

「じゃないと、プロの僕としては立つ瀬がないよ」


 話を聞けた龍治は別のことを聞く。


「次。現人のデート」


 先ほど打って変わってニヤケ顔だ。


「あ、僕も聞きたい!」


 山次郎も迫る。


「そ、それは……。ほら、二人だけの秘密ということにしない?」

「女子は知っているのに」

「その逃げは如何なものか」


 現人は二人に詰め寄られ逃げ道をなくす。


「え、えーと……。龍治も知っている通り、お茶をして……その……」


 現人に救いの鐘が響き渡る。キンコーン、カーコーンと安直な音だ。そして鳴り終わってすぐに扉が開く。


「お前たち席に着け。今日は昼までだ。さっさと連絡事項伝えて終わるぞ」


 午前中に、担任が連絡事項と生徒の予定を聞き纏め、クラスメイト間で共有することになっている。なぜ昼までなのかというと、明日からGWに入るからだ。


「諸君らに連絡事項を伝える」


 特待生の彼らにとって休日は休日ではない。ファンサービスやイベント、地方回りが詰まりに詰まっている。そんな予定から現実逃避したくても、月の終わりを告げるイベントはやってくる。


「まず初めに、本決まりではないが、この休み期間中に開催される大会の結果次第では特待生入りする者がいる」


 校内でもイベントが起こる。


「仕事柄なのか、性格なのか定かではないが、少々難ありだ。例え編入しても数か月は仮扱いとなる」

「それは新たな試みですね。詳細をお願いします」


 委員長の現人が代表して尋ねる。


「まずは編入する彼の名は西本にしもと良太りょうた。職業はeスポーツ選手で自称エンターテイナー。この自称のところが問題となっている」


 名前を聞いた時点で数人は納得顔だ。


「私は面識もありませんし、彼のプレイスタイルも知りません。観客を楽しませるのはどのスポーツでも評価される点では?」

「確かに。ただ、それは相手に敬意を持って戦うからだ。彼は大会では相手選手を煽り、魅せプレイで試合を終わらす。ライブ配信などの非公式では、自らハードルを上げ対戦相手や観客を煽り負ける。その道化師ピエロを楽しみにしている客がいるのも事実だ。ただ、その性格が普段からなのか、業務上だけなのか判断がついていない」


 魅せプレイとは、対戦相手や客席を魅了できるプレイヤースキルのことだ。サッカーで言う所のファンタジスタが意味合い的に近い。


「現クラスでの内申点は?」

「Aクラスでの評価はムードメイカーだ。問題視されるほどではない。だが、それは幼稚園から一緒の幼馴染がいるからだという評価がある。彼一人でクラスに馴染めると仮が取れる」


 長年一緒にいた人が間に入り摩擦を減らす。それ故に長所が目立ち高評価になっている。そう指摘する教師の意見がある。この私立は一学年AからJの一〇クラス。それとSクラスを入れての計一一クラス制だ。


 総合評価が高い生徒がAクラスだ。更にそれを突き抜けると特待生(S)クラスになる一芸を重要視する校風だが、一芸だけではAクラス入りは難しい。なぜなら生徒たちは、不得意な分野も努力しているからだ。そういう背景のためAクラスは特待生候補ばかり。心無い者は特待生になれない出来損ないクラスとも言う。奈恵は勢いよく手を上げ質問する。


「幼馴染の彼女も一緒に編入ですか?」


 彼らを知っているのか、目がキラキラと輝いている。


「彼女の一芸は勉学なのだが、まだ特待生レベルではない。他に聞きたいことはあるか?」


 誰も手を上げない。今から事細かく聞いて考えた所で相手ありきのこと。独り相撲になってしまう。特待生たちは連絡事項を聞き、休み明けのクラスに期待を膨らませる。


「伝えることは以上だ。質問は?」


 全員が頷きで返す。


「では、これにて解散。委員長号令」

「起立、礼、ありがとうございました」


 こうして彼らの四月の学校生活が終わった。GW明けには新しいクラスメイトが。そして五月には体育祭が行われる。

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