第15話 seed
「こっちの数値を、こっちの数式に組み込んで解いていけば、ここは問題ないはずだよ」
現人と希子は見合って首を傾げる。
「そうそう。ここは実際の数値を減少させて構築すると警備関係は問題ないよ」
降り切った二人はその光景を見て疑問が消えた。
「実寸だと警備関係でダメだからね。少し面倒だよ」
幸也は三脚付きのカメラに似た装置を持ち、有梨華と会話していた。有梨華はノートパソコンを使い文字での会話だ。
「幸也」
「現人と希子さんか」
「ごきげんよう」
三人は軽く言葉を投げ合う。その間、有梨華はUSB接続型の小型ディスプレイを外向きに設置する。
『こんにちは』
ディスプレイをセットするより、発声するのが面倒くさいとは有梨華らしい。
「何をしているのですか?」
「この施設をネット空間に構築しているよ」
『所詮VR空間っていう奴だね』
有梨華が補足する。
「それで計測しているの?」
幸也の持っている装置を指しながら問いかける。
「そう。ここから赤外線を出して、その光の反射を集めてソフトで演算している。手作業の部分は殆どないけどね」
『構造自体は簡単だよ。ただ、光を感知する所の部品を幸也に助けてもらってね』
「アイディアは有梨華さんのだよ。僕は設計から組みたてしかしてない。有梨華さんの演算ソフトがないと意味がない機械さ」
『そんなことないぞ。ソフトがあっても機械がないと無用の長物だよ』
幸也と有梨華は理系科目を習得している。だが、専門分野が違う。だからこそ技術者として尊敬し合っている。これ以上進展するかは神のみぞ知る。
「昼間計測できる機会がなかったからね」
「学校の施設はいかがですか?」
「安全上、許可が下りなかったよ」
『ネットワーク上に構築するからね。一〇〇%安全って言えないの。一番安全なのは作らないことだね』
「だからこの施設を?」
「もちろんだよ! 夜中にもう一度測定するけどね」
『ここって入館管理厳しいからね。委縮して来ない人向けにVR空間で体験してもらうって』
VR空間といってもフルダイブではない。オープンマップを一人称で動き回るゲームがイメージに近いだろう。
「どうして昼夜に測定するのですか?」
「それは昼夜によって空気中の不純物量が違うからね。数値も微妙に変わってしまうのさ」
『だから両方の値を取ってから精密に構築したい。まぁー意図的に高さとか、角度は変えるから寸分狂わずではないよ』
実寸通りの施設のセットができれば警護や警備予定は立てやすくなる。だが同時に悪用される可能性も高くなり、警備の裏をかかれやすくなる。いたちごっこだ。
「これが完成すると疑似旅行もできるようになるのかな?」
「流石現人。最終目標にたどり着くとは」
『賃貸住宅も写真を見るだけじゃなくなるよ。ほら今でも金持ちの家はCGで作って、内見を効率化しているからね。それを民間に落として誰でも使えるようにしたいね』
「有梨華さんらしい優しいお考えですね」
『あ、ありがとう』
直接褒められ慣れていない有梨華は照れる。この技術が広まればCGのコストがかなり抑えられる。賃貸は一度採寸すれば数十年単位で変化しない。
「朝からずっと測定されているのですか?」
『そうだよ』
「さっきお昼食べたけどね」
休憩はしているようだ。
「完成はいつごろに?」
「六月には公開できるよ」
『施設の責任者に体験してもらわないといけないからね。少し
「楽しみにしていますね」
『十分期待していてよ』
自然と女子二人だけで盛り上がってしまう。男たちも男たちで話す。
「このあと龍治と何かするって聞いたよ」
「何のことかな?」
「うーん。カマをかけてもダメか」
カマに対して有効なのは惚けることだ。
「なんとなく分かるけどね」
希子の誘いを受けるとき、現人は夕方までならいいと言った。逆を言えば夕方からは外せない予定があることになる。現人は、クラスメイト全員で青春を満喫し合う願いを蔑ろにするような冷酷な人間ではない。
それは担任含め、クラスメイト全員が認めている。そんな男がわざわざ断りを入れるは先約があるからに違いない。莉乃も気づいていたが幸也のように踏み込む勇気はなかった。
「それならゲームに勝ってからだ」
「やっぱり!!」
大きな声は希子たちの会話を途切らせる。
『ビックリしたー!!』
「どうしたのですか?」
「現人と話ししていて驚いただけだよ。ごめん」
バツが悪そうに幸也は謝る。
「何を言ったのですか?」
「この後のことだよ」
「あ、お遊びの決闘ですね」
『あぁー、たまに四人でやってるやつね。私もしたことあるけど楽しかったな』
「あれですか? 確かに楽しかったですね。でも今日は決闘ですよ?」
『一対一でするからだよね?』
「その通り」
有梨華の問いに現人は素直に応える。
「わたくしも久しぶりにご一緒したかったです」
『今度、私もするね』
「君たちが参加したら、僕が抜けることになるじゃないか」
『幸也ガンバだよ』
「応援していますね!」
カタルシスはプレイヤー三人と審判一人のゲーム。ゲストが参加する場合は勝率が一番低い者が抜ける。
「そろそろ行こうか?」
「そうですね。お二人の邪魔をしても悪いですから……」
『二人の邪魔って!』
「僕たちの何を邪魔するのかな!?」
だが箱入り娘の彼女には通じない。
「作業のことですよ」
『そ、そうよね!!』
「僕の思った通りだね!」
内心現人は大爆笑だ。だが流石のポーカーフェイス。一切表情に出さない。
「行こうか」
「はい! お二人とも学校でお会いしましょう」
『またね!』
「次は僕だから」
「楽しみにしているよ」
四人は軽く手を上げ別れた。
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