第5話 決着
「僕は攻撃を宣言する」
この局面で幸也は攻撃を選択した。龍治に先手を取らせるのが定石だが、幸也は自ら打って出た。悩んでいる莉乃は意図を推測する。それは幸也の宣言が進むにつれ見えてくる。
「それは夜空に颯爽と現れ消える。でもこれは違う。これは輝きを消すことなく、大きな力をもって地表に存在を示す。ここは標高が高い。平地より綺麗に見えるだろうね」
フィールドは未だにウユニだ。
「シューティングスター。地表に届く前に消えることが多いけど、稀に残ることがあるそれは――強大なエネルギーを地表にいる全てに与えろ――メテオロン!!」
溜めることはせず言い切る。メテオロンの語源は、空中高くという意味のメテオロスから由来している。だがそれは時代と共に変化する。そう、メテオライトだ!!日本語名は隕石。
フィールドを活かすために取って付けた様にウユニ塩湖を出す。夜空には煌めく彗星が現れる。ダメージ二を全体に与えることが可能。幸也は莉乃に目で訴える。莉乃は力強く頷き返す。
「私は攻撃を宣言する」
幸也は満足げに頷き、龍治は不敵に笑う。
「ウユニ塩湖の周りには、インディヘナのお墓が多くあるわ。そしてある動物が墓を守るように入り口で死んでいるの。その動物は大型肉食動物で、耳の
所々悶えながらも莉乃は宣言する。
「――鋭い牙と爪で食いつきなさい――クガー!!」
標準的英語名であるクーガー。日本では通俗的異名であるピューマが有名だ。この攻撃はダメージ二で個人攻撃。莉乃の隣にはピューマが現れる。
「攻撃対象は龍治よ!!」
莉乃と幸也の狙いは、
「……フハハハ、フハハハハ、フハハハハハ」
まさに狂気。
「次は俺のターンだァ!! 俺は攻撃を宣言する」
龍治のテンションは最高潮。
「最高神ゼウスに次ぐ強さを誇るその神は泉や競馬の神としても有名ェ。だが一番有名なのは、海の神だァァァ!! 三叉の
龍治はあまり知られていないポセイドンの逸話を繰り出す。
「アテナイの支配権をめぐりアテーナーと争ったとき、トリアイナで地を撃ち塩水の湖を湧かせた。まさにこの場所のようになァ!!」
塩水の湖は、アクロポリスにあると言われている。決してウユニではない。だがそこは、ノリだ。
「――圧倒的な力を示せ――エノシガイオス!!」
日本名はポセイドン。右手には三叉の矛を持った男が現れる。 その様は荒々しさを体現している。
「審判の時が来た。勝利をつかみ取るか、生き残るのか、我に示せ」
彼らはまたもやは叫ぶ。
「打ち砕け――メテオロン!!」
「喉笛に食いつきなさい――クーガー!!」
「神たる
彗星が地上へ迫り、ピューマは龍治に駆け出す。ポセイドンが起こした水柱が二人に向けて湧き出す。
「俺は罠を発動するゥ!!」
前のターンに宣言していた罠だ。罠発動と同時に彗星が地上へ到達し、衝撃が三人を襲う。ピューマも龍治に追随する。だが罠を発動し終えた龍治は徐々に消えていく。
「消えたの……キャー」
「消えるのですか……うぅ」
二人に水柱と隕石による衝撃が当たり二人ともライフゼロとなった。攻撃をやり過ごした龍治が現れ、勝利宣言を含んだ説明をしだす。
「フハハハハハ、罠の効果はハデスが被っている兜にあるゥ。これは隠れ兜と言って、名前の通り被ると姿が見えなくなるというものだァ!! この兜のおかげでティーターン神族を打ち破ったァァァ!! メドゥーサ退治にも貢献したァァァ!!」
説明が済んだ所で、神からの勝利者宣言が下る。
「今回は……龍治の勝利だ」
「おうっしゃあああァァァ!!」
負けた二人は拍手で祝う。
「おめでとう」
「今期一回目は龍治の勝ちだね。おめでとう」
「楽しかったぜェ!! 二人ともありがとう!」
三人はお互いに称え合い、神は終わりを告げる。
「
それは校内に残ることを許さない音色。
「ふぅ……」
現実に戻った三人は息を吐く。
「お疲れ様。今回も楽しませてもらったよ」
現人が感謝を述べる。
「お礼を言うのは私たちよ!」
「そうだね。おかげで僕らは公平なルールで楽しめることができているからね。でも今月にある全国模試は負けないから」
SとAクラスは、学校独自の期末や中間テストはない。その代わり毎月全国模試がある。問題集は複数の予備校が独自に制作した物が、ランダムに数個選ばれる。そして一芸高校の教師陣で問題を精査して一つが決まる。下克上を宣言された現人は笑いながら流す。
「ははっ、楽しみにしているよ。それより龍治。いい加減戻っておいで」
龍治はゲームに勝つと、毎回放心状態になる。
「あぇ? あっ。悪い。ありがとう」
「それより早く下校しないと霽月先生に小言言われるよ」
最終下校後はクラス担任が責任を持って担当クラスを見回る。
「去年みたいな小言は嫌だわ」
「それでも内申を減らさないのは、流石特待クラスの担任だね」
「よく見ている」
復帰した龍治も会話に交じり、帰り支度を始める。
「そこは気付いていないフリをしないと。実際、芸術家とバドミントン女子は気づいていないから」
「忘れ物はない?」
「大丈夫よ」
現人が聞き莉乃が答える。
「よし、帰ろう。あっ!」
扉を開けた現人は、その先にいた人物を見て声を上げた。三人も人物に気付き、バツが悪そうな顔をする。
「お前たち……。アレをやっていたな。今更それについて小言は言わないが、先生を人間観察の題材にはしないでくれ。ということで、寄り道しないで帰るように」
霽月は顔を少し赤らめながら、早口で最低限のことを伝え早々と立ち去る。
「先生! 少し待って下さい」
それに待ったをかけたサディストがいた。同性からも憧れられる爽やかな彼なのに、今は玩具を見つけたような楽しい表情をしている。
「ど、どうした?」
「来週のことですが、こちらの準備は完璧です」
「そ、そうか。ありがとう。じゃ、俺はこれで」
現人が返しを言う前に、霽月はそそくさといなくなる。
「照れていたわね」
「演者は本質を褒められると、動揺するものだよ」
「来週の準備?」
龍治が聞く。
「ほら、一年生にSクラスを紹介するアレだよ」
「珍しく、全員出席を強制されたアレね」
「一年生には特待生がいないからね。学校側としても問題視しているらしい」
「作品紹介。終わり」
先輩の力を垣間見て、自らが得意な分野で奮起してほしい。学校側の想いだ。有り体に言えば、各自が活躍している分野のお披露目会だ。
「そういうこと。その準備を手伝っていてね。当日は楽しみにしていてよ」
「分かったわ」
「精々僕を楽しませてね」
「帰宅」
四人は今のゲーム内容を考察しながら帰路についた。
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