第2話 聖戦

「「「「聖戦ハイリガー・クリーク」」」」


 そして世界は変化する。


「アアアァァァ。神よ、速くしようぜェ!!」


 ここは教室ではなく妄想の世界。周りにあった椅子や机などは消え去り、四人だけが浮かび上がる世界だ。高い位置にいる現人が彼らを落ち着かす。


「そう急ぐな。まずは場を整えてからだ」


 龍治と現人は普段とは違う言葉使いと印象だ。


「龍治、楽しむためだもん。仕方ないよ」


 梨乃も柔らかく甘い雰囲気になっていた。


「どっちでもいいよ。どうせ、天才の僕が勝つんだ。馬鹿は大人しく自重していてよ」


 幸也は普段よりも他人を見下す。


「新世界の創生。理を示すのも神である我の役目だ」

「ッチ。速く終わらせろッ!」

「フフッ。そのためにも世界の理を示そう。理その一……」


 神と名乗る現人は、意気揚々と説明しだす。

 理一、このゲーム中は、普段押さえている性格を前面に出すこと。

 理二、シラケることは言わず、流れを育みながら、空気に身を任せる。

 理三、中二病などという幼者が陥る病気ではなく、崇高な高二病を自覚し楽しむこと。

 理四、神が定めた注文オーダーで、高ニ病らしい言い回しで戦うこと。

 理五、範囲は受験や仕事、浪漫に関すること。

 理六、人は攻撃アングリフ防御シュッツ補助ヒルフェを宣言し説明した行動に準ずる効果をもつこと。

 理七、ターン制。効果は全員の行動が終わってから、全てが一同に発動すること。

 理八、ファレを宣言することで、敵効果発動時に作用する罠を仕掛けられること。 

 理九、ダメージを三回受けると敗者となり、勝者のみが神に挑める権利を所有すること。

 理一〇、ターンを跨いで構築された説明は、そのターン回数分、力がプラスされること。

 理一一、人々が事前に協定を結び、人を陥れることは許容せず、バトルロイヤルで勝つこと。

 理一二、神が定めた理は絶対厳守。

 現人は変なポーズと抑揚で理を示した。その表情はドヤ顔だ。


「やっと終わったかァ。カタルシスをヤルぞォォォ!!」


 今の龍治が、普段押さえている性格ということになる。そして自らを神と名乗る現人は、普段は自己陶酔を極端に押さえていることになる。カタルシスとはゲーム名だ。


「今日のオーダーはなに?」


 莉乃は甘えたくても恥ずかしくて甘えられない性格。


「どんなオーダーでも天才の僕が勝つんだ。好きにしてよ」


 幸也は腹黒く自尊心が高い。


「では示そう……。オーダーは魔法っぽい言葉だ!!」


 現人は宣言する。そして三人は歓喜する。


「これは高二心をくすぐられるなァ」

「ぽいってところが面白いわね」

「物理学者の僕にとっては十八番おはこだね」


 そう。あくまでも魔法っぽいである。


「例えを出そうと思うが、このままでは味気ないな」


 キザっぽく指を鳴らす。するとこの空間が、広大で天井が高いコンクリート張りの場所に変位する。


「今回のステージは灰色一色なのね」


 三人は地面を蹴ったり飛んだりして場所を確かめる。だが、これは妄想の中の話だ。四人を傍から見ると、机を合わせて座り独特な雰囲気で話しているだけ。


「では例えを出そう。我は補助を宣言する」


 神は大きく息を吸い説明しだす。


「塩基性側に変色域をもつ酸塩基指示薬であり、主に中学理科実験やコンクリート中性化判別に使用され、PHにより構造式や色濃度が変化し、アドルフ・フォン・バイヤーに発見され当初は下剤として使用されていたが、現在は発癌性が認められたため、一般医薬品から除外された物。そう……」


 ここまで一息で説明した現人は、キメるため一拍置き高二病っぽく言う。


「――世界を紅く染めろ――フェノール・フタ・レイン!!」


 現人が発動したのはフェノールフタレイン溶液だ。溶液は室内にも関わらず雨のように降り注ぐ。


「なるほどね。だからコンクリート張りか。ふーん、天才の僕はお見通しだよ」

「ねえ。たしか動物実験で卵巣腫瘍が見つかったはずだけど。大丈夫でしょうね?」

「ッチ。かっこつけやがってよォ。莉乃、紅く染めろとしか言ってない。宣言していないことは無効だろう。なァー神様よォ」

「人にしては目の付け所がいい。正解だ」

「フンッ」


 改めて言うが彼らは妄想でやっている。去年から金曜日の放課後にしているゲームだ。慣れが必要な部分も問題ない。オーダーも数十回は同じ内容でやっている。要するに茶番。だが彼らは真剣だ。それが高二病である。


「速く始めましょう。順番は私からね」


 莉乃は唐突にゲームを始めた。

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