第35話 看病で大興奮!
熱を出してグッタリとしている姉を背負い、エステルは自宅へと戻る。そのまま魔道管理局内の医療機関に入院させればいいのではと思うが、ベッド数が少なく戦闘で重症を負った退魔師が優先であるため、その余裕が無かったのだ。実際、治療を受けている退魔師達で一杯となって、廊下まで患者の寝床となっている。
そんな環境下では姉を静養させるなど不可能だし、慣れ親しんだ自宅で休む方がリラックス出来るだろう。
「ごめんね、エステル……迷惑をかけちゃって」
「うふ、迷惑なんてとんでもない。いつも助けて頂いているのですから、たまには私もお役に立ちませんとね」
魔物との戦闘にて、エステルはメテオールによる援護を受けているから死角の心配をせずに突っ込んで行けるのだ。そんなステラに恩返しする機会は少なく、こういう時だからこそ力を入れざるを得ない。
少し時間は掛かったが自宅へと到着し、エステルは姉をベッドに寝かせる。
「情けないな、わたしは……こんなんで倒れているようではね……」
「退魔師とはいえ超人無敵なわけではありません。体調が悪くなることもありますでしょう」
「そうかもだけどさぁ」
「前回の休暇は充分とは言えないものでしたし、この機会を利用してお休みしても罰は当たりませんよ。心労だって原因の一つなのですから、姉様は静かにお休みください」
自分の至らなさを責めているステラに対し、エステルは優しい笑みを携えながら布団をかける。その姿は母親のようで、いつもとは立場が逆転したかのような光景が展開されていた。
「わたしに治癒術を使える能力があれば一瞬で姉様を癒せたのに……」
「治癒系の能力は伝説レベルの希少な存在だし、発現している人間は世界でも極少人数だものね。アストライア王国には一人もいないんだよねぇ」
「となれば古典的な看病でいきます。まずはタオルを濡らしてきましょう」
部屋を出ていくエステルを見送ったステラは、シンと静まり返った室内で急に心細くなる。体が弱っている時は人肌が恋しくなると言われているが、それは真実なのだなと実感していた。
それから数時間後、ステラはハッとして目を覚ます。エステルが戻ってくる前に、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「額のタオル…エステルが持ってきてくれたのか」
ぬるくなっているタオルに手を当てつつ周囲を観察するが、どこにもエステルはいない。
ステラはまだ熱でクラクラとしながらも、エステルを探しに行こうと上体を起こす。これは無意識の行動で、どうにもエステルが視界内にいないと落ち着かなかった。エステルだけでなく、ステラも依存度はかなり高いようだ。
その時、ガチャッと扉が開き、お盆を片手に持ったエステルが顔を覗かせる。
「あら、起きていらっしゃったのですね」
「今ちょうどね。わたし、結構眠ってた?」
「はい。その間に、チョットしたチャレンジをしまして……」
と、エステルはベッドの脇にあるサイドテーブルにお盆を置く。その上には小さなお椀が乗せられていて、ステラの見知らぬ料理が湯気を立てていた。
「コレをご存じですか?」
「お米の湯漬けみたいだね?」
「お粥という料理なんですよ。極東地域にある日ノ本という島国でよく食べられているモノだそうで、体調が悪い時などでも食べやすいとか」
「へぇ……って、エステルが作ってくれたの!?」
「は、はい。以前購入した本に記載されていたものを、家にある食材を用いて再現してみたのです。まぁ私の料理スキルは壊滅的なので、味の保証は出来ませんが……」
エステルは家事全般が不得意で、特に料理は最も苦手とするジャンルである。これまでもステラの手伝いをした事はあっても、自分だけで何かを作るという事はしなかった。
しかしステラがダウンした今、動けるエステルがやらなくてはならないし、これ以上衰弱させないためにも食事は欠かせないとチャレンジしたのだ。
「でも見た目は悪くないでしょう?」
「美味しそうに見えるよ。そっか、頑張ってくれたんだね」
「姉様のためですから。さ、わたしが食べさせて差し上げましょう」
スプーンにお粥を少量乗せて、ステラの口元へと運ぶ。エステルは餌付けをしているような気分になり、差し出されたスプーンを口に入れる姉に対しゾクゾクとした得も言われぬ感覚を覚えていた。
「ああ、姉様がわたしの料理を食して下さっている……」
若干恍惚とした顔つきになるエステルだが、姉の様子を見て正気に戻る。何故だか知らないが一筋の涙が頬を伝っていたのだ。
「姉様!? 涙する程にマズかったのですか!?」
「ううん、そうじゃないの。嬉しくて……すごく美味しいしさ」
妹の気遣いがたまらなく嬉しく、自然と涙が溢れたらしい。体調の悪さのせいで、感情に脆くなってしまっているのだ。
気恥ずかしさを感じるステラは熱とは関係なく顔を赤らめつつも、おかわりを要求する。
「ほら、もっとちょーだい」
「うひょひょ、やっぱりエッチですね」
あーんと口を開けるステラに対し、不可解な笑いを浮かべながら再びお粥を乗せたスプーンを差し出す。
「たまには、こういうのもイイね。エステルにお世話されるってのもさ」
「確かに姉様をお世話するのってたまりませんね。いっそ、このまま姉様は何もせずに私に全てお任せいただくというのは?」
「エステルにばかり負担を強いるなんてとんでもない。早く元気になってお返ししないと」
ステラにとって、エステルのために働くというのは苦ではない。むしろ、エステルを養うのが自分の天命だと思っているのだから。
「でもエステルの成長が見れたようで嬉しいな。ふふ、こうして生活スキルを身に着ければ、一人でも生きていけそうだね?」
「そーいうの冗談でもヤメてください。生活スキルだとかがあっても、姉様がいなければ生きていけないって前から言っていますでしょう?」
「ごめんごめん。可愛いからさ、からかいたくなっちゃって」
「か、可愛い……でゅふふ」
姉のウインク交じりの言葉に、エステルは身を悶えさせながら悦んでいる。他の人間に可愛いなどと言われても反応する事はないだろうが、姉からであれば快楽物質のようになって脳を蕩けさせるのだ。
そうして食事を終えた頃には陽が落ち、夜虫が小さく鳴く時刻となっていた。
「さて、ではちょっと失礼」
「エ、エステル?」
エステルはゆっくりとステラに顔を近づけていく。その真剣な眼差しも相まって、ステラはドキドキとしながらも動かずに見つめ返す。
「ま、まさかキス…!?」
「熱の具合を確かめるために額を当てようとしたのですが……もしかして、キスをご所望でしたか?」
「勘違いしちゃっただけなの!」
「あらあら。ま、そういうことにしておいて差し上げます」
ニヤニヤしながらエステルはステラと額を合わせる。二人の体温が溶け合い、吐息が入り混じっていく。
「まだ熱は下がっていないようですね」
「エステルもわたしと同じくらい体温上がっているような…?」
「ああ、それは私が興奮しているだけなのでお気になさらず。体のダルさとかも無くなってはいないですよね?」
「うん、歩くのは辛いかも。トイレも大変だな」
「心配いりませんよ。トイレだろうがなんだろうが私にドーンとお任せください。ちょいとお待ちを」
大きな胸をトンと叩くエステルは、食器を台所まで運ぶために一時退室するが、水を貯めた桶を持ってスグに舞い戻る。
「姉様はお風呂が好きですよね? でも、体がダルい状態じゃ入れないですし、私が拭きますから!」
「な、なるほど。それは助かるかも」
「でしょう? これは決してドサクサに紛れて姉様のお体に触りたいとかではないので!」
「う、うん。いつも触っているわけだし、別に構わないけどね?」
「なら存分に楽しませて頂きます!」
まずはステラの服を脱がし、その柔肌を外気に晒す。少し汗ばんでいることもあり、薄暗い部屋の中でかなり淫靡な雰囲気を醸し出していた。
そんな姉の姿にドキドキしながら、ステラはぬるま湯を含めたタオルを背中へと当てる。
「熱くはないですか?」
「うん、大丈夫。ああ、キモチイイよ」
「いけません姉様、本当にえっち過ぎます」
いくらなんでもこの妹は頭の中がピンク過ぎると思うが、もう慣れたものだとステラは心地よさに身を任せて目を閉じる。
「背中とかはこんなものですかね」
「じゃあ前もお願いしようかな」
「よろしいので!?」
「それ以外も全部ね。頼めるかな?」
「はい!!! もちのろんです!!!」
大興奮でエステルも体温を急上昇させつつ、姉の言う通りに体の隅から隅まで洗い上げるのであった。
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