第13話 邪気の籠った視線

 コニカの街を徒歩で出たステラとエステルは、偵察隊からの報告があった魔物の集結地点へと向かう。王都から乗ってきた馬を使えば楽に移動も出来るのだが、戦闘に巻き込んで死なせてしまうわけにはいかないと置いてきていた。


「敵の総数が不明ともなれば、やっぱりコニカの退魔師にも協力を仰いだほうが良かったかな?」


 ステラはコニカの治安維持部門からの提案を断り、護衛を付けることもなくエステルと二人で討伐に出ることを決めた。これは、ただでさえ戦力の落ち込んでいるコニカの退魔師を分散してしまうのは危険だと考えたからである。


「その必要はありません。私と姉様で充分に対処できますよ。それに、私達のコンビネーションを邪魔されたくありませんし」


 エステルにとって姉以外との共闘はマイナス要素でしかなかった。ステラとの息の合った連携こそがステラテルの真髄であり、他の退魔師が余計な手出しをすることで連携が崩される可能性を排除したいと考えている。そのため、自分達の実力を発揮するには二人きりのほうが都合がいいのだ。


「なにも心配いりません。いつも通り、私達の力を敵に見せつけるだけです」


「ふふ、頼りがいのある妹がいてくれて良かったなって本当に思うよ。さっさと終わらせて帰ろう」


 そうして双子は平原を進んで行く。風で揺れる草木を見ていればピクニック気分にもなるが、


「…くる」


 何かおぞましい感覚が二人の意識に溶け込んできた。これは間違いなく魔物などの類いだと直感する。


「魔物…しかも多い。でなきゃこんなに不愉快さを感じさせてくるもんじゃない」


 ステラが視線を走らせると、斜め前方から土煙を巻き上げつつ突進してくる集団が目に付いた。それらは動物ではなく、明確な敵意と殺気と共にステラテルを狙ってきているのだ。


「敵は戦力の再編成を終えてコニカへ進撃する途中だったようですね」


「探す手間を省くことができて助かった。準備はいいね?」


「いつでも」


 エステルは返事をしながら刀を引き抜く。太陽光を反射する刀身にはエステルの闘気が乗り、姉の手を煩わせずとも殲滅すると意気込んでいた。


「ふむ、敵はフェンヴォルフ型ですね。先日戦った狼型の魔物と同型の」


 フェンヴォルフ、狼にも似た姿の魔物である。大きさこそ人体より少し小さいが、だからといって油断していい相手ではない。大地を駆けるそのスピードは圧倒的なもので、近接戦のパワーも並みの退魔師を上回っている。

 それらフェンヴォルフが三十体以上はいるだろうか。圧倒的に物量差で負けていて、普通の退魔師が二人で勝てる規模ではない。

 だが、ステラテルは普通の退魔師とは違う。単純計算では算出不可能な底力を秘めた特殊な退魔師だ。


「先制攻撃はわたしがやる!」


 ステラはメテオール・ユニットを十個全て解き放ち、前方に飛ばす。そして、横並びに展開してから一斉に魔弾を発射した。


「直撃してくれれば…!」


 魔弾は光跡を残しながら真っすぐ突き進み、正面から駆けてくるフェンヴォルフの群れに突入していく。

 

「何体かは撃破できたみたいですよ、姉様」


 ビームのように輝く攻撃は視界に捉えやすいため、実際にフェンヴォルフ達は回避してみせた。しかし全てが避けられたわけではなく、数体は顔面から魔弾を浴びて胴体を貫通され絶命する。


「もう一射!」


 更にステラは高出力で魔弾を撃つ。さすがに二回目となれば敵もメテオールを強力な武器だと認識し、散開して被弾を免れようと動いてみせた。

 このため二射目の戦果は少なく、ステラは一度メテオールを呼び戻し魔力のチャージを行う。この遠隔操作武器は内部に充填された魔力をエネルギーにして動くので、消耗したら回収して再充填する必要がある。


「では次は私がやります。見ていてくださいね、姉様」


 フェンヴォルフの群れに斬り込むエステルは、噛みつこうと飛びかかってくる相手を逆に両断していく。彼女の動体視力をもってすれば回避も容易いし、同時に反撃を繰り出すのも造作もないことだ。

 エステルが近接戦闘で敵の気を引いている間に、ステラはメテオールのチャージを完了する。


「数が多いもんな…本気出さないとね。エステルが自分の周りに敵を集めてくれているのだから、一気にキメるか」


 体内の魔力を巡らせてステラは光の翼を生やした。浮遊、飛行能力を付与するこの光の翼をはためかせ、魔物の群れの上に位置取る。


「いけ、メテオール!」


 フェンヴォルフは飛行することが出来ないため、上空のステラへの対抗手段が無い。そんな一方的な状況にて、ステラは遠隔武器であるメテオールを用いて次々と魔弾を発射していく。


「姉様による対地殲滅射撃……雨あられと降り注ぐ魔弾の味、どうかしら?」


 魔弾による爆撃が開始される直前、その攻撃を予測していたエステルはバックステップで安全圏まで後退していた。言葉にせずともお互いの考える作戦などお見通しで、こういう素早い連携は二人だけで戦うからこそだ。

 エステルの目の前で繰り広げられる激しい空襲により、フェンヴォルフはアッという間に撃滅される。もはやステラテルの手に掛かれば、この程度の敵など瞬殺であった。




 そんな平原の戦場を遠くから見守る者がいた。青紫の長髪を風に靡かせる妖艶なる美女は、整った顔を不愉快そうに歪めている。


「チッ、ありゃなんだってんだい。並みの退魔師じゃあないね……ッたく、アタシの邪魔を……!」


 怒りと邪気の入り混じった感情を剥き出しにし、その美女は禍禍しいランスを携えて背中の黒い翼をはためかせた。

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