第12話 コニカの窮地を救え
コニカと呼ばれる街は農業地帯と隣接し、アストライア王国内に流通する食料品の半数はココを産地としている。つまり、この街が失われれば深刻な食糧危機が訪れるわけで、防衛戦力も多く配置されているのだ。
だが、それでも王都に救援要請をするということは、かなり窮地に陥っている証左だろう。
そのピンチにたった二人の支援というのは心許ないように思えるが、ステラテルと呼ばれる国家内でも優秀な退魔師ペアなら状況を好転させられると期待されているのだ。大戦力を動かせるほどの余裕が無いというのも実情ではあるが。
「ようこそ、コニカへ。お二人はウワサのステラテルという退魔師さんコンビですね?」
街の入口近くには小さな馬宿があり、受付にて若い従業員がステラとエステルを笑顔で出迎える。
「ええ、まあ。魔道管理局の遊撃隊所属、ステラ・ノヴァとエステル・ノヴァです」
「かの有名なお二人が来て下さったなら安心ですね! この街も退魔師が亡くなったり怪我をしたりと……いろいろ大変でして」
「魔物の襲撃が激しくなってきたのですね?」
「はい。先日も結構な数の魔物が進軍してきましたよ。なんとか撃退しましたが、また次の攻撃があるかもしれませんし、夜も不安で眠れません」
「そうですか……」
王都から乗ってきた馬を預け、双子はコニカの役所へと向かう。国家機関の魔道管理局の一員として、ひとまず街の現状を把握しなければならない。
街の中心部には三階建ての役所施設があり、その中に設置されている治安維持部門へと案内される。
「お待ちしておりました! いやぁ、あのガラシア様のお孫さんにお会いできて光栄です!」
街の治安を司る部門長は、管理局局長と同い年くらいの初老の女性であるが、あまり威厳を感じさせない雰囲気だ。気さくさがありつつも頼りない物腰である。
「どうもどうも。ワタシはコニカの治安維持部門を指揮しているナレットです。王都に助けを求めたのもワタシでして、お早目の到着には感謝ですよ」
「管轄に囚われず迅速に展開できるのが遊撃隊の長所ですので」
部門長ナレットの握手に応じながらステラがそう返答する。実際、多くの退魔師は所属する地区の防衛に専念しているため簡単には配置換えは出来ず、遊撃隊のような特定の管轄を持たずに柔軟に動ける部隊は重宝されているのだ。
ちなみに、当然というかエステルは姉に触れるナレットにジト目を送っている。
「馬宿の方にもお聞きしましたが、コニカ所属の退魔師に結構な被害が出ているようですね?」
「ええ……先日の戦闘で多くの損害が出ています。これでは防衛線を構築するのも困難でありまして……」
「どれほどの敵が来たというのですか?」
「総数は不明ですが相当数との報告です。もはや軍団そのものの規模に攻め込まれ、死闘の末にかろうじて撃退できたのですよ。しかし、逃走した敵を尾行した偵察隊によると、国境沿いにて戦力の再編成が行われているとか……仲間を呼びこんでいるのかもしれません」
「再びの攻撃が予想される状況なのですね」
魔物の中には執念深い種もいて、敵対者を徹底的に叩き潰すことを悦びにしている種もいる。こうした戦闘特化な魔物がコニカを執拗に狙っているのかもしれず、仲間を呼んで再攻撃を計画しているとなれば危機的だ。
「ですから、お二人にはコニカの退魔師が万全な状態になるまで防衛に参加してほしいのです」
「了解をしました。が、ここは打って出るべきかもしれません」
「う、打って出ると仰る…?」
ステラの提案にナレットは驚き、少々上ずった声で聞き返す。現状では攻勢に出るだけの余力は無く、守りで手一杯なのだ。
「敵が戦力を整えている今こそがチャンスです。完全に戦力を回復される前に叩きます」
「うーむ…とはいえ、我がコニカの状況では……」
「いえ、ここはエステルとわたしでやります。そういう単独の行動が出来る遊撃隊ならではのやり方ですよ」
「そりゃそうかもしれませんが……やはり、さすがあのガラシア様のお孫さんだ。勇猛果敢さは噂通りですな」
心強い援軍が来たものだと、ナレットは双子の案を採用することにした。どの道ナレットに策は無いため、ステラテルと呼ばれる強力な退魔師コンビに懸けるしかないのだ。
「我がコニカからも護衛を付けましょうか?」
「街の退魔師さんは防衛に専念してもらったほうがいいですね。わたし達の攻撃が失敗した場合に備えて」
「そ、それは想定したくないですな……」
戦場では何が起こるか分からないわけで、いくら強い戦闘力を持つ者でもアッサリ死ぬかもしれない。これまで数々の勝利を収めてきた双子とてそれは同じである。
「ですが簡単に負けるつもりもありません。コニカを、アストライア王国を守るためにも魔物の侵略は食い止めてみせますよ」
「頼みます。お二人こそ我々の希望の星ですから……」
ステラは軽くお辞儀をして治安維持部門の指令室を出る。再び戦場に舞い戻る時が来たのだ。
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