第11話 双子征く、一路コニカへ

 出撃を命じられた双子は王都の外郭部にある馬宿を訪れる。ここでは乗馬用の馬を貸し出していて、その内の一頭を要請した。


「アンタ達も大変ね~。また任務なのかい」


「はい。今回はコニカまで行くんです」


 馬宿を管理する恰幅のいい女性にそう答えつつ、ステラはポケットから一枚の券を取り出して渡す。普通の場合、馬をレンタルするには少々値の張る料金が必要となるのだが、このように国家からの任務によって利用する際は無料となって、その証明のための券であった。

 南東部の街コニカまでの距離は、王都から約十キロメートルである。徒歩でも向かうことは可能だが、できれば楽をしたいと考えるのは人間のサガだろうか。


「魔物の侵略が激しくなって以降は、他の街へ旅行する人がメッキリ減ってしまったからねぇ。王都なら戦力も充実しているから安全だって引き籠っているのさ」


「確かに地方の街は魔物に対する最前線となって、いつ襲撃を受けるか分からない恐怖もありますからね……」


「そんなではアタイらも商売あがったりでさ……ま、アンタ達退魔師に協力すれば王宮から手当が出るから、なんとか食い繋げてはいるけど。しかし、どうにか平和な時代に戻ってくれないものかなぁ」


「わたし達の頑張りに色んな方々の生活が懸かっているとなれば、ますます気合いを入れないとですね」


「今から戦場に行く若人にプレッシャーをかけるつもりはなかったんだよ…すまないね」


 局長などもそうだが、愚痴が出てしまうのも仕方がないくらいに皆参っているのだ。それを命を賭して戦う退魔師に言うのは良くないと思うが。


「ちゃんと生きて帰ってくるんだよ。死んじまったら御終いなんだからさ」


「お馬さんもちゃんと返却しないとですしね」


「そりゃ馬も大切だけど、アンタ達だってお国の宝なんだから」


 国土があっても国民がいなくなってはタダの土地にしか過ぎない。つまり、人材とは国の宝そのものであり、ステラテルのような若い人間こそが国家の未来を作るわけで、理不尽な戦闘で命を落とすべき存在ではないのだ。


「さ、おいでエステル」


 管理者が連れてきた毛並みの良い馬にステラが跨り手綱を握る。その後ろにエステルが乗って、ステラの腰に手を回して掴まった。


「別に二頭貸出しでもいいんだけどね」


「一頭で大丈夫ですよ。エステルはわたしの後ろがいいって言うので」


「ホント、アンタらは仲が良い双子だわねぇ。なかなか他にはいないわよ、血縁でもそんなに絆が強いのは」


「まあ、イロイロと訳アリなものですから……」


 退魔師というだけで一般人とは異なる人種とも言えるが、その中でも二人は特別な力を有している。このため、息の合ったコンビネーションを取れる者が他におらず、だからこそ姉妹はお互いに依存するような形であるのだろう。

 ステラが手綱伝いで馬に前進の指示を出し、王都を後にするのであった。






 コニカへ向かう道中は平穏で、国家が危機に瀕しているとは思えない。これは退魔師が国境沿いにて魔物を食い止めているからであり、領土内への侵入を許せばこの穏やかな平原すらも戦場と化してしまうのだろう。


「姉様は相変わらず馬の扱いがお上手ですね」


「えへへ、わたしの数少ない特技だからね」


 爽やかな風と共に駆け抜ける馬を手繰るステラ。単に軽く乗馬するのとは違い、長距離を高速で進ませるのは技量が必要となる。しかし、ステラはいとも簡単にといった様に操り、馬もストレスを感じていないようであった。

 そんなステラの後ろから掴まるエステルは楽しそうに口角を上げている。自然に姉と密着できるシチュエーションを満喫しているのだ。


「しかし、馬が羨ましいです……」


「え?」


「姉様に跨られて、しかもこう…腰を……」


「えぇ……」


 よく分からない嫉妬を馬にしているエステルは、ギュッと姉の腰に回す手に力を籠める。決して締め上げているわけではなく、愛情表現の一種で自分をもっと感じて欲しいという欲望からの行動だった。


「私以外が姉様と濃厚接触しているのが許せない性分ですから」


「濃厚接触…?」


「ダメですよ、他のヤツにカラダを触らせたりしては」


「そんなコトしないよ!」


 エステルは姉のボディーガードとしての役割を持っていると自負していて、実際に姉をナンパしようとした不届き者を懲らしめた事もある。ここまでくると愛が重すぎるようにも感じるが、ステラはむしろ安心だなと頼りにしてさえいるらしい。


「逆に私が他の誰かに触られたりしている場面を見たら、姉様はどう思いますか?」


「イヤかな」


 かくいう姉も大概である。普段口にしないだけで、コッチはコッチで妹と似た思考のようだ。


「うふふ……姉様に大切に想って頂けている幸せ……」


 幸福に浸るエステルだが、その時間は長くは続かない。目的地である街、コニカが視界に入ってきて、場合によっては到着後スグに戦場に出なければならない可能性もあるのだ。

 平原を疾駆する馬は徐々に減速して、コニカの領地内へと足を踏み入れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る