第14話 魔女パラニアの脅威

 フェンヴォルフの群れはステラの砲撃によって蹴散らされ、これで一件落着かとエステルは刀を鞘に納めた。普通の退魔師には脅威的な相手であっても、さほど苦労せずに勝利できるのは流石はステラテルである。

 周囲一帯に散らばる魔物の残骸を回収するようにコニカの退魔師に依頼しようと、二人は来た道を戻ろうとしたが、


「ちょいと待ちな。アンタら、よくもアタシの可愛い子分を殺してくれたね」


 と、苛立った様子で声を掛けてくる者がいた。双子は瞬時に戦闘体勢に切り替え、明らかに敵意を持ったその相手を探すが辺りの平原には誰もいない。


「飛んでいる…!?」


 殺気を感じる方向にステラが目を向ける。その先は空であり、黒い翼を用いてゆっくりと降下しながらステラテルを睨んでいる。


「ヒト…じゃない。この感覚はなんなの…?」


 黒き翼の美女のシルエットは人間族そのものだ。一対の腕と足、胴体の上に頭部が存在していて、しかも人語を操る相手を見れば人だと思うのは当然だろう。ただし、露出狂のように際どいボンテージ衣装を纏っているので戦場には似つかわしくない存在に思えるが。

 そんな相手を見て、ステラは美女が人間ではないと断定した。言葉で論理的に説明するのは難しいのだが、雰囲気が違うと第六感が告げている。


「ふん、アタシを下賤な人間などと同じに思ってもらっちゃ困る。このアタシ、パラニアは魔物達の頂点に立つ資格のある魔女なんだよ」


「本物の魔女がコレなのか」


 先輩退魔師ガネーシュとの会話の中に出てきた存在、魔女。魔物という種族全体において上位種に君臨し、高い戦闘力と知能を有していることが特徴である。しかも人間にソックリな容姿をしている特殊さもあって、謎の多い魔の生命体だ。


「つくづくアンタら退魔師とやらは邪魔をしてくれる。不快なんだよ!」


「コッチにとってはソッチのほうが不快なのよ。せっかく戦闘が終わって姉様と憩いのひと時がくると思ったのに」


「なぁにが姉様よ。アンタらに訪れるのは憩いのひと時なんかじゃなく、苦痛の無限拷問だ! 子分達を殺された恨み、そのカラダに刻み付けてやる!」


 魔女パラニアは鋼鉄のランスを手に装備して、尖った先端を双子に差し向けた。この重厚な円錐状の槍型武器は威圧感があり、しかも片手で軽々と扱うパラニアの腕力が尋常ではないと分かる。


「消え去りな!」


 先端部に魔力が集中して発光、直後に魔弾となって双子に襲い掛かった。これはメテオール・ユニットの魔弾よりも出力が高く、より煌々と輝きながら流星のように駆け抜ける。


「近接戦用の武器でああいう攻撃をするとは…!」


 何かしらの攻撃が来ると予測したステラとエステルは、それぞれが左右に跳躍して回避していた。この素早い判断と動きが生死を分け、卓越した反射神経がなければ不可能な芸当である。

 しかし、避けることに成功したとはいえステラは敵は油断ならない相手だと理解した。魔弾を飛ばしてくる魔物は他にもいるのだが火力が違うのだ。

 その証拠にランスから放たれた魔弾は地面に着弾して爆発し、円形に大きく抉って爆煙と土煙を立てている。これに直撃すれば体は木っ端微塵に粉砕されてしまうだろう。


「けれどメテオールなら!」


 ステラは再びメテオール・ユニットを射出し、上空のパラニアに差し向ける。四方からの集中砲火であれば仕留められると攻撃指示を出すのだが、


「甘いね! そんな小賢しい技でアタシを倒せると思わないことだ!」


 パラニアは接近するメテオールを視認し、撃ち出される魔弾のことごとくを避け、ランスを振り回して防御してみせた。しかも、背後や下方といった死角からの射撃も無力化したのである。

 メテオールは魔力が籠められた高エネルギー体であるため、勘の鋭い者であれば位置を感じ取れる。そして戦闘力が高ければ的確に防ぐことも難しくはない。


「そんなものかい、小娘。まぁまぁだね」


「クッ……」


 残弾が空になったメテオールを呼び戻すステラは焦りを隠せなかった。こうも攻撃が通じないとなると自信もへし折られ、今までにないプレッシャーに汗が流れる。


「姉様を侮辱するなど許さない!」


 ナメた態度でステラを見下すパラニアにキレたエステルは、翼を生やして一気に飛翔。瞬時にパラニアの高度まで到達し、刀を引き抜きながら敵を両断しようと迫った。


「次はアンタかい? いいよ、叩き落としてやる」


「調子に乗るな!」


「パワーは充分…チョットは楽しめそうだね」


 怒りを力に変換するエステルの斬撃をランスで受け止め、パラニアは不敵な笑みを浮かべている。久しぶりに全力を出して戦える相手だと闘争本能が燃え上がっているようだ。

 

「バカにして! そうも余裕をかましていられるのは今だけよ!」


「実際に余裕なんだよ。アンタをこうして弾き飛ばすのもさァ!」


「チィ!」


 ランスを振り回してエステルを弾くパラニア。大型魔物と同等レベルの身体能力を発揮し、エステルを寄せ付けない。


「ひゃひゃひゃ! いくらアンタらが特殊な人間でも、魔女には勝てないということを教えてやるよ!」


 興奮気味に嘲笑し、パラニアは漆黒の翼を使って加速していく。ランスを構え、エステルを串刺しにしようと攻勢に出たのだ。

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