第15話 死線照射のプレアデス・エレファンテ

 突如として襲撃してきた魔女パラニアを迎撃するエステルだが、相手の方が純粋なパワーで勝っているために押し負けそうになっていた。刀の素早い斬撃にすら対応され、パラニアの大型ランスに弾き返されてしまう。


「魔女というのは案外やるわね。けれど!」


 ランスの鋭い突撃を回避したエステルは呟きつつ旋回する。確かに強敵ではあるのだが臆することはなく、勝利のために戦うのみだ。


「ちょこまかと…まったく鬱陶しいヤツ」


 パラニアは攻撃をギリギリで避けるエステルにイラ立ち、次こそは仕留めると気合を入れ直したのだが、


「ン? またあの誘導武器を飛ばしてくるか」


 ステラのメテオール・ユニットの飛来を感知し、エステルへの攻撃を中断して防御に専念する。この遠隔誘導式の兵器は厄介にも周辺を取り囲んで射撃を繰り出してくるため、完全に包囲されないように動き回りつつ対策する必要があった。


「並みの人間なら何人いようと敵じゃないケド、コイツらはちょいとワケが違うね。ムカつくけど一人でやるにゃ手間が掛かりそうだ……」


 見下すべき対象である人間に苦戦するというのはプライド的に許さないのだが、パラニアは冷静さを失ってはいない。現状の戦力バランスを理解し、更なる手を考えていた。


「となれば、とっておきを使わせてもらうよ。人間の街を蹂躙するための子分をアンタ達で試す!」


「は? 一人で何をぶつくさ言っているのコイツは」


「目にモノを見せてやるって言ってンだよ!」


 メテオールを振り払い、エステルに啖呵を切りながら飛び去るパラニア。これは負け惜しみなどではなく、むしろ新たな攻勢に出ると宣言する挑発だ。


「撤退ではないわね。とっておきとか言っていたし、厄介な切り札でもあるのかしら?」


 逃げたわけではなく秘策を投入しようとしていると分かれば、エステルには追撃をしないという選択肢は無い。


「アイツには企みがあるようです。私が先行して追いますので、姉様は魔力を回復してから来てください。メテオールへの充填で体内魔力量が減っているでしょうから」


 ステラの操るメテオールは稼働、射撃に多くの魔力を必要としている。そのため、他の退魔師より体内魔力量が多いステラであっても連続使用をすれば消耗を避けられず、フェンヴォルフ戦での攻撃も合せれば結構な魔力が失われているのだ。


「でも一人じゃ危ないよ」


「ご安心を。あんなヘンテコなヤツに負けたりしませんよ。それに、必殺の一撃が必要な場面があるかもしれませんから、充分に回復したほうが得策です」


「エステルの魔力量は大丈夫なの?」


「問題ありません。最低限に抑えつつ戦っていたので、まだまだ余力はあります。なので、敵の動きを牽制しつつ姉様を待ちますよ」

 

 と、エステルは地面を蹴って飛翔、魔女パラニアの後を追っていった。






「厄介な人間が出てきたモンだよ、まったく……お手軽にイケると思ったのに」


 愚痴を口にしながらも、一時的に後退していたパラニアはハタと滞空停止して地面を見下ろす。彼女の視線の先にいるのは巨大なゾウ型の魔物で、全高は八メートルは超えているだろうか。


「アタシが用意した”プレアデス・エレファンテ”の特殊体ならば!」


 大地を踏み鳴らしながら進撃する巨大な魔物はプレアデス・エレファンテと呼ばれる種らしく、その中の一個体をパラニアが捕獲して改造したのが眼下の特殊体である。顔の両側に大きく開いた耳を持ち、長い鼻などゾウそのものと言える特徴はあるのだが、胴体にはスパイク状の棘が多数あってシルエットは凶暴で威圧的だ。


「コイツとアタシで叩き落としてやるよ、人間!」


 追いかけて来たエステルの気配を察知し、パラニアはランスを差し向けながら叫ぶ。


「こんな魔物まで準備していたなんてね。まあいいわ。どっちも私が殺してあげるから」


「よくホザく娘だ。だがね、その余裕が続くかね?」


 パラニアは配下のプレアデス・エレファンテに攻撃の指示を出す。

 すると、このゾウ型魔物は大きな咆哮を雄叫びのように轟かせ、顔面の前面から伸びる鼻を稼働させた。長大な鼻の先端がエステルに向けて固定する。


「チッ!」


 エステルは敵の意図を理解し、急激な上昇をかけて退避を行う。

 直後、プレアデス・エレファンテの鼻の先がカッと赤く発光し、照射レーザーのような魔弾を放ってきた。ホースから水を噴射するが如く、途切れることなく灼熱の魔弾が一直線に流れ続けるのだ。


「鼻を動かして射角を変えてくる…!」


 更に、鼻の角度を調整することでエステルを追撃したきたのである。この照射攻撃から逃れるにはひたすら飛び回るしかなく、エステルは複雑な回避運動によってなんとか迫る光線から逃げ続けていた。


「厄介な相手ね……」


 プレアデス・エレファンテという種は飛行能力こそ無いものの、それを補い空からの襲撃者を撃破するための力を持っている。この力もパラニアによって強化され、普通のプレアデス・エレファンテが単発の魔弾しか撃てないのに対し、三十秒以上も照射可能なレーザー兵器へと変貌していた。

 ようやく射撃が止まったことに一息つきながらも、急速に接近してくるパラニアを迎撃するべくエステルは武器を構え直した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る