第7話 空中高速機動戦

 大空を駆け巡る魔物、ハイぺリオン・コンドルを迎撃するべく、ステラとエステルは魔力の翼を生やして高度を上げていった。その姿はまるで天使族のようで、翼を持たない味方の退魔師達は息を呑んで見送ることしか出来ない。


「飛べるのはアナタ達だけではないのよ。さあ、コッチに来なさい!」


 エステルの挑発の言葉に呼応するようにハイぺリオン・コンドル五体が進路を変え、目を攻撃色に変化させて加速していく。

 大柄な怪鳥が目の前から迫る光景は恐怖そのものでしかないが、エステルは全く畏怖を感じることもなく刀を差し向けた。


「切り裂く!」


 群れの先頭を飛ぶ個体が鋭いクチバシでエステルを串刺しにしようと突撃。そのクチバシは魔力でコーティングされているのか薄く発光していて、さながら槍状の武器そのものにも見える。

 当然、こんなモノをマトモに喰らえば即死は間違いない。だが、エステルはあえて真正面から挑み、突き出されたクチバシをスレスレで避けてから刃を頭部に叩きこんだ。


「まずは一体ね」


 さすがに魔物であっても頭部を破壊されれば無事では済まない。これは人間や動物とも共通する弱点であり、額部分から首までサックリと両断されて一瞬にして絶命した。

 墜落していくハイぺリオン・コンドルの亡骸。会敵後に瞬時に一体が撃破されて、残った魔物達は狼狽え、地上の退魔師は勝機を見出し歓喜に沸いている。


「やっぱりステラテルはダテじゃないね。不甲斐ない私達の代わりに頼んだぞ」


 そのガネーシュの応援は聞こえていないが、エステルは続けてもう一体へと斬り込んでいく。

 しかし、ハイぺリオン・コンドルも怖気づいているだけではない。エステルの強さを認識しつつ反撃に打って出たのだ。


「なるほど。そういう攻撃手段を……」


 無暗に接近するのは危険だと判断したのか四体のハイぺリオン・コンドルはコンビネーションを発揮し、上下左右から取り囲んでフェイントを交えつつエステルに肉薄しようと画策する。


「けれどアナタ達は忘れていないかしら? 私の敬愛する姉様にも狙われているということを」


 不敵にエステルが笑みを浮かべた直後、ステラが放った十個の遠隔操作端末”メテオール・ユニット”が縦横無尽に空を駆け巡り、ハイぺリオン・コンドルを襲撃しはじめた。

 三角形型の形状をしたメテオールは、その頂点部分から魔力を凝縮した魔弾を撃ち出すことが可能だ。ビームのような一条の閃光となって、エステルに夢中になっている敵の背後から奇襲を仕掛ける。


「こうなれば烏合の衆というヤツね。消え去りなさい」


 メテオールの攻撃で負傷したり慌てふためく魔物達。連携が崩れ隙が多くなって、姉の支援を受けるエステルが仕上げとばかりに攻勢を強めた。


「これで二つ! あとは三体!」


 素早い斬撃で二体目のハイぺリオン・コンドルを仕留め、続けて三体目へと接近する。

 その個体は自分がエステルのターゲットになったと分かったようだが、メテオールの射撃で羽を撃たれて機動性能が大幅に落ちていたことから逃亡もままならない。

 最後の抵抗とばかりに足を使ってエステルに掴みかかろうとするも失敗し、逆に胴体を刀で輪切りにされて撃破された。


「姉様、一体がソッチに!」


「任せて!」


 ステラこそが厄介なメテオールを操作する主だと断定したのか、ハイぺリオン・コンドルの一体がエステルから離れて強襲をかける。姉を守りたい一心のエステルからすればこの取り逃がしは失態であり下唇を噛んだ。

 しかし、ステラとて退魔師である。焦ることなく敵の動きを見極め、クチバシによる刺突を余裕をもって避けてみせた。


「ソッチから来てくれるのならば!」


 メテオール四機を呼び戻し、自身の周囲に滞空させ迎撃の準備を整える。

 そして、旋回して戻ってきたハイぺリオン・コンドルに照準を合わせた。魔物は仲間を失い高度な連携プレイが不可能となったため、直線的な近接戦を挑むしかなくなったようだ。

 だが、その単純な動きはステラにとって好都合である。


「真っ直ぐな軌道であれば狙撃も難しくはない……そこッ!」


 ハイスピードで再び突進してくる敵の両翼目掛けて魔弾が発射され、見事に翼を破壊する。付け根から吹き飛び、飛行能力を失って墜落していった。

 姉の無事を確認してホッとしつつ、エステルは最後の一体へと視線を移す。


「これで終わりよ!」


 生存本能よりも闘争本能が勝っているのか、はたまた同族を討たれたことへの怒りなのかは分からないが、残る一体は無謀にもエステルに挑んできた。

 ハイぺリオン・コンドルは高度を上げ、エステルの頭上から急降下を行う。


「さようなら」


 超重量とスピードを合わせた強烈な攻撃がエステルに降りかかるハズであった……のだが、その前にメテオールの支援砲撃が直撃して姿勢が崩れ、更にエステルの目にも留まらぬ刀の一閃が加えられた。

 断末魔すら口にすることもできず、最後の一体も他のハイぺリオン・コンドルのように大空で散ったのであった。

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