第6話 光の翼、天空の戦場

 強い日差しが照り付ける中、ステラテルの二人は街を出て丘を越える。その先には先日戦った巨大魔物の死骸が転がっており、既に腐敗臭を漂わせていた。


「ガネーシュさん、お待たせしました」


 双子よりも先にガネーシュや他の退魔師が魔物の解体をしていて、持ち帰れそうな部分などを剥ぎ取っている。死骸はグチャグチャに潰れているため有用な部位は少ないが、甲羅や体内の心臓部などの摘出を行っているようだ。


「このサンドローム・トータスのペチャンコ具合を見れば、キミ達双子の必殺技の威力を容易に想像できるよ。たしか、双星のペンタグラムだっけか?」


「はい。わたしとエステル二人で編み出した技なんです。五芒星型の魔法陣で敵を囲み、押しつぶすようにして一気に倒すんです。これなら大きな目標であっても撃破可能なんですよ」


「他の退魔師でアレほどの威力の技を繰り出せる者は、少なくともアストライア王国にはいないだろうねぇ。キミ達に女王陛下や王宮の人間が期待をかけるのも頷けるよ」


 双星のペンタグラムの発動は神秘的な光景でありながらも、圧倒的な暴力の象徴でもある。あの技を見た者は心惹かれたり、畏怖を感じて震えが止まらなくなるという。

 女王もまた双子の力に興味を持ち、だからこそ遊撃隊のメンバーとして選出したのである。


「では、わたし達も魔物の解体を始めますね」


 ステラはサンドローム・トータスの頭部付近へと移動し、持ち帰れそうな部位を探す。甲羅の内部に引っ込めて魔力チャージをしている最中に潰されたこともあってか、頭部は体内でひしゃげて周りの血肉とほとんど一体化している。


「うーん……牙の一本でもあればと思ったんだけど」


「とてもグロテスクな光景ですね……姉様、牙は粉々になって原型を留めている物は無いようですよ」


 異臭に鼻を曲げながらエステルはそう報告した。もはや眼球や脳部なども見当たらず、有益な品は見つからないだろう。

 仕方ないと他の部位も調査しようとした、その時、


「敵だ! 魔物が来ている!」


 とガネーシュの叫ぶ声が聞こえた。

 慌てて双子はサンドローム・トータスの残骸から離れ、ガネーシュの指さす方向へと目を向ける。その指は空を示していて、黒い影が五体飛行して来ているのを視認した。


「飛行型の魔物……アレは、ハイぺリオン・コンドル!?」


 鳥類のコンドルに似た魔物、ハイぺリオン・コンドル。漆黒の翼を駆使して滑空するソレは、全長にして八メートルを超える大きさを誇っていた。

 巨影を落としながら風に乗る姿は大空の覇者としての風格があり、まだ距離があるにも関わらず退魔師達は圧倒的なプレッシャーを感じる。


「サンドローム・トータスの死体を喰いに来たのでしょうね」


 通常のコンドルは主に動物の死骸を食べ、空のハイエナとも呼ばれている種だ。その特性を魔物のハイぺリオン・コンドルも引き継いでおり、魔物の亡骸を捕食している。

 そんな魔物であるならばサンドローム・トータスの巨体はまさに絶好の餌となるわけで、目ざとく発見したのだろう。

 突然の襲撃者を前にし、ガネーシュは仲間の退魔師を動員して対策を練る。


「これは厄介だけど、私の魔弓ならば撃ち落とせるかもしれない。やってみるか」


 ガネーシュは背負っていた弓を手に持った。この魔弓と呼ばれた武器は退魔師用にカスタムされた物で、魔力を流すことで光の矢を形成できる。つまり、物理的な矢を持ち歩く必要が無く、魔力がある限り射撃可能となるのだ。

 この遠距離用武器でガネーシュはハイぺリオン・コンドルを狙う。


「直撃させられれば!」

 

 魔弓に装填された魔力の矢を飛ばすガネーシュ。音速にも迫る速度で飛翔していき、もう間もなくという距離まで近づいていた敵の群れに突っ込んでいくが、


「やはり避けられてしまうか……矢に誘導機能でもあれば当てられそうだが……」


 魔力の矢は発光しているため捉えやすく、機動力のある魔物ならば回避するのは難しいことではない。実際にハイぺリオン・コンドルは悠遊と旋回して矢を避け、退魔師達を明確な敵と断定して攻撃体勢に移る。


「上空から急速に降下して襲ってくるつもりのようだね……」


「ここは任せてください。わたしとエステルならば空で敵を倒せます」


「ああ、そうか。キミ達ならばやれるか」


 失念していたとガネーシュは双子に出番を譲った。

 ステラテルは王国内でも強力な退魔師であるとはいえ、遥か上空をテリトリーにする魔物に一体どうやって対抗するというのだろうか?


「エステル、久しぶりにアレをやるよ」


「はい、姉様。準備は万端です」


 ステラとエステルは目を閉じ神経を集中させる。

 すると、二人の背中から光が放出されはじめた。半透明な白銀色で、オーロラの幕のような形へ変化していく。


「これがステラテルの能力……魔力の翼か」


 やがて光は収束し、双子の背中に天使を思わせる翼が生えたのだ。

 この魔力の翼は他の退魔師では展開することができず、双星のペンタグラムと同じで王国内ではステラテルだけが持つ能力である。


「戦場が空になるだけで、いつも通りの戦法で倒せるはず。頼りにしてるよ、エステル」


「ふふ、姉様に私のカッコイイところをご覧頂くためにも頑張りますよ。あの化け物コンドルどもを細切れにしてみせましょう」


 と、刀を引き抜いたエステルが地面を蹴って空を目指し飛び立つ。人間離れした動きであるが翼のコントロールは完璧にこなし、はためかせて加速をかけていた。


 天空すらもバトルフィールドへと変えるステラとエステル。

 ハイぺリオン・コンドルとの空間戦闘の行方は、果たして…!

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