第二十五話 心の声

体育祭が終わり、振替休日を挟んだ次の週、俺がいつも通り登校すると、


「凛、おはよう」


蓮が声をかけてきた。


{おはよう}


「あのさ、みんなで話し合ってたんだけど、期末テストも近いし今週末、また僕のうちに集まって勉強会するんだけど、凛も来ない?今回は泊まりじゃないんだけど」


(そっか、もうテストがあるのか)


「この間のメンバーに加えて、阿久津君と委員長も誘ったら来るって」


(リレーのメンバーも誘ったのか)


教室の真ん中で、美鈴や篠崎さんが阿久津君と委員長と話しているのが見えた。


{いや、俺はいいや}


「え?何か用事でもある?」


{まぁ、ちょっと}


本当は特にこれと言って用事があったわけではない。


だが、今はみんなと集まって勉強する気分になれなかった。


みんなというか、篠崎さんとといった方が的確だが。


「そっか、来られるようになったら、いつでも言ってね」


そう言って蓮は、みんなの元に戻り会話に入る。


一瞬篠崎さんと目が合ったが、目をそらしてしまった。



「ねぇ、りんりん何かあったの」


席に着くと大久保さんが話しかけてきた。


{何かって?}


「いや、分かんないけどなんか元気さそうだなと思って」


{いや、別にそんなことはないよ}


「そう?」


「あ、そういえば、体育祭の日の夜、新之助君がりんりんの事探してたよ?」


{杉山が?}


「うん。なんか、ふーちゃんが阿久津君とフォークダンス踊ってるとかなんとか」


(杉山気づいたのか。まぁ、気づくか)


{多分大したことないから大丈夫だと思う}


「そう?」


唯は何か聞きたそうだったが、それ以上は聞いてこなかった。


「あ、それじゃあさ」


(?)






「何名様ですか?」


「二人で!」


唯がそう答え、店員さんが窓際の席まで案内してくれる。


{唯、なんで俺たち二人で喫茶店に来てるの?}


「なんでって、お茶するためだよ?」


唯が不思議そうに答える。


{それはそうだけど、なんで俺と二人で?}


「えー、なんとなく、りんりんとお茶したい気分だったの」


{なんだそれ}


「それよりさ、りんりん何頼む?」


{ブラックコーヒーで}


「おぉ、大人だね」


{ここは飲み物がおいしくて有名なんだよ}


「詳しいね」


{まぁ、前にも来たことあるから}


「えー、意外りんりん、こういう場所あんまり来なさそうなのに」


心外である。正しいけど。


「じゃあ、私はミルクティーで」


図らずも、以前篠崎さんと来た時と同じ注文になる。


{それで、なんで今日俺をお茶に誘ったの?}


「だから、なんとなくお茶したかったんだって」


唯は言う。


「私たち、友達だよね?」


{まぁ}


「だけど、あんまりお互いの事知らないじゃない?だから、親睦を深めるという意味も込めて、誘ったんだよ」


唯とは高校からの付き合いである分、美鈴や蓮や杉山と比べると確かに付き合いは短い。


「あ、そうだ!先輩たちがりんりんとふーちゃんの事褒めてたよ」


唯が言う。


「二人とも、一年生なのに作品の完成度が高いし、お客さんからの評判もいいって」


{そうなんだ}


「うん、りんりんのアクセサリーって本当にプロの人が作ったみたいだよね」


{いや、そんなことは}


「そんなことあるよ」


唯が言ってくれる。


「そういえば、りんりん、週末の勉強会くるの?」


{いや、俺はいかない}


「え!?そうなの?」


唯が驚く。


「何かあるの?」


{まぁ}


「もしかしてさ、ふーちゃんと何かあった?」


{なんで?}


「いや、そんな気がしただけだけど」


{別に喧嘩したとかではないんだけど、ちょっと気まずくなっちゃって}


それから俺は唯に、ことの経緯を話した。


「なるほどね。りんりんはふーちゃんとの関係性に悩んでいるんだ」


{そんなとこ}


「りんりんは、ふーちゃんとどうなりたいとかないの?」


{篠崎さんは、素敵な人だとは思うけど、それはあくまで人としてというか。俺は、今がすごい気に入ってるし、これ以上何かを求めたこととか無かったし}


「じゃあさ、例えばふーちゃんが他の人とと付き合ったりしても、りんりんは辛くならない?」


{え?}


「今のままがいいっていうのは私も分かるよ。何かが変わるのって、怖い部分もあるからね」


唯が言う。


「でもさ、好きな人がそれを理由に自分に向き合ってくれなかったら、私ならちょっと寂しいかな」


唯からそんな言葉が出てきたことに少し意外さを感じた。


「もちろん、りんりんがちゃんと向き合って出した答えならそれでもいいと思うけどね」


最近いろんな人に諭される機会が多きがする。


周りが大人なのか、俺が子供なのか。



そのあと、唯と雑談した後店を出て、帰路に就く。


「りんりん、今日はありがとね」


{いや、こちらこそありがとう。楽しかったよ}


「そう?ならよかった」


唯と一緒に駅の方向へ向かって歩いていた時、


「あ、」


唯そういった。


俺も前を見てみると、阿久津君と篠崎さんが一緒に歩いてきた。


「あ、ふーちゃんと、阿久津君、、、だっけ?二人とも今帰り?」


「はい。少し勉強していました」


「そっか、、、偉いね。あ、私たちはね、ちょっと私がわがまま言って、りんりんにお茶に付き合ってもらってたの」


「そうですか」


篠崎さんはそれだけ呟いた。


唯が気を使ってくれているのが分かるが、気まずい空気が流れる。


「一ノ瀬さん。今週の勉強会には参加されないんですね」


篠崎さんが聞いてくる。


何も返せず、目をそらしてしまう。


「まぁ、別に私には関係のないことですけどね」


「あ、りんりんちょっと忙しいみたい」


唯がフォローしてくれるが


「それでは私はこれで」


そう言って篠崎さんたちは言ってしまった。


「りんりんごめんね」


{唯は悪くないよ}


唯がバツの悪そうにしている。


{俺たちも帰ろうか}


「そうだね」





作者からの一言


おはようございます。

最近いまさら、「ジョーカー」の映画を見ました。

以前は、ヒースレジャーのジョーカーが一番だと思っていましたが、ホアキンフェニックスの演技も素晴らしかったです。

バッドマンシリーズは、社会問題などの暗い部分が表現されていて、考えさせられる作品だと思います。


ホアキンフェニックスのお兄さんの、リバーフェニックスが出演している「スタンド・バイ・ミー」も名作ですよね。


                           黒崎灰炉

















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