第十二話 輝くものは銀か、碧か
俺たちは放課後、約束通りアクセサリー作りを篠崎さんに教えるために、俺の家に集まった。
篠崎さんは、決してアクセサリーを作るセンスがないわけではない。
デザインは個性的だが魅力的なものだし、湊先輩や大金先輩もほめていた。
ただ、思い描いたデザインを実際に形にする技術がまだ篠崎さんにはなかった。
そのため、俺がその手伝いをするということだ。
現在俺はチョーカー、篠崎さんはブレスレット・バングルの作成をしていた。
{あんまりきれいじゃないけど}
そう言って、俺は自分の部屋に篠崎さんを通す
俺の部屋には部室にも負けないくらい多様な道具がそろっており、広めの作業台もあった。
「さすが、長年アクセサリーを作っているだけあって、本格的な部屋ですね」
篠崎さんが言う。
{それじゃあ、さっそく作り始めようか}
そういって、俺たちはそれぞれの作業に入る。
アクセサリー作りを教えるといっても、既に基本的なことは教えてあるので、篠崎さんが困ったときにアドバイスをするという感じだ。
Silent Howlのブランディングに関わるため、ハイクオリティな作品の制作が求められる。
俺も経験者とはいえ、へたな物を提出できない。
「一ノ瀬さん、ここの模様の造形のところなんですけど、、、」
{この模様は、もう少しシンプルにした方がいいと思う。あまり細かすぎると、模様がつぶれる可能性があるから。もしくは少し線を細くして、ワンポイントの模様じゃなく、リング全体を使った模様にしたほうがきれいに見えるかな}
そんな感じで、篠崎さんが分からないところを俺がアドバイスしながら、作業を進めていった。
二人で、作業を進めていたらあっという間に時間がたっていた。
「できた」
そうつぶやいた篠崎さんの手元には、きれいにデザインが彫られたブレスレット・バングルが、銀色に輝いていた。
{おめでとう、篠崎さんの最初の作品だね}
「一ノ瀬さん、ありがとうございます」
{あ、篠崎さんサイン彫るね}
そう言って、篠崎さんのブレスレットを借りる。
部員たちが制作したアクセサリーは、Silent Howl のブランドとして出品するため、全ての作品に筆記体でSilent Howlの文字を入れることになっている。
文字に違いが出ないように、文字だけは俺が全員分の作品に入れている。
いまでこそスマホを使って会話をしているが、中学時代はスマホが学校で使えなかったため、全て紙に文字を書いてやり取りをしていた。
毎日自分の文字を他人に見せるため、中学時代までは毎晩書き取りの練習をしていた。
そのため、自分で言うのもなんだが俺は割と達筆な方だった。
(これでよし)
「ありがとうございます。一ノ瀬さんのおかげで作品を完成させられました」
篠崎さんは、嬉しそうにそういった。
{すごくいい作品だと思うよ}
初めての作品にしては、完成度が非常に高く十分にお金をとれるクオリティだ。
俺の作品もほとんど完成していて、いいペースで作れている。
だがこの調子で進めても、今月中に作れるのは多くてもあと三つくらいだろう。
俺が今月作る予定のアクセサリーはピアスや指輪みたいな小物ではなく、チョーカーみたいな比較的大きなものなので、一つ一つの単価を割と高めに設定することになる。
安くないお金をもらうのだから、一つ一つ丁寧に満足してもらうものを作らなければならないため、時間がかかる。
最低でも、一人月一万円ほど売り上げなければ目標に届かない。
安くて量をとるか、高くて質をとるかは正直賭けの部分もあるが、高くても質のいい商品を売った方が、後々客がついてくると判断した。
「そういえば、もうすぐ中間テストがありますが、勉強の方は進んでいますか?」
と篠崎さんが言う。
(ん?)
完全に忘れていた。
この一か月が思ったよりも忙しく忘れていたが、俺たちは学生だ。
課題もテストもある。部活だけにうつつを抜かしているわけにはいかないのだ。
(何一つ進んでない)
「やってないんですね」
篠崎さんが白い目で見てくる。
俺はうなずく。
篠崎さんには考えを読まれてしまうので、隠し事ができそうにない。
「まあここ数日忙しかっですし、私も一ノ瀬さんにアクセサリーの制作を手伝ってもらっていたのであまり責められませんが、勉強は大事ですよ」
{おっしゃる通りです}
「なら、今度一緒に勉強しますか?」
{まじ?}
「はい。どのみち私も勉強しなければならないので」
{さすが篠崎さん!せっかくだから、他のみんなも呼んでやろう!}
そう俺が提案すると
「...いや、まぁ別にいいですけどね。でも一ノ瀬さん、そういうところですよ?」
と、また白い目で見られる。
なんでやねん。
「じゃあ、明日皆さんに私から話してみます。言っときますけど、今日から勉強始めてくださいね」
と篠崎さんに釘を刺される。
(ばれてる)
「それじゃあ、今日はもういい時間なので、これでお暇します。ありがとうございました」
そう言って立ち上がろうとした篠崎さんの足元に、先ほど使っていたニッパーが落ちているのが見えた。
(あぶない!)
反射的に篠崎さんを引き寄せる。
「きゃ!」
篠崎さんを引き寄せたとこまではいいのだが、勢い余って受け止めきれず、篠崎さんが俺を押し倒す形になってしまった。
(顔が近い)
篠崎さんと目が合う。
とても澄んでいて、きれいな薄い碧の瞳に引き込まれそうになる。
(前も思ったけど、きれいな目だな)
そう思って篠崎さんの目を見つめていると、
「あの、一ノ瀬さん、そろそろ、、、」
と、篠崎さんが恥ずかしそうに言ってくる。
俺は篠崎さんを急いで開放し、謝ろうとするが
「大丈夫です、一ノ瀬さんがそういう人じゃないことはわかっていますから」
ニッパーを拾いながら、篠崎さんが言う。
「それじゃ一ノ瀬さん。また明日。」
そう言って、篠崎さんは足早に帰って行ってしまった。
(やってしまった)
変な誤解はされていないだろうが、相手は女の子だ。
(怒らせてしまっただろうか)
今後は、迂闊な行動は気を付けようと肝に銘じた。
(そういえば、なんで部室じゃなくてうちに来たんだろう)
作者からの一言
おはようございます。
自分の作品を客観的に見て、面白いかどうか判断するのって難しいですよね。
構成とか展開とかを思いつくことは難しくないんですが、それが面白いかどうかは別の話ということですね。
皆さんがくださるハートなどを見ているとやはり、恋愛要素が強い話の方がいいのかなと思っています。思ってはいるのですが、恋愛要素が少ない話は今後も出てきます。それでも皆さんに楽しんでいただけるように頑張ります。
星、フォロー、ハート、感想なんでもお待ちしております!
黒崎灰炉
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