十一話 After a storm comes a calm

この間の入学式からあっという間に一か月たった五月二週目の昼休みの教室、俺、杉山、蓮、美鈴、篠崎さんの五人は昼食を囲んでいた。


「Silent Howl「静かな唸り」ね。今の君たちに合っている名前だね」


そう、蓮が苦笑いしながらが言った。


弱く、小さい俺達でも自分たちの事は自分たちで守る。


今、俺たち装飾部が生徒会に潰されそうになっている現状から考えた俺の案が、正式なブランド名と決まった。


生徒会に所属する蓮は、俺たちと生徒会の間で板挟み状態だ。


立場的にこちら側につくことはできないので、申し訳なさそうだ。


蓮と戦っているわけではないが、こちらも負けるわけにはいかない。


「俺もなんか買って協力してやりたいけど、最近金欠でさぁ」


と、杉山が言う。


「美鈴ちゃんとか、アクセサリー似合うんじゃない?」


杉山が話しを美鈴に振ると


「凛が作ったのじゃなければ、買ってもいいけど」


と、相変わらずの反応である。


買ってくれるのであれば装飾部の売り上げになるため、別いい。


別にいいのだが、ちょっと嫌である。


俺たちが苦笑いする中、


「美鈴さん、そういういい方はあまりよくないと思います」


と、篠崎さんが言ってくれた。


「関係ないでしょ?私が凛にどんな言い方をしようが」


「一ノ瀬さんは優しいから何も言いませんが、そんな言い方をされたら誰だって傷つきます。それに、聞いている私が不快です」


篠崎さんが反論する。


「なに?知らない間にずいぶんと凛と仲良くなったじゃない。そんなのの何がいいの?」


美鈴が煽る。


「あなたこそ、何年も一ノ瀬さんと一緒にいておきながら彼の良さに気づけないなんて、悲しい人ですね」


篠崎さんも負けじと言い返す。


「風葉ちゃんに私たちの何が分かるの?」


「別に何もわかりませんが?」


怒ると怖い二人がぶつかると、世紀末である。


「ずいぶんとそいつの肩を持つけど風葉ちゃん、もしかして凛のこと好きなんじゃない?」


美鈴にしては幼稚な煽りである。


大人っぽい篠崎さんには、あまり効かなそう煽りであるが、


「っ!!」


先ほどの篠崎さんとは一転、急に黙ってしまった。


「あれ、もしかして図星?」


と、美鈴が追い打ちをかける。


すると、篠崎さんは立ち上がり、走ってどこかに行ってしまった。


「美鈴!」


蓮が珍しく大きな声を出す。


美鈴がビクッとし、周りのクラスメートたちもこちらを見ている。


「言い過ぎだよ。凛と風葉さんに謝って。」


と、蓮が怒っている。


「なに、蓮までそっちの肩を持つの?」


美鈴が言う。


「肩を持つとかじゃない。俺は、みんなと仲良くしたいんだ。

正直、美鈴と凛の関係があまり上手くいっていないのは知っていたし、これまでは二人の事だからと思って深くは言わなかったけど、今のは明らかに美鈴が悪い。二人に謝って」


「嫌!」


「美鈴!」


熱くなっている二人を、俺と杉山が制止した。


それより、今は篠崎さんの事が気になる。


そう、蓮に伝えると


「行ってあげて」


とだけ言った。


三人を残し、篠崎さんを追う。


篠崎さんを、さがして校内をはしりまわっていたら屋上に行く階段に座っている篠崎さんを見つけた。


静かに篠崎さんの隣に座り、


{篠崎さん。さっきは俺のために怒ってくれてありがとう。でも、美鈴は昔からあんな感じだから、気にしなくて大丈夫だよ}


そう俺が、伝えると


「一ノ瀬さんは優しすぎます。貴方のその優しさは、周りを甘やかし貴方が傷つくだけで、何の良さもありません」


え、俺が怒られるの?


「私は嫌いじゃないですけど」


ここ最近、部活で篠崎さんと一緒に過ごすことが増えた。それもあって、篠崎さんとの距離もかなり縮まったと思っていたが、あんなに俺のために怒ってくれるとは思わなかった。


「あと別に、一ノ瀬さんのためじゃないですから」


俺のためじゃなかったらしい。


「でも、一ノ瀬さんと一ノ瀬さんの作品が馬鹿にされるのは嫌です」


そう言って篠崎さんは頬を膨らます。


初めて会ったときは無表情な子だと思っていたが、こうして関わっていくと意外と表情豊かな子だということに気づく。


「でも、私も少し反省しなくてはいけません。美鈴さんの挑発に乗らず、もっと大人の対応をすべきでした、、、」


そこまで言った、篠崎さんの顔が急に赤くなる。


「あの!私、一ノ瀬さんの事別に好きじゃないですから!いえ、人としては好きですけど、」


と、篠崎さんが慌てて訂正してきた。


篠崎さんが言っているのは、きっと美鈴が最後に言ったことの事だろう。


俺は


{わかってるよ}


と打った。


篠崎さんは、大事な友達であり装飾部の仲間だ。


その関係性を勘違いするほど、俺はうぬぼれてはいない。


「それはそれでちょっと不満がないこともないですが」


(なんか言った?)


「何も言ってません!」


また怒られてしまった。


俺がしゅんとしていると、


「あ、いたいた」


と、蓮と美鈴と杉谷が来た。


「ほら、美鈴。言うことあるんでしょ」


そう、蓮が促すと


「あの、さっきは、、、ごめんなさい」


と、美鈴が篠崎さんに謝った。


蓮が説得したのだろうか。さすが蓮である。


「先に謝る相手は私じゃないんじゃないですか?」


一ノ瀬さんはまだ怒っている様子だった


「あの、凛。さっきはごめんね。さすがに言い過ぎた」


俺が{全然気にしてないよ}と打つと。


「一ノ瀬さんがそう言うなら、私がこれ以上怒ることもないです。それと、私もさっきは少しだけ子供でした。ごめんなさい」


そう、篠崎さんも謝った。大人な篠崎さんである。


「あの、私風葉ちゃんが作ったやつ着けてみたい」


そう美鈴が言う。


美鈴は俺には辛辣だが、基本的には優しく人と仲良くなるのがうまい。


「え、私のですか?まぁ、もう少し上手に作れるようになったらいいですよ」


そう、篠崎さんが言う。


俺や、先輩二人はこの数週間でいくらか売り上げを出したが、篠崎さんはまだ販売するまでには至っていなかった。


そのため、時間があるときは俺が篠崎さんにアクセサリーの作り方を教えている。


ところでそれは、ちゃんとお金を払って買ってくれるという認識であってますよね?美鈴さん。


「わかった。約束ね」


「はい、約束です」


二人は笑顔でそういった。


雨降って地固まる、とはこのことだろうか。


よく考えると俺だけが損している気がする、野暮なので言わないけど。


「さ、二人が仲直りしたところで、戻って昼飯の続き食べようぜ。もう昼休み終わっちゃうぞ」


杉山が言った。


そういえば、昼飯の途中だった。


みんなが、教室に戻っていく中で篠崎さんが俺にだけ聞こえる声で


「あの、一ノ瀬さん。今日またアクセサリー作り教えていただけませんか?」


そう聞いてきた。


{もちろんいいよ。じゃあ、放課後部室集合でいい?}


俺がそう言うと、


「あの、今日は一ノ瀬さんのうちじゃ、だめですか?」


{え、俺のうち?}


「はい」


篠崎さんがそう付け加える。


{別に俺はいいけど}


そういうと、


「ありがとうございます。あ、変なこと考えちゃダメですからね?」


と、篠崎さんはいたずらっぽく笑いながら言った。





作者からの一言


おはようございます。

今日の話は、会話のシーンがとても多かったですね。

文字で見ると、テンポよく会話が進んでいるように見えますが、凛が会話しているときは、会話の間に凛が文字を打っている時間があります。普段から文字でやり取りをしている分、凛のフリック入力はめちゃめちゃ早いですが、それでも声を使った会話に比べると、時間がかかってしまいます。


まぁ、読者の皆さんにはあまり関係のないことですが。


星や、フォロー、ハートや感想もお待ちしております!

                                  黒崎灰炉



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る