第十話 静かな唸り

月曜日、久しぶりに学校に来た。


結局、金曜日も学校に行かなかったので週末を挟んでの登校となった。


篠崎さんに休んでいた間の授業をラインで少し教えてもらったから、学業的には問題ないと思う。


多分。


机の中には、登校していなかった間のプリントなどが入れあった。


「あ、りんりんおはよう!体調大丈夫?」


そう言って声をかけてきてくれたのは、大久保さんだった。


{うん、結構休んだからもう大丈夫}


「そっか、良かった。あ、机の中にプリント入れておいたからね」


大久保さんに、プリントを机の中に入れてくれていたことへの感謝を伝えると


「そんなこといいよー。りんりんと私の仲じゃん」と言っていた。


すると今度は、


「あ、一ノ瀬君ちょっといい?」


と、水島先生に呼ばれた。


「一ノ瀬君、先週体調不良って聞いたけど大丈夫?」


俺は軽くうなずく。


「そう、ならいいんだけど」


水島先生は続ける、


「前にも言ったけど、もし何かあったら何でも私に言ってね」


前髪をかきあげながら八重歯が特徴的な笑顔で笑いながら、水島先生がそう言う。


まだ教師になって数年と言っていたが、生徒のことをとてもよく考えてくれている。


教師という現代ではなかなか大変な職業を自ら選ぶくらいなのだから、気合が入っているのだろうがあまり無理はしないでほしいものである。


俺には、身近にまきなさんがいるから余計そう思うのかもしれないが。


そういえば、水島先生は以前自己紹介の時に、俺たちの両親と同じくらいの世代と言っていた。


ということは、教師の前に何か他の仕事をやっていたのだろうが、そこから教師への転職も今時珍しい気がする。


{お気遣いありがとうございます}


そう言って俺は自分の席に戻った。


「あ、おかえりー」


席に座っていた大久保さんがそう言う。


「あ、そういえば装飾部のこと聞いた?これからみんなの作品をネットとかで宣伝したり、売ったりすることにしたの」


{うん、篠崎さんからきいたよ}


「ありゃ、情報が早いね。ネット関係は私が頑張るけど、作品を作るのはあんまり協力できないかも」


{それは別にいいけど、大久保さんはいいの?せっかくの装飾部なのに}


「うん、もちろん少しは作ってみたいけど、どちらかというと私は作るよりつける方が好きだから」


確かに大久保さんは多くの装飾品を身に着けていた。


「これ、私のお気に入りのブランドなんだ」


そう言って見せてくれた、ネックレスにはLast Resortと書かれていた。


「匿名のアーティストさんが作っていたブランドらしいんだけど、もう新しいのは出ないみたい。ここ何年も新作出てないし」


そう大久保さんが、残念そうに言う


「でも、りんりんが作るピアスとかもすごい好き。絶対人気出るよ」


大久保さんはそう言ってくれるが、そんなにうまくいくだろうか。




その日の放課後、三人で部室に向かうと湊先輩と大金が先にに部室にいた。


「やぁやぁ、後輩君たち」


そう言って、湊先輩が出迎えてくれる。


大金先輩は相変わらず自分の作業に集中しているようだった。


「みんな集まったから、さっそく装飾部会議を始めるよ」


俺たちが、席に着くと湊先輩がいった。


「前も話した通り、私たちは今年の末までに三十万円の売り上げを上げなければいけない。それに伴って、これまでどおり学校の行事でも私たちの作品を売ると同時に、唯ちゃん(大久保さんの下の名前)に協力してもらってネットを使っても宣伝、販売もしていこうと思う」


売り上げを上げるためには、少しでも販売できる場所と宣伝を増やさなければいけない。


「そして、これからは生徒や先生に対しても日常的に売っていこうかと考えている。具体的には、週に一、二回昼休みと放課後この部室をアクセサリー店として使い、生徒や先生たちに気に入ったものがあれば買ってもらうようにする。店番は交代制」


なるほど、確かに一番身近な客を忘れていた。高校生、特に女子などは装飾品に一番興味があるのではないだろうか。


「そしてだ、」


湊先輩が続ける、


「これから新装飾部として活動していくうえで、やりたいことが二つある。一つは、装飾部のグループラインを作ること。二つ目は、私たちのブランドを作ることだ」


「ブランドですか?」


篠崎さんが言うと


「あぁ、やはりブランドとして売り出した方が覚えてもらいやすいし、ブランドにファンがつくかもしれない。なによりかっこいい」


最後の一言が全てのような気もするが、一理あるかもしれない。


「そこで、みんなにブランド名を考えて欲しいんだ」


確かにブランドを設立するうえで名前は必要だ。


そこから俺たちはいくつか案を出し始めたのだが、どれも微妙なものばかりで結局その日は、決まらず各々考えるということになった。


また、作品を本格的に売り出すために、放課後部室に顔を出すかどうかは自由となった。


部室には道具があるので作業はしやすいのだが、材料の買い出しやインスピレーションを沸かせるために情報を集めたりするなど、自分がやりやすいようにやっていいということだった。そのかわり、グループラインでお互いの進捗状況を報告しあうといということだった。



(ブランド名か、何か良いのないかな)


そんなことを考えながら帰宅すると、ムーがぬいぐるみでじゃれていた。


(ムー、新しいぬいぐるみ買ってきたぞ)


ムーの前に新しいぬいぐるみを差し出す。


今、ムーがじゃれているぬいぐるみは、数か月じゃれていただけなのに、もうボロボロになっており中身の綿があふれ出していた。


そのため、帰宅途中新しいぬいぐるみを買ってきてあげたのだ。


最初は、匂いを嗅いでいたりしたムーだったが、


「むぅぅぅぅぅ」


と唸り声をあげた。


まだ生後数か月なのだが、いっちょ前に威嚇していた。


(気に入らなかったかな?)


そう思っているうちに


(あ、そうだ)


俺は今日作成したばかりのグループラインにメッセージを送った。


{皆さん、ブランドの名前なんですが、Silent Howlというのはどうでしょう?}





作者からの一言


おはようございます。

以前一話ごとの文字数の件について書きましたが、ここまで書いてみて2000から3000文字くらいがちょうどいいかなと思い始めました。もちろん、多少増えたり減ったりすることもあると思いますが、しばらくはそのくらいの文字数を基準に書いていこうと思います。


いつもハートをくださる方、フォローしてくださっている方、少しでも目を通してくださっている方、ありがとうございます!


星、ハート、フォロー、感想なんでもお待ちしております!  


                              黒崎灰炉





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