第十三話 勉強合宿一日目
その週の週末、俺、蓮、美鈴、篠崎さん、大久保さん、杉山は蓮のうちに集まっていた。
理由はもちろん、今月末にある中間テストのためだ。
今日と明日、蓮のうちにみんなで泊まっての勉強会をすることになった。
「相変わらずでかい家だなぁ」
杉山が言う。
蓮の家は、この辺では有名な豪邸だった。
「まぁ、大きいだけで、中身はないけどね。風葉さん掃除大変でしょ、ごめんね」
「いえ、皆さんと協力してやるので、特別大変ということもありません」
たまに忘れるのだが、篠崎さんは蓮の家で働いているメイドさんなのだ。
こんなかわいいメイドさんに家事をしてもらえるなんて、神に愛されすぎている男である。
「私まで混ぜてもらっちゃってよかったのかな」
大久保さんが申し訳なさそうにいる。
「全然いいんですよ!なぁ、蓮?」
杉山が言う。
「うん。こういうのは多い方がいいしね。僕たちも、大久保さんと話してみたかったし」
「そう?ならよかった!」
大久保さんが笑顔で言う。
「なぁ、凛。今の笑顔めっちゃ可愛くね?」
杉山が小声で言う。
確かにタイプは違うが大久保さんも、美鈴や篠崎さんに劣らず美人である。
「彼氏いないんだよな。それなら俺にもチャンスあるかな?」
{限りなく希望は薄いと思うけどな}
「なんでだよ!」
まぁ、正直杉山の努力次第ではある。
{俺は今回勉強に集中しなくちゃいけないから、協力はできんが勝手に頑張ってくれ}
「俄然やる気が出てきた」
杉山と話しているうちに蓮の部屋に着いた。
広いわりにシンプル。しかし、きれいに片付けられている部屋である。
「それじゃあ、みんなそれぞれの勉強をしようか。わからないところは、お互いに教えあう感じでいいかな?」
「「はーい」」
俺たちは円状の机に座り、それぞれの勉強を始めた。
怜高の偏差値はかなり高いため、入学している時点でみんなそこそこ勉強はできる。
しかし、その分学校のテストのレベルも高く、気を抜くと赤点からの補習コースになりかねない。
「蓮、ここなんだけどさ」
「あぁ、ここはね、、、」
「私、公民のここの部分苦手なんだけど分かる人いる?」
「はい!はーい!俺分かります!」
蓮が美鈴に、杉山が大久保さんに勉強を教えている。
こういうのも、青春というのだろうか。
だが、もし本当に杉山と大久保さんが付き合うことになったら、俺の周りの男で付き合っていないのは俺だけになってしまう。
別に彼女が欲しいとはあまり思っていないのだが、杉山に先を越されるのはなんか癪である。
(そういえば、篠崎さんは彼氏とかいるのだろうか?)
そういう話は、今までしてこなかったので正直よく知らない。
だが、これだけ美人で可愛かったら、彼氏くらいいてもおかしくないだろう。
そう思い、篠崎さんの方を見ると、
篠崎さんもこちらを見ており目が合った。
しかし、すぐ篠崎さんに目をそらされてしまった。
(うーん)
先日の俺の家での件以来、なんとなく気まずくなってしまっている。
話はするのだが、以前みたいに自然な感じにふるまえない。
それは篠崎さんも同じなようで、こんな感じで目を合わせてくれなくなってしまった。
何とか前と同じような感じに戻りたいのだが。
そんなことを考えていると
「そういえば凛、理科がそんなに得意じゃなかったよね?風葉さん理科が得意だから、教えてもらえば?」
そう、蓮が言ってくる。
「そうなんですか?」
と、篠崎さんが聞いてくる。
(まぁ、どちらかと言えば苦手なのだが)
そう思いながら蓮の方を見ると、「頑張れ」と言わんばかりにウインクしてきた。
(やっぱり)
ここ数日、俺と篠崎さんが気まずそうにしているのを感じ取って気を利かせてくれたのだろう。
(おせっかい野郎)
そう思いながら蓮に目配せしていると
「どこが分からないんですか?」
と、篠崎さんが隣に移動してきた。
{この、「希釈してもpH7を超えない理由の説明」のところなんだけど}
「あ、ここは、、、」
そう言って教え始めてくれた。
教え始めてくれたのだが、まったく集中できない。
篠崎さんが勉強を教えてくれるために身を寄せてきたのだが、いつも以上に緊張する。
前はこんなことはなかったのだが。
「一ノ瀬さん?聞いていますか?」
篠崎さんに言われて、我に返る。
(いけない、せっかく教えてもらっているのだから集中しなければ)
気を引き締めて、勉強に集中する。
「つまりですね、この式の解を求めると6.98となっていますよね。強酸や強塩基などの水溶液を希釈していくと7に近づきはするんですが、超えないということになります」
(なるほど)
篠崎さんの教え方は非常にわかりやすかった。
{じゃあ、ここの「ブレンステッド・ローリーの酸・塩基の定義」は?}
「こっちは、、、」
そんな感じで、俺たちは勉強を進めていき気づけば夕方になっていた。
「みんなお疲れ様。とりあえずこの辺で終わりにしようか」
そう蓮が言ってくれたので、勉強はここまでとなった。
{篠崎さんありがとう。すごくわかりやすかったよ}
「いえ、私も教えていただいたのでお互い様です」
{でも、篠崎さんってそんなに勉強できたんだね}
「私からしてみれば、一ノ瀬さんが勉強できたことの方が意外です」
気づけば、前のように自然に話せるようになっていた。
蓮にはつくづく助けられてばかりである。
「それでは、私は夕食の準備に行かなければならないので。一ノ瀬さんはゆっくりしていてください」
そういって、篠崎さんは行ってしまった。
(学業と部活と仕事。全部こなしてるの本当にすごいな)
「それじゃあ、残りの人たちで順番にお風呂に入っちゃおうか」
蓮がそういうので俺たちは、順番に風呂に入ることにした。
「女子たちは、メイドさんたちの寮にある浴場を使ってもらって、僕たちはこっちの風呂を使おう」
いろいろ金がかかっている家である。
「皆さん、夕食の準備ができました」
風呂を上がった俺たちが、蓮の部屋でくつろいでいると篠崎さんが呼びに来てくれた。
みんなでリビングに行くと、豪華な食事がテーブルに並べられていた。
「すご、これ全部篠崎さんが作ったの?」
大久保さんが驚いた様子で言う。
「私が作ったものもありますが、全てではありません」
「それでもすごいよ!」
並べられている料理は見事なものばかりだった。
「ありがとう、風葉さん。それじゃあ、いただきます」
蓮がそう言うと、
「「いただきまーす」」
俺たちも続いた。
「すご、めっちゃおいしい」
「見たこと無い食べ物だけど、これ何?」
「それは、「このわた」だよ」
「なにそれ?」
「ナマコの腸だよ」
「え、ナマコの腸?なんかグロイ。けど、うまっ!」
みんな口々に、料理の感想を言っている。
俺もいただくとする。
俺は、豚の角煮らしきものに目が留まり食べてみる。
すると、
「それ、私が作ったんですけど。どうですか?」
隣に座っていた篠崎さんが不安そうに聞いてくる。
{すごく、おいしいよ}
「本当ですか?」
{うん、味もしみてるし、やわらかいし}
「なら、よかったです」
篠崎さんは安心した様子で言った。
食レポのスキルが無いことが悔やまれるが、篠崎さんが作った料理はお世辞抜きで、本当においしかった。
「ご飯を食べて、少し休憩したらまた勉強始めるよ」
と、蓮がいった。
「え、今日はこれで終わりじゃないの?」
杉山が続ける。
「まさか、寝る前に暗記系の教科をやると効率が良いんだよ」
「まじかよぉ。今日はもう終わりにしようぜぇぇぇぇ!」
俺も杉山と同意見だが、今は忘れて食事を楽しむことにする。
作者からの一言
おはようございます。
今日(8/23現在)、プロローグ「冷たい雨の夢」のPVが100回を突破しました!
この話が公開されているころには、他の話も続々100回行きそうな調子です。
総合PV数も1000回が見えてきています。
他の方からしたら大した数字では無いのは分かっているのですが、やはり嬉しいものは嬉しいです。
ただ、見てくれている人とこの作品を評価してくださる方の割合はまだまだといった感じなので、今後も精進いたします。
星、ハート、フォロー、感想などなどお待ちしております。
黒崎灰炉
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