第七話 とある日の部室で
「で、結局その装飾部に入部したと」
入学式から約2週間ほどたった昼休み、屋上に上がる階段に腰掛け昼飯の弁当を食べながら杉山が言った。
あの後、篠崎さんと残りの部活を見て回ったが、やはり装飾部に入ろうということになった。
入部届を部室に持って行った際、湊先輩に泣いて感謝された。
「お前がピアスを作ってるとか知らんかったわ。手先器用なのは知ってたけど。」
杉山が、俺の耳に着いたピアスを見ながらそう言った。
クラスが違うため顔を合わす頻度は減ってしまったが、こうしてたまに一緒に昼食をとりお互いの近況を報告しあっている。
「俺は結局バスケ部に入部したわ。この学校バスケ部も強豪でさ、今年は全国トップ8狙ってるからお前の力を貸してくれって、先輩に頼まれちゃってさ。」
杉山はバスケの特待生として怜高に入学したわけではないが、特待生も十分狙える実力持っていた。ただ、高校ではそれ以外の部活に入ることも考慮したため、一般入試を受けたという。意外と高スペックなやつなのである。
「いやぁ、競合なだけあって毎日練習きついわ」
体力お化けの杉山が言うのだから相当きついのだろう。
「あ、そういえばさ」
杉山がたこさんウインナーを食べなら、
「お前と一緒に、装飾部に入った子いたじゃん。金髪の」
と聞いてきた。
{大久保さんの事?}
「あ、そうそう。あの子かわいいよな。今度紹介してくれよ」
(意外だ、ああいう子がタイプだったのか)
俺はてっきり、もっと落ち着いた、尽くしてく人がタイプなのかと思っていた。
俺と同じで。
{紹介できるほど仲いいわけではない。が、協力してやらないこともない}
「まじ?やっぱ持つべきものは友だよな!」
こういうやつに限って、いざというときは友情より恋愛を取るのだが。
(まあ実際大久保さんと関わる機会は多いし、そのうち杉山の事を話すこともあるだろう)
大久保さんは隣の席ということもあって、毎日俺に話しかけてくる。
俺は会話のたびにタイピングをしなければいけないため、ちょっと疲れるというのが正直な感想だが、話してみるとやはり天真爛漫で関わりやすい人ではあるというのが分かった。
「六月に体育祭があるだろ?その夜にあるフォークダンスで一緒に踊ったりできないかな?そしてゆくゆくは付き合ったりして」
などと言って、杉山が体をくねらせている。男子高校生が妄想で身もだえてる姿は見るに堪えない。
(そういえばフォークダンスって、文化祭の時にも後夜祭でやるんだよな?この学校、フォークダンス好きすぎないか?)
「いや、まてよ!大久保さんって彼氏いないよな!?凛!」
(しらん)
「いたらフォークダンスどころじゃねええええええ!」
一人で騒がしいやつである。
とはいえ、こいつも俺も蓮とは違い、モテないタイプの人間だ。
彼女がいたこと無い(であろう)杉山にちょっとでも協力してやりたいもんだが。
(今日あたりちょっと探ってみてやるか)
その日の放課後、篠崎さんと大久保さんの三人と一緒に部室に向かった。
部室のドアを開けると、大金先輩だけが先に部室にいた。
「大金先輩こんにちはー」
大久保さんが、元気よく挨拶するが反応がない。何やら、自身の作品作りに集中して聞こえていないようだった。部活整理の対象にならないために頑張っているのだろう。
「部活整理」から逃れるためには、大きく二つの条件を満たさなければいけない。
一つ、文化部なら五人以上(吹奏楽部などの多人数が必要な部を除く)、運動部ならチームが組める人数以上の部員が新年度の5月1日までに確保すること。
二つ、各部は上半期と下半期の終わりにそれぞれ明確な活動結果を生徒会に提出すること。
とりあえず、最初の条件である部員確保は俺、篠崎さん、大久保さんの三人が入部したことによりぎり満たされたが、問題は二つ目である。
明確な活動結果は、部によって内容が異なる。
例えば、運動部なら春の県大会でベスト4に残ったという実績なども含まれるだろうし、文化部ならコンクールで賞を取ったなどが挙げられる。
大会やコンクールの結果だけが評価対象になるわけではないだろうが、やはり具体的な結果は部としての強みになり、部活の生存競争に生き残りやすくなるだろう。
しかし、装飾部には出場する大会もコンクールもない。そんな装飾部が活動成果を示す一つの術が、部員で制作した装飾品の売り上げである。
つまり、部員たちが作った装飾品を売り、一定の売り上げを獲得できたら条件を満たすことになるらしい。
高校の部活としては非常に難易度が高い条件だが、生徒会もできるだ部活は減らしたいため、弱小部活には難易度が高い条件をだすのだろう。
そしておそらく今、湊先輩は生徒会室で売り上げの値段交渉をしているところだ。
(数万円くらいに抑えられたらいいのだが)
{あ、そういえば 大久保さん聞きたいことがあるんだけど}
「え?りんりん私に興味津々?」
変なあだ名をつけられている気がするが、いったんスルーする。
{大久保さんって彼氏いるの?}
そう俺が聞くと、
「え、何りんりんどうしたの?」
と、大久保さんが驚いた様子で言った。
ストレートに聞きすぎただろうか?だが、タイピングでそれとなく聞くのは面倒なのだ。
大久保さんは、なんだかもじもじしている。ついでに、篠崎さんは鬼の形相で俺をにらんでくる。
怖い。
「りんりん、私に彼氏がいるか気になるの?」
{まぁ}
(厳密には俺の友達がだが)
「今は、、、いない、、かな」
と恥ずかしそうにしながら、大久保さんは答えてくれた
(よかったな杉山、お前にもチャンスはあるかもしれないぞ)
「でも誰でもいいってわけじゃないから!かっこよくて、優しくて、、、とにかく!素敵な男の子じゃなきゃダメだから!」
と、顔を真っ赤にした大久保さんが付け加えた。
(残念だったな杉山、お前にチャンスはなかったみたいだ)
杉山はいいやつなのだが、大久保さんが言う素敵な男性ではない気がする。
少なくともかっこよくはない。
「一ノ瀬さん。後で、お話があります」
見ると、まるでこれから人を殺すかのような顔の篠崎さんがこちらを見ていた。
被害者はたぶん俺。
{え、今日はこの後用事が...}
「後で、お話があります。」
{はい}
(わりぃ、おれしんだ)
See you next life.
俺が、海賊が出てきそうな漫画風に現世にお別れを告げていると
ばたんと、大きな音を立てて部室の扉があいた。
「みんな!今年の売上金額が決まったよ。」
生徒会との値切り交渉を終えた、湊先輩が帰ってきた。
「いくらになったんですか?」
と篠崎さんが聞いた。
すると湊先輩は一言
「三十万」
(さて、新しい部活でも探すか)
作者からの一言
おはようございます。
今年の夏は暑かったですね。実家の猫たちも毛が暑そうでした。
皆さんも、暑さには気を付けてくださいね。
ところで最近、アップロードした話を後から少しずつ再修正している箇所があります。前後の話が合わなかったりした場合、もしかしたらそのせいかもしれません。
すみません。
黒崎灰炉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます