第八話 瓦解の兆し
(三十万か)
夕飯の支度をしながら部活の売り上げの事について考えていた。
装飾部の存続に必要な金額に気が遠くなる。
あの後、大金先輩が湊先輩に詰め寄ったところ、どうやら生徒会長と揉めてしまったらしい。
怜高は、行き過ぎていなければ髪を染めたりピアスやネックレスなどのアクセサリーの着用が許可されている。
時代とともに少しずつ校則も変化しているのだろうが、それをよく思わない人間もいる。
特にうちの高校の生徒会長はそういうのを毛嫌いしているらしく、そんな生徒会長に装飾部を馬鹿にされた湊先輩が怒ったのがきっかけのようだった。
反発した湊先輩に
「悔しかったら、三十万くらい売り上げを出してみろ」
と生徒会長が煽り、湊先輩はそれにまんまと乗ってしまったようだ。
その代わり、本来上半期と下半期の年に二回部活の活動結果を生徒会に報告しないといけないところ、今年の下半期末までに売り上げを出せばいいということだった。
俺たちが入る前の一月から三月までに既に売り上げていた3万円を差し引いても、このままでは到底届かない金額だった。
(これは本格的に作戦を練らないとな)
正直、まだそこまでこの部活に思い入れがあるわけではないが、せっかく入部したのだからできることはやりたい。
ちなみにあの後、篠崎さんにはなぜ俺が大久保さんにあんなことを聞いたのか問い詰められた。訳を話したら、いつもの篠崎さんに戻ってくれたから一応よかった。
のか?
そう思いながら、つくった夕食をリビングのテーブルに並べていると。
「ただいまー」
と玄関の方から声が聞こえた。
{おかえり、まきなさん}
「良い匂いがする。今日は何を作ってくれたの?」
{今日はハンバーグだよ}
「やったー」
何日かぶりにまきなさんが帰ってきた。こうして、たまにでも一緒に食卓を囲める人がいることは嬉しいことだ。
しかし、まきなさんは最近またやつれた気がする。顔色も悪いし、心配である。
{まきなさん、顔色あんまりよくないけどちゃんと休めてる?}
「まぁ、ぼちぼちかな。でも、最近仕事がちょっとづついい方向に進んでてやる気がみなぎってるんだー」
やりがいを感じる仕事ができることは良い事だが、そこまでのめりこむような仕事なのだろうか?まきなさんの前職は、医療系の研究者だったらしい。それなりに貯えもあると本人も言っていたため、お金のために働いているようには思えないのだが。
{とにかく、無理はしないでね}
「いやぁ、大人には辛くても立ち向かわなければいけない時があるのだよ。青少年」
そういって、まきなさんは席に着いた。
俺は本気で心配しているのだが。
「早く、早く」
そうまきなさんがせかすので、俺も席に着いた。
「あ、新しいコンタクトもらってきたよ」
まきなさんは、ハンバーグを食べながらそう言った。
{ありがとう}
俺は何年か前からコンタクトを付けている。というより、まきなさんに着けされられている。
しかも、特殊なコンタクトらしくまきなさんが定期的に職場からもらってきてくれる。
まきなさんに、以前なぜコンタクトを付けなければいけないのか聞いたことがあるが、専門用語を羅列されてよくわからなった。が、俺の目は光に弱いためコンタクトで、光をカットしているとかなんとか。
専門家のまきなさんが、そういうのだからきっとつけた方がいいのだろう。
まぁ、数か月に一度付け替えれば寝るときも外さなくていいコンタクトなので、別に手間がかかるわけではないからいいのだが。
(でも、コンタクトを作る会社で働いてるわけじゃないんだよな)
これだけ、何年もお世話になっているのにまきなさんについて知らないことが多いなと感じる。
{そういえば、俺学校で装飾部っていう、アクセサリーとかを作る部活に入部したんだよ}
「え、いいじゃん。凛君めちゃくちゃ器用だからきっと向いてるよ}
{まぁ、めちゃくちゃではないけど、ピアスとか作るのは好きだね}
「めちゃくちゃ器用だよ。私ちょうちょ結びでも苦戦するもん」
{まきなさんと比べたら、誰でも器用だよ。}
「えー、凛君ひどーい」
そんなやり取りをまきなさんとしているとき、俺はふと思い出した疑問をまきなさんに投げかけてみた。
{そういえば、まきなさん。俺自分でピアスとか作ってるけど、誰に作り方教わったとか思い出せないんだよ。まきなさん知らない?}
そう俺が質問すると、
「さあ、生まれつき作れるんじゃない?」
と、返されてしまった。
{でも、俺いつから作ってるとかもあんまり覚えてないんだよ。中学生の時にもう作ってた気がするんだけど。}
「ふーん」
なぜかまきなさんの反応が冷たい気がする。仕事で疲れているからだろうか。
「ごめんね凛君。私明日も早いから、もうお風呂入って早めに寝ちゃうね」
{え、もういいの?}
「うん、ごちそうさまでした。」
そう言って食器を片付けてまきなさんは脱衣所に行ってしまった。
(ほんとに仕事大変なんだな。全世界の社会人の皆さん。今日もお勤めご苦労様です)
そう、心の中で労う。
しかし、ここ数日なんだか俺もすっきりしない気分が続いている気がする。やはり、寝不足のせいだろうか。
俺も自分の食事を終え、洗い物をしようと流し台に向かい包丁に手を伸ばすと
(いて)
包丁の刃に手が触れてしまい、軽く切ってしまった。
(最近新品の包丁買ったから、切れ味すごいな)
指を見ると血が出ていた。
(あんまり深くないかな)
そう思ったその瞬間
(っ!?)
猛烈な吐き気に苛まれた。
一瞬で気分が悪くなり、トイレに駆け込む。
先ほど食べたものを全て吐き出してしまった。
俺が、トイレで嗚咽しているとまきなさんが飛んできた。
「凛君、大丈夫!?」
俺のただならぬ様子に、焦った様子のまきなさんが聞いてきた。
俺がうなずくと、
少しほっとした様子で
「血を見ちゃったんだね」
そういながら、止血手当てをしてくれた。
そのあとは、
「後は、私がやるから」
と言い、代わりに食器洗いをやってくれた。
俺は申し訳ない気持ちがあったが、正直それどころではなかった。
「凛君、あとのことはいいから今日は早く寝なさい」
と、まきなさんが言うのでその言葉に甘えさせていただくことにした。
その夜、またあの夢を見た。
作者からの一言
おはようございます。
最近他の方の小説を読むのですが、自分の小説なんかとは比べ物にならないくらいすごい小説ばかりです。
こんな小説でも読んでくださる方に頭が上がりません。
いつもありがとうございます。
話しは変わりますが、この小説はラブコメというジャンル設定をしているのですが結構シリアスな方向に進んでいきます。また、「ラブ」の要素が現在あまりないのですが、今後少しずつ出てくる予定です。皆様に面白いと思っていただけるように頑張るのでよろしくお願いいたします。
星、ハート、感想、フォローなんでもお待ちしております!
黒崎灰炉
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