第六話 ミルクティーと珈琲
装飾部を後にした俺たちは帰宅することにした。さっきのこともあるが、純粋に疲れもあった。たくさんの部活を見て回ったし、何より昨日の入学式を除けば高校生活初日である。気づかないうちに緊張していたんだろう。
校門をでて篠崎さんに片手をあげ、さよならの挨拶をして自宅に帰ろうと思い歩き出すと、篠崎さんが俺のジャケットのすそを無言でつかんできた。
振り返ると篠崎さんが、真顔で俺の顔を見つめている。
{篠崎さんどうしたの?}
と聞くと、
「一ノ瀬さん、この後暇ですか?」
とたずねてきた。
今日もまきなさんは帰ってこないだろうし、夕食の準備も凝らなくていい。暇と言えば暇なのだが。
{一応予定はないけど}
そう言うと
「私とお茶しませんか?」
と篠崎さんは真顔で言ってきた。
(お茶?)
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「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
という店員さんの問いに、
「はい。二人です」
と篠崎さんが答えると、昨日とは違う二人用のテーブルに案内された。
(まさかこんなおしゃれな店に二日連続で来ることになるとは)
昨日蓮達ときたおしゃれなお店に、今日は篠崎さんと二人だけで来ていた。
(これはいわゆるデートというやつなのでは)
と思っていると、
「ただのお茶です。」
と、篠崎さんが答た。
(ですよね。すみません。)
と心の中で謝る。
(ん?今俺の考えを読まれた?)
驚いて篠崎さんを見ると、篠崎さんはメニュー表に目を落としていた。
「私は、ミルクティーにします。一ノ瀬さんはどうしますか?」
昨日は、頼まなかったがこの店は飲み物もおいしくて有名らしい。
{じゃあ、ホットコーヒーのブラックで}
そう答えると、篠崎さんが店員さんに注文してくれた。
最近は紙に書いて注文する形式の飲食店も増えてきたが、やはりこういった店員さんとのやり取りをしなければいけない飲食店に来るのは気が引ける。少なくとも一人で来ようとは思わない。
篠崎さんに感謝を伝えると、
「いえ」
とだけ呟いた。
しばらく沈黙が続く。
(なんでこの子、俺をお茶に誘ったんだ?)
蓮や美鈴と話すときは笑顔を見せる篠崎さんだが、俺と話すときはまったく楽しそうじゃない。というか表情がない。というか怖い。
だが、一緒に部活見学を回ったり、こうして一緒にお茶をしているということは嫌われてはいないということなのだろうか。
そんなことを考えていたら、飲み物が到着した。
「今日は一ノ瀬さんとお話がしたくて、お茶に誘いました。」
ミルクティーを飲みながら篠崎さんが話を切り出した。
{話?俺と?}
「はい」
そういうと篠崎さんは持っていたティーカップを置き、こう続けた。
「一ノ瀬さんは、あのお二人と仲が良いのですか?」
あの二人、とは蓮と美鈴のことだろう。
{蓮とは親友だよ。幼馴染なんだ。美鈴も幼馴染で昔は仲良かった気がするんだけど、今はあんまり仲良くはないかな。ぎりぎり蓮が繋ぎ止めてくれてるくらい。ほんとにぎりぎりだけど。}
自分で打ってて悲しくなる。
「いつ頃からお知り合いなんですか?」
篠崎さんが続ける。
{いつだろ、幼稚園の頃とかかな?}
そう俺が答えると
「そうなんですか」
と篠崎さんは言った。
{あのさ、俺からも質問いい?}
と今度は俺が切り出した。
「なんでしょう?」
と篠崎さんが言うと、
{蓮が篠崎さんに、「蓮様」って呼ばせているの?}
初めて会った時から気にはなっていたのが、いくらメイドだからってこの現代で同級生の女の子に「様」呼びなんてさせるだろうか。
けしからん。非常にけしからん。俺も呼ばれてみたいなどとは決して思っていない。
本当に。
「いえ、私が自主的に呼んでいるだけです」
{そっか}
まあ、蓮がそんなことを強要するとは思えないし。
{一応聞くけど、なんで?}
そう俺が聞くと、
「それは...」
と答えづらそうにしている。
{いや、別に無理して答えなくてもいいよ}
(何か特別な理由でもあるのだろうか)
「すみません」
篠崎さんは申し訳なさそうに謝った。
気まずい沈黙ができてしまった。すると、
「あの、蓮様はどんな子だったんですか?」
{え、蓮?}
「はい、その、小学生、、、の頃とか」
少し歯切れが悪い言い方で、篠崎さんが聞いてきた。
{うーん、そんなによく覚えてないけど、割と泣き虫だったような}
「そうなんですか?」
驚いた用の篠崎さんが言った。
{意外でしょ、今はしっかりしているし}
「はい」
なぜいきなり蓮の事を聞いてきたのだろうか。
(もしかして、蓮のことが好きなのか!?でも蓮と美鈴が付き合っているのは知ってるだろうし。しかし、それを踏まえたうえでも蓮のことが好...)
「あの」
と俺がしょうもないことを考えていると篠崎さんが、話しかけてきた
「蓮様はいい人だとは思っていますけど、別に恋愛感情はないですから」
と、強めに否定してきた。
あら、蓮さん振られてしまいましたね。ざまあみてください。
(...あれ?この子、また俺が考えている事読まなかったか?)
そう思って、篠崎さんに聞こうとした時
プルルルルと、篠崎さんのスマホが鳴った。
「はい。篠崎です...分かりました。すぐに向かいます。」
電話相手と何かを話した後、電話を切った篠崎さんは
「すみません。急な用事が入ってしまい、もう行かなければならなくなってしまいました」
{わかった、じゃあ今日はこの辺にしようか}
「すみません」
お会計をすまし、喫茶店を出たところで
「一ノ瀬さんは、装飾部に入部されますか?」
と一ノ瀬さんが聞いてきた。
正直、まだ決めていなかった。明日か明後日あたりに残りの文化部を見て回った後、決めようと考えていた。しかし、
{まだ決めてないけど困ってるみたいだったし、ちょっと面白そうだから入ってみようかな}
と答えると。
「なら私も入ります。」
と篠崎さんが即答してきた。
{そっか、篠崎さんも入れば部員数も足りるしね}
「別に、あの部活のためでは、」
{そうなの?じゃあなんで?}
そう俺が聞くと
「なんでもです」
と篠崎さんは答えた。少し顔が赤い。
「とにかく、一緒に部活入りましょうね!」
{そうだね、頑張ろうね}
「はい。それじゃあ、一ノ瀬さんまた明日」
そう彼女は、俺に微笑んだ。
(初めて笑ってくれた)
関係性が少し前進しただろうか。
{うん、また明日}
そう言って俺たちはそれぞれの帰路に就いた。
(あ、篠崎さんになんで俺が考えていることが分かったのか聞くの忘れた)
作者からの一言
おはようございます。
過去の話の中で凛が猫好きという設定を出しましたが、実は自分も超猫好きです。
ちなみに、ムーちゃんのモデルは実家で買っている猫です。うちの子は三毛猫ですが。やっぱり動物は癒されますよね。
ハートやフォロー感想や星をお待ちしております!
黒崎灰炉
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