第二十三話 乱立する感情
「うわぁ、緊張してきた」
対抗リレーが終わり、体育祭の閉会宣言の後、俺と杉山は一緒に唯を探していた。
ちなみに、俺たちがリレーで負けた組は杉山の組だったため、ちょっと腹立つ。
「なぁ、やっぱりやめようかな」
{今更怖気ずくのか?弱虫ビビりヘタレちびり野郎が}
「言い過ぎじゃね?ちびってねぇし」
本当か?
「でも、やっぱり緊張するよな。断られないかな?」
{まぁ、大丈夫じゃね?}
「他人事だと思って」
{他人事だもーん}
「ってか、唯ちゃんどこに行ったんだ?」
{さっきまでいた気がしたんだけどな}
「うーん」
二人で話しながら、唯を探し回っていると中庭に出た。
すると、
「おい!」
そう杉山が言って、俺を物陰へ引きずり込む。
{なんだよ!?}
「あれ見てみろって」
杉山が小声で言ってきた。
杉山が言った方に目をやると、二人の生徒が立っているのが見えた。
「あの子、篠崎ちゃんだよな」
確かに、一人は篠崎さんだ。もう一人は、
「あれ、お前のリレーのチームの子じゃね?」
杉山がそういうので、目を凝らすと阿久津君が立っていた。
(この雰囲気はいわゆる、あれだろうか)
{なぁ、二人に悪いしもう行こう}
「俺も唯ちゃん探しに行きたいけど、今動いたらばれるって!」
絶妙な距離感で、動きづらい。
「あ、あの。篠崎さん!」
杉山とそんなやり取りをしていると、阿久津君の声が聞こえた。
「ずっと好きでした!僕と付き合ってください!」
(やっぱり告白か)
わざとではないといはいえ、やはり他人の告白の覗きは気分が良くない。
「すみません。今は、誰とも付き合う気はないんです」
篠崎さんは言った。
「あぁ。振られちゃった」
杉山が言う。
{お前もそうなるかもな}
「やめろよ」
杉山が突っ込む。
「はは、やっぱりね。振られると思ってたんだ」
「すみません」
「ううん。いいんだ。あのさ、その代わりっていうのも何なんだけど、最後の思い出作りに今日の夜のフォークダンス、僕と踊ってくれないかな?」
「阿久津さんとですか?」
「だめかな?」
「少し考えさせてください」
「うん。もし踊ってくれるなら、六時五十分くらいに校庭の階段の下で待っているから」
そうして二人の会話が終わった。
結局、最初から最後まで聞いてしまった。
「なんか、罪悪感がすごいな」
(確かに)
「お前、今回は良かったけど、早くしないと篠崎ちゃん誰かに取られちゃうぞ?」
{何が?}
「何がってお前、篠崎ちゃんのこと好きなんだろ?いつも一緒にいるし。篠崎ちゃんあんなけかわいいからな。この二か月でめちゃめちゃ告られてるらしいぞ」
(好き?俺が篠崎さんの事を?)
考えたこともなかった。確かに篠崎さんはかわいいし、素敵な女の子だとは思うけど。
「あ!俺も、うかうかしてられない!唯ちゃん探さないと!」
そう言って杉山が走って行ってしまった。
(おい!)
俺もすぐに追いかけようとすると。
「一ノ瀬さん」
そう声をかけられたので振り返る。
{あれ、篠崎さん。戻ってきたの?}
「戻ってきた?」
(やらかした)
「一ノ瀬さん。もしかして、さっきもここにいましたか?」
篠崎さんが白い目で見てくる。
{はい}
「覗き見は感心しませんよ?}
{すみません。でも、わざとじゃないんです}
「まぁ、タイミング悪く出くわして、動くに動けなかったというところでしょう?」
よくわかっていらっしゃる。
「では、私と阿久津さんの話を聞いていたんですね?」
{まぁ}
「どうするんですか?」
{え?}
「私は、先ほどの阿久津さんの申し出を受けてもいいかなと思っています。別に付き合うことはありませんが、私と踊ることが思い出となるというのであれば」
篠崎さんが続ける。
「でも、一ノ瀬さん。貴方が嫌ならば、私は断ります」
風で篠崎さんの髪が揺れる。
{どういう事?}
「分からないんですか?」
篠崎さんが少し悲しそうに聞いてくる。
{いや、でも...}
言葉が出てこない。
(俺は...)
俺が答えに困っていると、
「もういいです」
そう言って篠崎さんは行ってしまった。
(だって、俺は篠崎さんの事...)
篠崎さんの事をどう思っているのか、分からなかった。
杉山が言うように、好きなのか? 俺が?
(篠崎さんのさっきの言葉の意味ってもしかして)
篠崎さんも俺のことが?
(でも...)
俺はしばらくその場を動くことができなかった。
「うわぁぁぁぁぁ」
うるさい。
杉山が叫んでいる。
あの後、唯を一人で探し回っていたらしいが、結局見つけられなかったらしい。
日も暮れ初め、フォークダンスのために生徒たちが校庭に集まり始めている。
俺と杉山は、校庭の階段に腰を掛けながらその様子を眺めていた。
「どうする凛!このままじゃ俺たち、二人で寂しい夜を過ごすことになっちまうぞ」
別に俺は帰るからいいのだが。
「どこに行ったんだよ!唯ちゃぁぁぁぁぁぁん!?」
「私がどうかしたの?」
振り返ると、唯が立っていた。
「唯ちゃん、今までどこにいたの?」
「私?ちょっと部室で今日の売り上げの計算してた。何か用があるなら、ラインしてくれたらよかったのに。りんりん、私の連絡先知ってるでしょ?」
(あ、忘れてた)
「おい、凛。どういうことだ?」
{すまん。ラインの存在忘れてたわ}
「そこじゃねぇよ。何で貴様、唯ちゃん連絡先知ってんだよ」
{装飾部のグループラインがあんだよ}
「ねぇ、私に何か用があったんじゃないの?」
「あ、そうだ!」
俺が、杉山を唯の前に押し出す。
「あの!唯ちゃん!」
「どうしたの?」
「俺と、今日のフォークダンス一緒に踊ってくれませんか!」
(おぉ)
「え!?私と杉山君が?」
「ダメかな?」
「いや、ダメってわけではないけど」
「俺、どうしても今日唯ちゃんとフォークダンス踊りたいんだ」
唯はしばらく困った顔をしていたが、
「まぁ、そこまで言うなら」
「いやったぁぁぁぁぁ!」
うるさい。
杉山が勝利の雄たけびを上げる。
「じゃあ、私片づけしないといけないからまた後でね」
「うん、それじゃあ」
唯の後姿を眺めながら
「やったよ凛!」
と杉山が言ってきた。
{よかったな}
「あぁ。お前も篠崎ちゃんと踊るんだろ?まさか、あんなどこの馬の骨とも知れないやつに譲ったりなんかしないよな?」
(いや、俺は、、、)
「とにかく、お互い頑張ろうな。俺は、ちょっと身なり整えてくわ!」
そう言って、杉山は行ってしまった。
俺はもう一度、階段に座り込む。
(俺は篠崎さんが好きなのか?)
先ほどの篠崎さんとのやり取りからずっと、そのことで頭がいっぱいだった。
なぜこうも自分の感情に結論を出すのに戸惑うのだろうか。
感情の複雑さに気づかされる。もしくは、シンプルすぎるが故による困惑だろうか。
それ以前の問題なのかもしれないが。
俺は、しばらく階段に座り込み校庭に集まる生徒たちを眺めていた。
作者からの一言
おはようございます。
最近今まで使っていたPCが悲鳴を上げていることに気づきました。
作業中のPCの熱を調べたら90℃ありました。
お肉が焼けますね。
黒崎灰炉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます