第四十四話 安息 憧憬 始まり
「えーん。終わんないよー」
夏休みも残りわずかとなった八月下旬。
俺はこの間の約束通り、唯の家で唯と夏休みの宿題をしていた。
計画的に進めていた俺とは異なり、唯は最終日までため込むタイプらしい。
{ほら、これつかいな}
俺が終わった、宿題を唯に見せる。
「ありがとーりんりん」
唯が半泣き状態で言う。
せっかくの休みなのになぜ宿題など出すのだろうか。
だが、出された以上不本意ながらやらなければいけない。
{そういえば、委員長と杉山は?}
「なんか、誘ったんだけど二人とも来れないって」
{そうなの?}
「うん。なんか用事があるとか」
せっかく唯と一緒に勉強できるチャンスなのに何をやってとんだあいつは。
(俺も残りの宿題を終わらせるか)
しばらく、お互い無言で勉強を進める。
(もうすぐ夏休みも終わっちまうな)
休みが明けたら、また学校が始まってしまう。
今まで通りという訳にはいかないかもしれない。
しかし、それでも進むしかないのだ。
「そういえばさー、りんりんなんかあったの?」
宿題をしながら唯が聞いてきた。
{なんか?}
「うん。今日はあんまり人を誘いたがらなかったじゃん」
こういうことに関して、唯はかなり敏感だ。
(唯に言うべきなのだろうか)
隠したいわけではない。
だが、同時にいろんなことが起きすぎて説明が難しい。
それに、また唯に心配をかけてしまいそうなのが気がかりだった。
{別に大したことないよ}
「でも、りんりん困った顔してるよ?」
{そう?}
「うん。私でよければ話聞くよ?」
{いや、本当に大丈夫だよ}
人に頼ってばかりではいられない。
「そっか」
唯はただ一言そう呟いた。
そしてまたしばらく宿題を進める。
するとドアをノックする音が聞こえ、
「おじゃましまーす」
そう言って入ってきたのは、唯のお母さんだった。
{こちらこそ、お邪魔してます}
「いいのよ、一ノ瀬君。ごめんね、唯あんまり勉強得意じゃないから、手伝ってもらっちゃって」
{いえ、俺も終わっていなかったので}
今日初めて会ったのだが、とてもフレンドリーなお母さんだ。
「もう、お母さん入ってこないでよ」
「いいじゃない。お菓子持ってきてあげたから」
「おいたら出てってよ」
唯と唯のお母さんはめちゃめちゃ似ている。そして、とても仲が良さそうだ。
これが親子というものなのだろうか。
世の中には、救いようのない親というものがいるのかもしれない。
いない方がマシと思われるような親もいるのいるのかもしれない。
だが、それでも親にとって子というのは唯一無二の存在であり、大きなものなのだろう。
俺にはわからないが。
「なに、りんりん。にやにやしちゃって」
唯のお母さんが出て行ったあと、唯が言ってきた。
{いや、二人のやり取りが微笑ましいなって思って。後にやにやはしてない}
「えー、してたよー」
{してない}
「一ノ瀬君!お茶飲むー?」
「もう!だからお母さん入ってこないでってば!」
作者からのひとこと
おはようございます。
最近、日付が変わったら投稿するようにしているのですが、最初の挨拶を「おはようございます」にすべきか、「こんばんは」にするか迷っています。
時間帯的には、「こんばんは」だと思うんですがほとんどの方が朝に読むと勝手に思っているので「おはようございます」を採用しています。
まぁ、どっちでもいいですね。
黒崎灰炉
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