第四十三話 嵐の前と後の静けさ

「おはっす。一ノ瀬君」


{おはようございます。大金先輩}


 旅行が終わって二週間ほど経った八月中旬。俺は部室に来ていた。


 今日は、俺と大金先輩が部室に来る当番の日だ。


 (休み明けどんな顔して二人に合えばいいのだろうか)


 篠崎さんとの蟠りを解消するための旅行のはずが、蟠りを増やして帰ってきてしまった。


 篠崎さんとも、蓮ともあれ以降話していない。

 

 夏休みが明けるのが違う意味で憂鬱である。


 だが、今回の旅行で収穫がなかったわけではない。


 問題も、考えなければいけないことも増えたが、それでもまた先に一歩踏みだせたと思う。


 (俺も次の案を考えなければな・・・・ん?)


 俺が、そんなことを考えながら作業をしていると俺の手元を大金先輩がのぞき込んでいた。


{あの、大金先輩?}


「なんすか?」


{何してるんですか?}


「一ノ瀬君の技術を見て学んでたっす」


{そんなに見られてると、やりずらいんですけど}


「嫌っすか?」


{いやっていう訳ではないですけど}


「じゃあ、いいじゃないっすか」


(確かに)


「一ノ瀬君の作品ってホントプロの作品見たいっすよね」


{いや、そこまででは}


「いやいや、すごいっすよ」


{大金先輩の作品もすごいじゃないですか}


「自分なんて、まだまだっす」


 謙虚な人であ。


「でもあれっすね、一ノ瀬君の作品ってあれに似てますね」


{どれですか?}


「あれっす」


(どれだ)


 すると、


「こんにちわー--」


 そう言って元気に入ってきたのは唯だった。


「ん、どうしたんですか?二人して私のこと見て」


「あれっす」


{あー、あれっすか}


「何?」








「あー、そういうことねぇ」


「はいっす。一ノ瀬君の作品は唯ちゃんのつけてるアクセサリーに似てるっす」


「確かに言われてみれば。りんりんの作るアクセのデザイン私の好みだし」


「まぁ、完全に一致って訳ではないっすけど」


{なんていうブランドなんだっけ}


「これはねぇ、Last Resortっていうブランドだよ」


{大金先輩知っていますか?}


「言われてみれば、聞いたことあるような気がするっす」


{俺は知らなかったですね}


「デザインだけじゃなくて作りも結構似ている部分がある気がするっす」


「すごいね、りんりん。プロレベルってことじゃん!」


「一ノ瀬君の作品はプロレベルと言っても差し支えないっす」


{いやいや}


 だが、確かに俺の作品と作りが似ている気がした。


 もしかしたら、参考資料としてみたことがあるのかもしれない。


「あ、りんりん。宿題ってやってる?」


{まぁ、終わってはいないけど、ちょっとずつは進めてるよ}


「え!本当!?あのさ、もしよかったらなんだけど・・・・」


{今度一緒にやろうか?}


「え?いいの?」


{うん。俺もどのみちやらなくちゃいけないし}


「やったー!」


{ただ、少しお願いがあって}


「なになにー?」


{他の人はできるだけ呼ばないでほしいんだ。呼んだとしても、委員長とか杉山あたりだけで}


「わかったけど・・・・どうして?」


{ちょっと、いろいろあって}


「おっけ!」


 何やら察してくれたっぽい。


 今、篠崎さんと蓮と会う勇気はない。


 ついでに美鈴と会うのもなんとなく気が引ける。


 いつまでも避け続けることはできいないが、今ではない気がする。


 (唯には話すべきなのかな)






作者からのひとこと


おはようございます。

最近週間ランキングの100位前半をうろついております。

ランキング変動のシステムをあまり把握していないのですが100位の壁が厚いです。


                     黒崎灰炉



 



 

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