第四十二話 星を見つめる者
{好きじゃなかったってなんだよ}
「そのままの意味だよ」
{お前、好きじゃないのに美鈴と付き合ったのか?}
「僕もそうだし、美鈴もだよ」
{は?どうして}
蓮は俺の問いには答えず続けた。
「僕達って昔から仲良かったよね」
蓮は空の星を眺めながら言う。
「昔はよく一緒に遊んだりしてさ」
{それがなんだよ}
「内気な僕と仲良くしてくれたのは、凛と美鈴だけだったね」
いまいち話がつかめない。
「凛はさ、昔から僕ができないことを簡単にやってのけちゃてさ、いつも僕が凛に守ってもらってた」
{そうだったか?}
「僕が君に勝ってたとこなんて、お金と品性と勉強と、あと顔かな」
{おい}
「冗談だよ」
ほとんど冗談ではないのが腹立つ。
「君と一緒にいる時は楽しかったよ。でも同時に自分の劣等感に毎日苛まれていたんだ。君にはわからないだろう?」
{劣等感?}
「うん。僕が周りからいじめられてるときに助けてくれたのは君だった。僕が、困っていたら黙って手を貸してくれるのも君だった。泣いている僕を慰めてくれるのも。その度に感じるんだよ、自分の劣等感と君への憧憬を」
初めて聞くことだった。
「僕ができない事を簡単にやってしまう君が。何の嫌味もなく僕に優しくしてくれる君が。僕にはない強さを持つそんな君がずっと腹ただしかったんだよ」
蓮がそんなことを感じていたなんて、知らなかった。
「だから、美鈴と付き合ったんだ」
{それと蓮が美鈴と付き合ったことに何の関係があるんだよ}
「分からないかい?いや、今の君には分からないか」
{今の俺には?}
「凛。僕は最初から全て分かっていたんだ。全てわかっていてやったことなんだ。もし僕が君に。君たちに全てをさらけ出して許しを請うたら、今ならまだ許してもらえるのかな」
蓮は悲しそうに笑いながらそういった。
それは、蓮が俺に対して思っていたことに対しての言葉なのか、それともそれ以外の何かがあるのだろうか。
「もう行こう。みんなが待ってる」
そう言って蓮は歩き始める。
聞きたいことがたくさんあったが、「これ以上聞くな」と言われている気がした。
今日一日で、いろんなことが起きすぎた。
遠く輝く星をみて、中学生のころ蓮が宇宙飛行士になりたいと言っていたのを思い出した。
届かない光への憧れというのは誰の心にも眠るものなのだろう。
心が、欲望が、魂がそれを望むとき、人はどれほど自分を失ってしまうのだろうか。
もしくは、どれほど人は美しくなれるだろうか。
彼が俺に憧憬を抱いたように、俺もまた彼に憧れていたのではないかと思う。
もうだいぶ昔の事なので忘れてしまったが。
彼の思いを知った今、俺はどのように彼と向き合っていけばいいのだろう。
この日、俺は当山蓮という男について結局何も知らなかったということを知った。
そして、もしここから彼について知っていけていたら、未来は変わっていたのかもしれない。
星が綺麗な真夏の夜。俺たちの旅行は幕を閉じた。
一つだけ言えることは、この旅行で俺は全くわくわくしなかったという事だった。
作者からの一言。
おはようございます。
過去の話の文字数を見てみたら、一話あたり四千文字くらい書いていました。
今は三、四話くらいでそのくらいの文字数に行きます。
あまり長いと読みずらいと思うので、このくらいの文字数で行こうと思います。
そして、純粋に自分が疲れます。
後、次から日付が変わる十二時に投稿するようにします。
黒崎灰炉。
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