第四十四話 覚悟と決意

「ありがとう、一ノ瀬君」


 新学期が始まってから数日後、俺は日直の仕事でクラスメートのノートを職員室まで持ってきていた。


「それから、君の作文読ませてもらったよ」


 水島先生が言っているのは、先生が夏休み前に俺たちに出した「倫理と論理」についての作文の宿題のことだ。


「論理が無ければ人類のこれまでの進化も、未来への発展もありえない。人間が論理のみに基づいて生きるのであれば、より効率的に人類が発展する可能性は大いにありうる。しかし、それらが行われないのは人類が人類として発展しなければいけないからであり、それには倫理が必要なのである。ゆえに「倫理的に」という言葉のみで片付けなければいけない事象も、人間として生きる上では起こりうることであり、必要なことなのである」


 先生は、俺が書いた作文の一分を読み上げる。


「非常に完成度の高い作文で読んでいて非常に面白かったよ。今度は、ぜひ君とこのテーマについて語り合いたいものだね」


 それは非常に遠慮したいところである。


 俺は、挨拶をして職員室を後にする。


 教室に帰っている際に杉山を見かけた。


{久しぶりだな}


「おう。凛か」


何やら元気がない。


「お前、なんで言わなかったんだよ」


{何を?}


「唯ちゃんと勉強会したんだろ?なんで俺に言わなかったんだよ」


 一瞬頭が真っ白になる?


{お前唯から誘われなかったのか?}


「誘われてねーよ」


{でも唯は誘ったって}


「知らねーよ。しかもお前唯ちゃんの家でやったんだろ?」


{それは、そうだけど}


「お前なんで俺が唯ちゃんの事好きだってわかってて、なんも言わないんだよ」


{だから、俺は唯が伝えたと思ってたんだよ}


「あーそーですか」


{お前今日ちょっと変だぞ?}


「変にもなるわ。友達だと思ってたのに」


{だから、俺はそんなつもりないって}


「はいはい。もういいわ」


 そう言って、杉山は行ってしまった。


(なんなんだ?)


 まさかこんなことになるとは思わなかった。


 とにかく、誤解を解かなければ。


 杉山を追いかけようとしたその時、


「一ノ瀬君」


 そう俺に声をかけてきたのは委員長だった。


「ちょっといい?」


 




「ごめんねー。今日一ノ瀬君日直だったから手伝ってもらおうと思って」


 俺は委員長に呼ばれて、クラスの仕事を手伝うことになってしまった。


{いや。大丈夫。それじゃあ俺はちょっと用事があるから}


「あ、待って。それって、杉山君とのことだよね」


{え?}


「あ、ごめんね。さっきちょっと聞こえちゃって」


{あぁ。ちょっと誤解を解きに行きたいんだ}


「今はやめておいた方がいいんじゃないかな?ほら、なんか二人とも今冷静じゃなさそうだし」


{それは、そうだけど}


「もし一ノ瀬君がよかったらさ、私が話聞こうか?」


{え、委員長が?}


「うん。ほら、私って一ノ瀬君たちと仲良くなったのって最近じゃない?昔からの付き合いじゃないからこそ、分かることもあるかな?と思って」


 委員長の言うことは、一理ある気もしなくはない。


(俺は・・・・)


 委員長に話そうかと思っていたその時、


「凛。ちょっといい?」


 そう言って声をかけてきたのは、美鈴だった。


「ごめんね、委員長ちょっと凛借りてもいい?」


「え。いいけど・・・・」


「ほら、行くわよ」


 そう言って美鈴が俺の腕を引く。



{ちょっと。なんだよ}


 しばらく、美鈴に引きずられたところで美鈴に言った。


「あなた、杉山と喧嘩したんだって?」


 情報がはやい。


「風葉ちゃんともまだ仲直りしてないんでしょ?それに、蓮ともなんかあったって聞いたけど?」


 筒抜けである。


「あなた、友達多くないでしょ。このままだと、一人になるわよ?」


{そんなこと言いに来たのか?}


「まぁ。それもあるわよ」


{それ、ね}


「あなたが今どういう状況なのか完璧に知っているわけではないし、別に私の知ったことではないけど、凛も前に進みたいからこの間の旅行に参加したんじゃなかったの?」


{そうだけど}


「でも進んでないと」


{何が言いたいんだよ}


「そうやっていつまでもうじうじしてるから、全部が中途半端になるのよ」


 反射的に言い返そうとしたがやめた。


 ここで、美鈴とも揉めたくはないし、何より彼女の言葉は正論だった。


「分かっているんじゃないの?今自分がしなくちゃいけない事」


{それは・・・・}


「凛。何かが変わることは、楽しい事だけではないわ。特に安定したを手放す時にはね」


 美鈴が言う。


「覚悟を決めなさい。私はもう決めたわ」


{それは、蓮とのことか?}


「あら、知ってたの」


{蓮から聞いた}


「そう」


{なんで、蓮と別れたんだ?}


 俺がそう聞くと。


「内緒よ。でも、あなたが覚悟を決めたら、教えてあげるかもね」


 美鈴はそう言って静かに笑った。






作者からの一言


おはようございます。

最近腰痛に悩まされています。そんな年ではないんですが。

体はいつまでも健康でいたいものですね。


ここ数話、話しがあまり進んでいませんでしたが、次回からストーリーが大きく進む予定です。


                         黒崎灰炉




 

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