第三十三話 既視的な不安という情動
終業式も終わり、高校最初の夏休みが始まった。
四月から今日まで数か月しかなかったはずなのだが、一年くらいに感じる数か月だった。
本当にいろいろあった。
最近はあまり楽しい事ばかりではなかったが。
もうこのまま全部放り投げてしまえたらどれだけ楽なことだろうと何度も思った。
それに意味が無いことも同時に。
(暑いな)
もう七月も折り返している。
部屋にクーラーをいれ、スマホを手に取る。
今日は特に予定もない。
宿題を軽く進め、アクセサリーでも作って時間をつぶそうと思っていたのだが、結局午後までだらだら過ごしてしまった。
何もする気は起きないのだが、何もしなければしないで余計なことを考えてしまう。
先生の言葉。美鈴との過去。風葉さんとの関係。そして、自分自身について。
「私はあなたの事が嫌いです」
風葉さんに言われた言葉を思い出す。
今更だが、その言葉で自分が傷ついたのだと自覚する。
だが、傷心に浸っている場合ではない。
正直、このまま関係を切ろうと思えば切ることもできるのかもしれない。
しかし、このまま終わらせてはいけない。そう思った。
それは、彼女に対する苛立ちか、彼女との関係に対するけじめか、自分自身のためか。
いずれにせよ来月頭に控えているみんなとの旅行に参加し、そこで彼女と向き合うつもりだ。
スマホを置き、ベッドに横になると部屋の棚の本に目が留まった。
「水平線上のエデン」
以前、うちに来た時に風葉さんが内容を軽く教えてくれた。
その時にも思ったがこんな本持っていただろうか。
なんとなく手に取り、パラパラとめくってみる。
すると、一枚の紙が足元に落ちた。
しわしわになっている紙を拾い上げる。
折りたたまれている紙を広げると、文字書いてあった。
最近新しい友達ができた。
あんまりしゃべらないけど、悪いやつじゃない。
つまらないところだけど、友達といるときは少しだけ楽しい。
また、みんなに会いたい。
でもこの間、喧嘩しちゃった。
まだ仲直りできてない。次会ったら仲直りできるかな。
そういえば、もう一人最近友達ができた。
友達だとおもうけど、よくわかんない。
あんまり会えないし。
あれ、いつもどこで会ってたんだっけ。
文はそれで終わりだった。
文字を目で追っていくたびに、緊張するのが分かった。
いつものあの両手をぬぐう癖をやってしまう。
見た感じ子供の字のようだが、手紙だろうか。もしくは日記のようなものだろうか。
この文からは読み取れないことが多い。
誰が書いたのか分からないが、不安な気持ちになる。
紙をまた本に挟み、棚に戻す。
(でもあの字って...)
デジャブというほど鮮明なものではなく、ノスタルジックというほど温かいものではない。
しかし、昔感じたことがあるような不安な気持ちが心を覆いつくすのを感じた。
暗闇の中で誰かが俺を見つめているような。
作者からの一言
おはようございます。
以前にも書きましたが、この物語は一応ラブコメ設定となっているのですが、最近の話はそれらの要素があんまりないですね。
ラブ要素はともかく、コメディ要素は今までもあまりありませんでしたね。これからも多分あまりありません。どうしましょう。
黒崎灰炉
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