第三十四話 今はまだ眠る種
「いやー、いいよな。たまにはこういうのも」
夏休みが始まって数日、俺はなぜか杉山とプールに来ていた。
「せっかくの夏休みだっていうのに、ほとんど部活で埋まって疲労困憊の毎日だぜ」
杉山が水に浮きながら言う。
(ではなぜ、せっかくの休みに俺とプールなど来ているのだろうか)
「なぁ、次あれ行ってみね?」
杉山が指さしたのは、流れるプールだった。
「ちょっと待ってろよ」
そう言って、いったん更衣室に帰った杉山はすぐに何かを持って帰ってきた。
「流れるプールように家からフロートを持ってきたんだよ」
(子供かこいつは)
「お前どっちがいい?」
そう言って杉山が出してきたのは、カメのフロートとエイのフロートだった。
(こっち)
どっちでもよかったのだが、可愛かったのでカメのフロートを選んだ。
二人でフロートを膨らまし、流れるプールに向かう。
フロートを水に浮かべ、ゆっくり上に乗る。
人がいたら邪魔だろうが、今日はあまり人がいなかった。
夏休みだというのに、近所のがきんちょ共はどうしたのだろうか。
「今時の小学生は、スマホやらゲームやらであんまり外に出ないらしいから、フロート浮かせても平気だな」
杉山が言う。
(なるほど)
ゲームなどはともかく、小学生のうちからスマホを持つのは如何なものかと思う。
誰に言っているというわけではないのだが。
杉山と並んでフロートに寝そべる。
緩やかな流れに身を任せて、フロートの上に寝そべってみると、思ったよりも心地よいものだ。
「なぁ、楽しみだよなぁ。来月の旅行。あいつ、別荘持ってるってどんだけ金持ってんだよ」
(確かに)
思うのだが、金持ちは何かと別荘を持ちがちだが、わざわざ購入するほど利用しているのだろうか。甚だ疑問である。
「この間の体育祭で唯ちゃんと踊れたけど、これを機にもっと仲良くなりたいな」
そういえば踊っていたな。
「あぁー----」
杉山が叫ぶ。
うるさい
「お前、次の旅行で仲直りするんだろうな!篠崎ちゃんと」
今あまり聞きたくないことを言ってくる。
そして倒置法が腹立つ。
「このまま終わりなんて許さないからな、ってうわ!」
身をこちらに乗り出した杉山がバランスを崩してプールに落ちた。
そのまま後方へ流れていく。
さらば友よ。
そのあと俺たちはプールから上がり、一休みすることにした。
「あっちら辺にベンチとかなかったっけ?」
休める場所を探して歩いていると、
「なんか香ばしいやつがいるな」
杉山が突然いうので見てみると、髪を金髪にそめた高校生ぐらいの男が、女の子に絡んでいるようだった。
「あれはいわゆる、あれか?」
(あれはいわゆる、それだな)
遠目からだが、女の子の方は嫌がっているようだった。
ナンパをする分には別に構わないのだが、人に迷惑をかけるのはいただけない。
「よっしゃ、いっちょ一肌脱ぐか凛!」
私もですか。
「おまたせぇー」
杉山が定番の知り合い作戦で、女の子と男に近づく。
「誰?こいつ」
男が言った。
このまま女の子も察して、知り合いのふりをしてくれたらいいのだが、
「知らない」
そう女の子は言い放った。
「え?」
「え?」
(え?)
「おい」
金髪の男が言う。
「なんだ?うちの妹にナンパしようとしてんのか?」
「いもうと...?」
(シスター)
「なんだ、そういう事かよ」
あのあと俺たちは、ことの事情を説明した。
「ごめんな、てっきりあんたが女の子に無理やり絡んでるのかと思って」
杉山が言う。
「だって、ウォータースライダーに一緒に乗ろうっていうんだもん」
「せっかく来たんだから乗りたいだろ」
「なんで一緒に乗る必要があるのよ」
どうやら、兄にウォータースライダーを誘われるのを嫌がる妹の図だったらしい。
「でも、ありがとうございました。おかげで、兄と二人でウォータースライダーを乗るのを回避できました」
女の子は俺たちに頭を下げた。
茶髪気味の長髪で、結構美人さんだった。
しかし、それより気になったのは目の色が薄い碧色だったことだ。
(この色...)
「それじゃあ、俺たちはこれで」
そう言って、二人は言ってしまった。
女の子は最後に「失礼します」と笑顔で言ってきた。
「かわいい子だったな」
帰り際、杉山が言ってきた。
「唯ちゃんほどじゃないけど」
{ほんと唯ちゃん好きな}
「あ、そういえば凛。俺さ、今度唯ちゃんをデートに誘おうと思っているんだけど、その下見に付き合ってくれない?」
{下見ってどこに行くんだ?}
「学校近くの、おしゃれな喫茶店」
{断る}
作者からの一言
おはようございます。
皆さんはハンバーガーを食べますか?
自分はほとんど食べませんが、食べるならマックよりモスバーガー派です。
そんな派閥があるのかは知りませんが。
黒崎灰炉
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