第三十二話 For What
「七月二日、午後八時半。十五回目の実験が終了。被検体の体調に異常なし。意識障害なし。副作用の発現なし」
まきなは、無機質な部屋で一人ビデオカメラに向かって話していた。
「アナザーの破壊とオリジナルの再起を確認」
そう言って、ビデオカメラの録画を止める。
(あと少し。ほんの少しなのに、あと一歩が届かない)
ビデオカメラを片付けていると、コンコン。と部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
そう言うと、一人の女が入ってきた。
「まきなさん。お疲れ様」
女はそう言って、紅茶の入ったティーカップをまきなに差し出した。
「ありがとう。
まきなは、ティーカップを受け取る。
「そろそろ、うちに帰ったら?ここ数日ここに籠りっきりでしょ」
花憐は言う。
「そういう訳にはいかないわ。もうあまり時間もないし」
「それはどっちの意味?」
「どっちもよ」
まきなは静かに笑いながら言う。
「今のCINも十分効果は確認できているし、身体的副作用も少ないんでしょ?それでいいじゃない。これ以上無理することはないわ」
「いえ、だめよ。これはCINじゃない。これは確かに副作用もないし、オリジナルの再起の確認もできるわ」
まきなは、オレンジ色の液体が入った瓶を手に取りながら言う。
「だったら、、、」
「でもだめよ。私が作らなければいけないものは、オリジナルとアナザーのニュートライザー。つまり中和剤よ」
「そうかもしれないけど...」
「心配してくれるのは嬉しいわ。でも、アナザーの破壊は本人にとって、とてもきついものなの」
まきなは紅茶を飲みながら言う。
「過去には戻れないわ。だからせめて、完全のCINを完成させることが私の罪滅ぼしなの」
「あれはまきなさんのせいじゃないわ」
花憐はいう。
しかし、まきなは何も言わなかった。
「まきなさん。今からでも遅くない。それを上に提出して、この件から手を引いて。私みたいに手遅れになる前に」
「貴方は手遅れじゃないわ。今からでも十分やり直せる。何なら今すぐにでも。でもそれをしないのはどうして?」
「それは、、、」
「お互い守るべきものがあるでしょ?まぁ、それだけが理由ではないけれど」
「そうね」
「でも、今はとにかくこれを完成させる。それだけよ」
そういって、まきなは瓶を握りしめる。
「分かったわ。でも、次は私が被検体になるわ」
「あなたが?」
「えぇ。ダメとは言わせないわよ?」
「あなたも頑固だものね。誰かさんと似て」
「さぁ、誰の事かしら」
花憐は笑いながら言った。
作者からの一言。
こんばんは。
部屋の掃除をしようにも、時間がなく散らかっていくばかりの今日この頃です。
時間があったらあったで、後回しになってしまって結局できないんですが。
ずっときれいな部屋を保つのは、そういう才能がいると思います。
黒崎灰炉
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