第三十一話 不完全から始まる完全

「凛。ブラックコーヒー好きじゃなかったでしょ」


美鈴が言う。


{え?}


「それなのに、急に飲み始めるようになったわよね」


{そうかもしれないけど、それがどうかしたのか?}


「そうね。それほど大した事じゃないのかもしれないわね」


{何が言いたいんだ?}


「別に。ただ、私からしたら貴方も十分に変わったってことよ」


美鈴は言った。


「まぁいいわ。とにかく、夏休みの件はちゃんと参加しなさい。約束もしたんでしょ?」


{まぁ}


「もういい時間ね、そろそろ帰りましょうか」


そして俺たちは店を出た。


店を出たところで、


「ねぇ、凛。あなたに助けが必要な時、私はあなたの力にはなれないわ。今までもそうだったし、これからもきっとそう」


美鈴は言う。


「あなたは私を必要としないから」


{何の話?}


「でも次、あなたがもし私を頼ってくれるなら、いつでもあなたの力になるわ。私も、次に進みたいから」


別れ際、美鈴はそう言った。






(俺も変わった。か)


帰り道。俺は一人でそのことを考えていた。


自分の変化に、自分自身で気づくことは難しい。


美鈴に、今の俺はどう映っているのだろうか。


美鈴の中の、昔の俺はどのようなものなのだろうか。


(そもそも、俺ってどんな人間だったけ?)


それすらも分からなくなる。




次の日、俺は学校で水島先生の授業を受けていた。


「今から約100年前、オーストラリアの数学者であるクルト・ゲーデルが不完全性定理を証明しました。これは、公理系があったとしても、〇か×かを論理的に証明することができない命題が、数字ですべてを表せると考えられていた数学の世界においても存在することを数学的に証明した、ということです」


先生は教壇の前に立ち、言う。


「1×2=2です。円周率は3.14から始まります。これは、疑いようのない事実です。今までもそうでしたし、これからもおそらく、これらは普遍的な物として存在するでしょう。しかし、そんな数学の世界でも、どちらが正しいか決めることができないものが存在することが証明されました」


先生は、黒板に文字を書きながら言う。


「数学の世界ですら、そんなことがあるのですから、より複雑で不透明な私たちの世界では、こんなことはいくらでもあります。「風が吹けば桶屋が儲かる」という、ことわざがありますが、現実ではそんな論理は起こりえません。実際には、風が吹いても桶屋は儲からないのです。だから、私たちには倫理が必要なのです」


先生がそこまで行ったところで、チャイムが鳴った。


「はい。夏休み前最後の授業は以上となります。皆さんには、夏休みの宿題として、「貴方が考える、倫理と論理」というテーマで作文を書いてきてもらいます。このテーマに沿っているのであれば、内容は問いません」


そう言って授業が終わった。


授業後、俺の机に蓮が来た。


「凛、夏休みの予定の事なんだけどさ、、、」


夏休みの予定の説明をしに来てくれたのだが、先ほどの授業の事を考えていてあまり頭に入らなかった。


(論理と倫理、か)





作者からのひとこと


おはようございます。

最近時間が無くて、文字数を減らし投稿頻度を下げてしまい申し訳ありません。

また、見直しをほとんどしていないため、誤字が多々あると思います。

気が付いたところは随時更新していきますが、抜けているところがあっても、大目に見てください。

                            黒崎灰炉






















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