第十七話 お泊り (再)
{あの、篠崎さん。本当にうちに泊まるの?}
「はい。蓮様にもお暇の許可はとってきたので大丈夫です」
{いや、そういう意味じゃないんだけど}
その週の土曜日の朝、先日の発言通り篠崎さんは本当に俺のうちに泊まりに来た。
一応、まきなさんに聞いてみたのだが
「私もいるし別にいわよ」
とだけ言われた。
「あの、一ノ瀬さん、私の荷物はどこに置けばいいでしょうか?」
篠崎さんが聞いてくる。
{そっちの空いている部屋使っていいよ}
うちの家は、割と広い部屋で使っていない部屋がある。
もう少し小さい部屋があるマンションに引っ越さないのか、とまきなさんに聞いたことがあるが、どうやらこのマンションに思い入れがあるらしい。
「それじゃあ、さっそく作業に入りましょうか」
荷物を置いた篠崎さんが言う。
一か月後に控える体育祭でのバザーに向けて、俺たち部員に課せられたノルマをこなすために、泊りがけでアクセサリーを製作するということだった。
土日も作業できる分、確かに効率的ではあるのかもしれないが、それ以前の問題のような気もする。
既に制作に入っている篠崎さんの、真向かいに座り俺も作業に取り掛かる。
(ふー、やっとできた)
時計に目をやると、午後二時を回りかけていた。
「お疲れ様です。一ノ瀬さん、お昼ご飯はどうしますか?」
朝ごはんは食べない派なのでおなかがすいた。
{なんか適当に買ってこようか、それかどこかに食べに行ってもいいけど}
そう俺が言うと、
「なら、私が作ってもいいですか?」
{え、篠崎さんが?}
「はい、一ノ瀬さんが嫌でなければ}
確かにこの間、蓮の家で合宿した時に食べた篠崎さんのごはんはおいしかった。
{いや、全然いやってことはないんだけど、わざわざ作ってもらうのも悪いかなって}
「いえ、私は泊まらさせていただいている身なので、このくらいのことはさせてください」
{まぁ、そういうなら}
「わかりました。一ノ瀬さんはゆっくりしていてください」
そういって、篠崎さんはキッチンに行ってしまった。
俺は自分の部屋に戻り、新しい作品の制作に取り掛かかりはじめ、しばらくした後
コンコン
と部屋をノックする音が聞こえた。
「一ノ瀬さん、ご飯ができました」
そう言われて、リビングに向かうとオムライスとスープが並べられていた。
「簡単なものですけど」
{いやいや、すごい本格的だね}
さっそく、席に着いて食べてみる
(いただきます)
そう心の中でいい、手を合わせる。
「どうですか?」
{めっちゃうまい}
「本当ですか?」
{うん、プロみたい}
「なら、良かったです」
そうして、篠崎さんの作ってくれたご飯を食べ終えた俺たちは、午後の制作に移った。
その日の夕方
{篠崎さん。今日はそろそろ終わりにしようか}
「そうですね、今日一日でかなり進みました」
やはり、あれだけの制作料を平日の放課後だけで作るのははどうしても無理がある。
「それじゃあ一ノ瀬さん、私は夕飯を作りますね」
{ありがとう}
「あ、でも今日のお昼で冷蔵庫の中の材料ほとんど使ってしまいました」
{なら、必要なもの言ってくれれば俺が買ってくるよ}
「いえ、私が行きます」
{いいよ、さっきご飯作ってくれたし}
「なら、一緒に行くのはどうですか?」
{別にいいけど}
そう俺が言うと、
「なら今から準備してきますね」
と、篠崎さんがいった。
心なしかちょっと嬉しそうだ。
そのあと俺たちは、マンション近くのスーパーに向かった。
「今日は何にしましょうか?」
スーパーのかごを持ちながら、篠崎さんが聞いてきた。
{なんでもいいよ}
「なんでもいいが一番困るんですよ?何か食べたいものとかないんですか?」
{じゃあ、カレーとかはどう?}
「カレーですか。良いですね、では、最初に野菜を買いに行きましょうか」
そうして、二人でスーパーを回りカレーに必要な具材をかごに入れていった。
「では、最後にルーを選びましょうか?」
俺たちは食材コーナーに向かおうとすると
「あれ、凛と風葉さん?」
そう言って声をかけてきたのは、蓮だった。
隣には、美鈴もいる。
「二人とも夕食の買い出し?」
「はい、蓮様たちはどうしてこちらへ?」
「僕たちは、まぁ出かけたついでに寄ったんだ」
おそらく二人はデートしていたのだろう。
「なに?どういうこと?どうして二人が買い物しているの?」
美鈴が聞いてくる。
「風葉さんは、今日凛のうちに泊まる予定なんだ」
「え?風葉さんが泊まるの?凛のうちに?」
美鈴が驚いた様子で言った。
それもそうだろう。
「はい。週末にかけて、アクセサリーを一ノ瀬さんのお家で作らさせていただくので」
そう、篠崎さんがいう。
「だめよ!思春期の男女が一つ屋根の下に泊まるなんて!?」
美鈴が言う。
だがまぁ、正論だ。
「大丈夫だよ。凛の叔母さんもいるし、凛のうちには空いている部屋があるから」
「でも、」
「大丈夫です。一ノ瀬さんは信頼するに値する人です」
一ノ瀬さんがそう言ってくれる。
「あっそ、じゃあ好きにすれば?」
美鈴はそっぽ向いてしまった。
「それじゃあ、僕たちはこれで」
そう言って俺たちとすれ違う時、
「風葉ちゃんに何かしたら許さないから」
そう美鈴がつぶやいたのが聞こえた。
買い物を済ませ、家に帰ってくると
スマホにメッセージが届いていた。
(まきなさんからだ)
「ごめん、今日も帰れなくなっちゃった (๑´ڤ`๑)テヘ♡。風葉ちゃんと仲良くね。羽目を外しすぎちゃだめよ?」
丁寧に顔文字付きである。
{篠崎さん。ごめん、今日まきなさん帰ってこれないみたい}
「え?」
作者からの一言
おはようございます。
私事なのですが、最近実生活の方が忙しいため毎日更新をやめるかもしれません。
できるだけ、アップロードはする予定なのですが、上がってなかったら察してください。
黒崎灰炉
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