第十六話 その意味は

「では、発表します!」


唯がそう高らかに言う。


「我々装飾部が、四月および五月に売り上げた総売り上げは、、、」


緊張が走る。


「三万五千円です!」


「あぁー」


大金先輩が言う。


「唯ちゃん、月ごとの内訳教えてもらえる?」


湊先輩が唯に聞く。


「四月が一万五千円、五月が二万円です」


正直あまり喜ばしい金額ではない。


四月はあまり期待できないとは思っていたが、五月も予想以上に伸びなかった。


目標金額である三十万円から、一月から三月にすでに売り上げていた三万円を差し引くと二十七万円。それを残りの月で割ると、ひと月当たり三万円ほど売り上げなければならない計算だった。


残り七か月で、二十四万五千円。つまり、ひと月当たり三万五千円の売り上げをある必要があり、また難易度が上がってしまった。


「すみません、私がもっと早く上達していれば」


申し訳なさそうに、篠崎さんが言う。


「いやいや、むしろ一か月足らずでこれだけ作れるようになれば十分っす」


大金先輩が言う。


「そうだよ、本当は先輩の私たちがもっと頑張んなきゃいけないのに」


実際、五月の売り上げが上がったのはブランドの認知度が上がったことと、篠崎さんが戦力に加わってくれていた要因が大きいだろう。


逆に言えば、四月から五月にかけての俺や先輩たちの売上の上昇率はあまりない。


「このままやっていても、目標には届かない。何か、作戦を練る必要がある」


湊先輩が言う。


「ブラドディングの拡大、製品の多様化、技術の向上、考えればきりがないけど焦らず積み重ねていこう」


正直、俺たちは高校生にしたらよく頑張っている方だと思う。


自分たちでブランドを立ち上げ、制作、マーケティング、販売、売り上げ管理すべてを自分たちでやっているのだから。


(そういえば、この部に顧問はいるのだろうか?)


いや、いるのだろうが、少なくともこの二か月全く見ていない。


「それはそうと、諸君!来月は、体育祭があるのを覚えているかい?」


「もうそんな季節っすか~。私は、運動嫌いだから嫌っす~」


大金先輩が言う。


「まぁ、そういうな真紀ちゃん。体育祭は、私たちにとってチャンス!この機会にバザーを開き、売り上げを伸ばすのだよ!」


確かにこういうイベントの際には人も集まるし、買っていってくれる人も増えるかもしれない。


「そこで、ちょうどテストも終わったことだし、みんなには来月の体育祭までに作品制作のノルマを課す!!」






「一ノ瀬さん、困りましたね」


今日も俺の家で一緒に制作作業をすることになり、篠崎さんと帰っていると、篠崎さんが唐突に言った。


{そうだね。体育祭まであと一か月で、バザー用の十個の作品+オンライン販売用の五個、計十五個を作るのは正直辛いね}


「はい。私はこないだようやく作れるようになったばかりなので、どんなに頑張っても、十個が限界な気がします」


確かに、現実的な数字では無い。


俺はともかく、篠崎さんは特にそうだろう。


{今でもかなり忙しそうだしね}


「私の作品は前回はたまたま完売しましたが、これだけ時間をかけても完売するとは限りませんし」


{確かに}


だが、商品のクオリティを落とすことはできない。


正直かなりピンチである。


今回一か月だけならともかく、今後もこのペースでは続けられない。


湊先輩もそのあたりは考えているだろうが。


{まぁ、とりあえず今はやれることをやるしかないね。今後どうしていくかはみんなで考えよう}


「そうですね」


そう言っているうちに、俺の家に着いた。


「お邪魔します」


よく考えたら、篠崎さんと出会ってからまだ二か月くらいしかたっていないのに、すでに何度か篠崎さんは俺のうちに来ていた。


(大丈夫だろうか)


何の心配をしているのか自分でもよくわからないが。


{まってて、今コーヒー淹れてくるから}


「ありがとうございます」


そういって、俺は篠崎さんを部屋にあげ、コーヒーを淹れに行く。


(ブラックでいいのかな)


俺はいつもブラックコーヒーしか飲まないから、牛乳がない。


とりあえずブラックコーヒーを淹れて、部屋に持っていく。


「あ、一ノ瀬さんありがとうございます」


部屋に行くと、篠崎さんが俺の部屋に並べてあるCDや映画のDVDの棚を眺めていた。


「一ノ瀬さん、このアーティスト好きなんですか?」


篠崎さんが、棚を指して言う。


{あぁ、そのアーティストね。よく登校中とか聴いてるんだ}


「そうなんですね」


{篠崎さん、ブラックでよかった?うち牛乳無くて}


「大丈夫です。一ノ瀬さん、前も喫茶店でブラックコーヒー頼んでましたよね?好きなんですか?」


篠崎さんが聞いてくる。


{え、まぁ好き?なのかな?}


「本当ですか?いつ頃から好きなんですか?」


{え、覚えてないよそんなの}


「そうですか」


なぜそんなことを聞いてくるのだろうか。


{じゃあ、作り始めようか}


「そうですね」


そう言ってお互いの作業に入る。


しばらく無言で作業を進めていた。


(あ、ここニッパーが必要だな)


そう思って、ニッパーに手を伸ばす。


すると、


「あ、」


(あ、)


同じく、ニッパーに手を伸ばしていた篠崎さんと手が触れてしまった。


「すみません」


そう言ってお互い手を引っ込める。


忘れていたが、前回この部屋で一緒に作業した時、若干気まずい雰囲気になったのだった。


その原因がこのニッパーだった。


{思い出してしまった}


篠崎さんも、少し恥ずかしそうにしていた。


「あの、あの時はすみませんでした。私がケガしないようにしてくれたのに、、、」


{いや、俺も悪かったし、、、}


そう謝り合っていると、


「あ!一ノ瀬さん」


と篠崎さんが声を上げた。


{どうしたの?}


「今週末、一ノ瀬さんの家に泊まっていいですか?」





(はい?)





作者からの一言


おはようございます。

もう九月ですね。

自分は、季節の中で秋は割と好きな方です。

気温もちょうどいいし、きれいな季節ですよね。

早く涼しくなってほしいものです。

とはいえ、急な温度変化で体調を崩さないようにしてくださいね。


星、ハート、フォロー、感想なんでもお待ちしております。

                             黒崎灰炉















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る