第二十七話 不自然な均衡

週明けの水曜日の放課後の部室。


「みんなお疲れさまー」


湊先輩が言う。


「お疲れ様っす」


「いやー、体育祭のバザーも大盛況で無事完売だよ!」


「ここで完売できたのは大きいっすね!」


「うん!唯ちゃん、オンライン販売の調子はどう?」


「オンラインの方も順調です!SNSの公式アカウントのフォロワーも増えてきています!」


「そっかそっか、でも現状に満足しないでどんどん新しいことを仕掛けていきたいよね!」


確かに、今の伸びがこのまま続くとは限らない。


「それでね、今後は君たちをモデルとしてSNSに写真を上げていこうと思うんだけどどうかな」


「モデル?」


「うん。今までは、アクセサリーの写真だけを載っけていたけど、これからはみんながそれを身に着けて、その写真を載せようと思っているんだ」


「えー、それはちょっと恥ずかしいっす」


大金先輩が言う。


「大丈夫だよ。みんなかわいいし」


「いや、そういう問題じゃ」


「これも部のためなんだよ、まきちゃん!」


「それを言われると弱いっす」


「それにもう、写真部に撮影の手配はしてあるの!」


用意周到である。


「でも、大金先輩の言う通りちょっと、恥ずかしいかも。私自身ないし」


唯が言う。


「大丈夫だよ唯ちゃん!君はかわいい。いや、この部にいる子はみんなかわいい!」


湊先輩が言う。


(それって俺も入っているのかな?)


「まぁ、そこまで言うのなら」


「ありがとう」


唯もまんざらではなさそうだ。


「そういう事で話がまとまりそうなんだけど、篠崎ちゃんはどうかな?」


湊先輩が篠崎さんに話を振る。


「私はどちらでも」


篠崎さんがそっけなく言う。


「そっか、まぁ、無理強いをするつもりはないから。嫌なら遠慮なく言ってね」


「はい」


「それじゃあ、今日はこれで解散!」


湊先輩がそう言ったので、次々に部室を出る。



部室を出ると篠崎さんの背中が見えたので、篠崎さんを追う。


この数日間、篠崎さんとは全く話していなかった。


このもやもやを解消するためにも、とりあえず話してみなければならないと思ったのだ。


走って篠崎さんの肩をつかむ。


{篠崎さん!}


「一ノ瀬さん。どうかしましたか?」


篠崎さんは、いつも通り落ち着いたトーンで話してくる。


しかし、なぜだかいつもより冷たい目をしている気がした。


{なんなの?体育祭の日からずっと感じ悪いし、何か言いたいことがあるなら言えばいいじゃん!}


「何のことでしょうか?」


{何のことって、体育祭の日からずっと変だよ}


「先ほどから言葉が不十分なようですが、つまり最近の私の態度が気に食わないということですか?」


{態度もそうだし、何か俺に思っていることがあるんじゃないの?}


最近の不満をぶつける。


「そういう貴方こそ、何か私に言わなければならないことがあるんじゃないですか?」


{じゃあ言わせてもらうけど、俺は別に君と}


そこまで打ったところで、篠崎さんが口を開く。


「私と恋愛的な関係になりたくない。ですか?」


篠崎さんが俺の心を読む。


「何か誤解されているかもしれませんが。別に貴方の事が好きなわけではありません」


篠崎さんが言う。


「一ノ瀬さんと、そういう関係を望んでいるわけでもありませんし、そういう感情を抱いたこともありません」


{じゃあ、この間の事はどういう事なの?}


「それは、私のためにした事ではありません」


(私のためにした事ではない?)


どういうことだ。ますます分からなくなる。


「この際ですから私もあなたに一言言わせていただきますが、そもそも私は貴方の事が嫌いなんです」


(はい?)


「自分のために平気でまわりを傷つける。それでいて、貴方自身はそれすらも覚えていない。そんなあなたが嫌いです」


{まってよ、いくら篠崎さんにでもそこまで言われる筋合いはないでしょ}


「筋合いならありますよ」


{なんで}


「さぁ、自分の心に聞いてみたらいいんじゃないですか?」


篠崎さんは冷酷に言い放つ。


「とはいえ、私も今ここで貴方との関係を終わらす訳にはいきません。貴方も、生活しづらいでしょうし」


{どういう事?}


「今日からまた、今まで通りの関係で過ごしましょう」


そう言って篠崎さんは、きびすを返していってしまった。


(もう何も分かんねぇよ)


俺が立ち尽くしていると、


「あの~」


そう言って声をかけてきた人がいるので、振り返ると、


「ごめんね」


唯が申し訳なさそうにこちらを見いた。





「盗み聞きするつもりはなかったんだけどね」


帰り道、唯と横並びで歩きながら帰っていた。


「うまく仲直りは、、、できなかったみたいだね」


{それどころか、嫌い宣言されたし}


「うーん。ふーちゃんにも何かあるのかな」


{もう訳分かんねぇよ}


「なんかさ、ふーちゃんってたまに怖い雰囲気出してるときあるよね」


{怖い雰囲気?}


「うん。私とか美鈴ちゃんが話しかけても無視されちゃうことあるし}


{篠崎さんが無視?}


「ただ単に機嫌が悪かっただけかもしれないけど」


{そうなんだ}


あの篠崎さんが無視なんてするのか。


篠崎さんのことが分からなくなってしまった今となっては、意味のない疑問だが。


「ごめんね、りんりん。私がお茶した時に余計なこと言ったからだよね」


唯が謝る。


{いや、唯のせいじゃないよ}


今回の件に悪い人などいないだろう。原因が分からないのだから。


(これからどうしようか)







作者からの一言


おはようございます。

昨日は初めて投稿をお休みしてしまいました。

今後もちょいちょいお休みすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします。

                         黒崎灰炉










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