第三話 おしゃれな喫茶店で
学校を後にした俺たちは、近くの喫茶店へと向かった。
途中で杉山を見かけたので誘ったのだが、
「わりぃ、クラスの奴らと飯行くことになっちまってさ」
と、断られてしまった。
あら、もうお友達出来たの。いいわねぇ、などとぬかしている場合ではない。
貴方、今朝昼食一緒に食べようと言っていたじゃないですか。
(裏切者が)
心の中で毒づいたが、杉山は
「ごめんな凛、また今度一緒に食べようぜ」
と言い残していってしまった。
できるだけ、知り合いは多い方がいいのだが。
しばらく歩くと、おしゃれな喫茶店が見えてきた。俺は入ったことがないのだが、蓮達はよく来るのだろうか。
「いらっしゃいませ。4名様ですか?」
店に入ると店員さんが出迎えてくれた。
「はい、4名です」
蓮がそう答えると、店員さんは窓際のテーブル席に案内してくれた。
蓮と美鈴、俺と篠崎さんが隣同士というフォーメーションで座ることになった。
(いや、ふつう俺と蓮が隣同士じゃね?)
そう思ったが、ここで席を変えてくれというのも篠崎さんに失礼なのでそのまま座ることにした。
テーブルの上に置いてあったメニュー表をそれぞれ手に取る。メニュー表が二つあるだけだったので、隣同士でシェアしてみることになった。
俺がメニュー表を眺めていると、篠崎さんもメニュー表を見るために身を寄せてきた。
美鈴以外の女子とはあまり関わったことがないので、妙に緊張してしまう距離感である。
(なんか落ち着かないな。良い匂いするし。てか、まつげなげぇなこの人!)
などと思いながら、無意識のうちに篠崎さんの事をみていると、顔を上げた篠崎さんと目が合ってしまった。
「一ノ瀬さん、食べたいものは決まりましたか?」
(見ていたのを気づかれていないだろうか)
パッと目をそらし、俺は適当にメニューを指さした。
そこには、カツサンドの文字があった。
(あ、朝もトースト食べたんだけどな)
「カツサンドですか。なら私は隣のオムレツサンドにしてみます。」
と篠崎さんは言った。
「二人ともメニューは決まったみたいだね。こっちも決まったから、注文しようか」
そう言って蓮は店員さんを呼び、全員分の注文をしてくれる。
「じゃあ、俺は水を取ってくるよ」
そう言って蓮は、席を立ってしまった。
「私も手伝います。」
さすがメイドといったところか、すぐに篠崎さんも席を立った。
(やめて!美鈴と二人きりにしないで)
そう心の中で叫び、蓮の方を見るが、
「すぐ戻るから」
と、そのまま行ってしまい、テーブルには俺と美鈴だけが残ってしまった。
(気まずい)
美鈴は相変わらず目を合わせようとしないし、俺もうつむいたままだった。
「ねえ、凛さ」
しかし、意外にも美鈴の方から話しかけてきた。
「これから、今日みたいに蓮にずっと助けてもらいながら生きていくつもりなの?」
美鈴は続ける
「蓮は優しいからきっと凛が困ってたらなんでも聞いてくれる。でも、それは蓮の重荷になるのは凛も分かるでしょ?貴方の甘えで、蓮の生活の邪魔になるようなことはしないで」
美鈴は、じっとこちらを見る。久しぶりに美鈴と目を合わせたかもしれない。
「だからこれからはできるだけ、蓮に頼らず一人で頑張って。」
それはきっと、今日の事だけでなくこれまで俺が蓮に頼りきりだったことを含めての言葉なのだろう。口調は落ち着いてるが、怒りが込められているような気がした。
とっさに言い返そうとしたが、返す言葉がなかった。それは、物理的に話せないという意味ではなく、俺自身がそのことを自覚していたため認めざる負えなかったのだ。
別に、俺から蓮に何かをお願いしたことはない。しかし、蓮は周りをよく見ているため俺が困っているといち早く気づいて助けてくれることが多かった。その蓮の優しさに期待していたことは否定できない。
俺は美鈴に向かって小さくうなずいた。
「わかってるならいいけど」
そう言って美鈴は、またそっぽを向いてしまった。
美鈴が言い終わると、蓮達が席に戻ってきた。
「はい、これ二人の水」
そういって、蓮と篠崎さんは俺と美鈴の分の水を差しだした。
「ありがと、蓮」
美鈴笑顔で答え、俺も二人に軽く頭を下げてお礼を伝えた。
「さてと、じゃあ二人に改めて風葉さんのことを紹介するね。」
席に着いて、水を一口飲んだ蓮がそう言った。
「彼女は篠崎風葉さん。うちで三年前からメイドをしてもらっているんだ。」
(三年前?そんな前から働いているのか。)
「中学の時は、ちょっといろいろあって学校には通っていなかったんだ。そのかわり、うちで住み込みのメイドとして働いてもらっていたんだよ。」
(どおりで初めて会うわけですね、納得)
「ちょっと住み込みで働いているってどういうこと!?」
と、いきなり美鈴が話に入ってきた。
「蓮、この子と同じ家に住んでいるってこと?」
美鈴が蓮を問いただしている。決して大きな声ではないが、その静かな声には迫力がある。だが確かに、彼女からしたらいい気はしないだろう。
(修羅場だ。こわいよ。)
泣きそうになる。美鈴は美人な分怒った時はめちゃくちゃ怖い。
「ちょっと落ち着いて美鈴。住み込みって言っても、メイドさん用の寮が敷地内にあるから一緒に住んでいるわけではないよ。」
そう言って、蓮が美鈴を説得する。寮完備とはさすが金持ちの家である。
「そう。ならまあ、いいけど」
美鈴も矛を収めたようだ。
「あの、いきなりすみません。私が蓮様にお二人とお話ししてみたいといったんです。」
そういって、篠崎さんは俺の方をチラっとみた。
「まあ、二人とはこれからも顔を合わせることもあるだろうしね。何よりみんな同じクラスだし、二人とも風葉さんと仲良くなってくれたら嬉しいよ。」
と蓮が続ける
「そうね、篠崎さん、私柊美鈴これからよろしくね。」
美鈴が篠崎さんに挨拶すと、
「こちらこそよろしくお願いいたします。柊さん」
そう、篠崎さんは笑顔で返した。
(かわいい)
もともと美人な顔立ちだと思っていたが、笑うとよりかわいい。
「美鈴でいいよ、私も風葉ちゃんって呼ぶね」
美鈴がそういうと、
「わかりました。美鈴さん」
篠崎さんが返した。
「そして、その隣の仏頂面してるのが僕の親友の凛斗だよ、僕たちは凛て呼んでるんだ。」
と、余計な一言付きで蓮が俺の紹介をしてくれた。そして顔が悪いのはもともとである。
{さっきも挨拶したけど、蓮の友達の一ノ瀬凛斗です。よろしくね、篠崎さんm(_ _"m)}
と絵文字とともにすばやく挨拶をしたが、
「はい。よろしくお願いします」
とだけ言った。
(え、それだけ?さっきのかわいらしい笑顔は俺に向けてくれないの?)
ちょっとショックである。
「はは、まあ風葉さんは僕以外の男子とあんまり話したことないみたいだから。」
と、蓮がフォローしてくれた。だが、なんとなく篠崎さんの態度が引っかかる。俺とはあまり話したくないのだろうか。
そのあと、俺たちはそれぞれの注文したご飯を食べ、軽く談笑した後に(主に俺以外の三人が)お開きとなった。
店を出た後
「それじゃあ僕たちはこっちだから」
と蓮は俺に言ってきた。
俺と蓮の家は、喫茶店を中心とした時に反対方向に位置していた。蓮と風葉さんは、同じ敷地内に住んでいるし美鈴もどちらかと言えば蓮の家と同じ方角に家があった。そのため、必然的にここで三人とはお別れとなる。まあ、美鈴の場合は俺と同じ方向でも一緒に帰ることはないだろうが。
またな、と軽くうなずいて返すと。
篠崎さんが俺の方に来てじっと見つめてきた。そして、
「一ノ瀬さん、また明日」
そう残して蓮達と一緒に帰っていった。
(やっぱり不思議な子だな)
そう思いながら俺も帰路に就くことにした。
作者からの一言
おはようございます。もう八月も折り返しましたね。最近、一年がとても早く感じます。毎日とまではいわずとも、たまに充実した一日を送れたらちょっと嬉しい気持ちになりますよね。
宜しければ、星や感想も書いてくれると嬉しいです。
黒崎灰炉
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