第7話 「買い物」それは散財

「せあ兄じゃあ11時に難波の駅前集合ね」

「え、一緒に行けばいいやん」

「せあ兄は何もわかってない。とりあえず11時集合!」


朝起きたら妹の希空にそう言われて希空は部屋に戻っていった。その後俺は朝ご飯を食べ、お出かけ用の服をクローゼットの奥から引っ張り出した。結構早いがもう家を出ることにした。


「希空、先寄るところあるからもう行くな」

「わかった。ちゃんと時間通りに来てね〜」

「わかった」


難波までは電車で約30分だ。俺の住んでいる家は立地が良くて地下鉄、路面電車の駅も近くにある。なので、梅田も難波も天王寺も乗り換え無しで行くことが出来る。なぜ早く家を出ることにしたかと言うと、事務所に用がある人がいるかもしれないからだ。この前俺の髪を整えてくれた陽奈先輩だ。希空が出かける時に、おしゃれを怠るはずがない。なので少しでも良い格好をしておかないと、希空の評価を下げることになってしまう。もう一回頼むのは、少し恥ずかしいが、希空のためなので仕方ない。

事務所に着くと、休憩所に陽奈先輩がいた。


「陽奈先輩、おはようございます」

「おーおはよう、せあくん。私に何か用」


朝なのに眠そうだった。


「その、髪整えてもらっていいですか?」

「いいよ〜。その代わり、今度ささやかなお願い聞いて貰ってもいい?」


少しニヤッとしながら聞いてくる。


「わかりました」

「よーしじゃあ化粧室いこう」


化粧室の鏡の前に座って陽奈先輩にかみを整えてもらっている時に質問された。


「そういえば今日はどこか行くの、しっかりとした服を着ているし、髪も整えてほしいなんて、もしかしてデート?」


急にぶっ込んだ事を聞いてくる。妹と出かけるだけの為デートではない。


「そんな訳ないじゃないですか。ただ出かけるだけですよ」


つい大きい声になって返事をしてしまう。


「わかってるよ。毎回私に頼む大変だろうし、今度教えてあげるよ」

「本当ですか。ありがとうございます」


少し雑談していたら、すぐに終わった。


「それじゃデート頑張っておいで」

「だから、デートじゃないですから。ありがとうございました」


事務所を出ると集合時間の30分前だった。駅までは、事務所から10分ぐらいなので、余裕で間に合う。駅に着き11時まで、待っていると、ちょうどに希空はきた。


「お待たせ〜。」


走り気味にこっちに向かってくる希空はリボンの付いている黄色いスカートに、袖が白色の黒のトップスという服だった。周りの目も希空をチラチラと見ているように見えた。我が妹ながらとてもかわいいと思う。


「おや?せあ兄髪整えた?」

「まぁ、それぐらいはするよ」

「まぁ、及第点かな」

「何様のつもりだ」

「妹様だ」


少し決めゼリフっぽく言いあったが少し周りの視線が痛かった。


「ところで今日は、どこに行く?」

「今日はね家電量販店とパソコンショップに行くよ」

「家電量販店はともなく、パソコンショップに女の子1人で行くのは流石に勇気いるもんな。」

「でも今の時代結構いたりするんだよね〜」

「へぇー時代は変わるもんだね」

「年とっておじさんなった?」

「ピッチピチの16ですけど」


少し、歩くとお目当ての家電量販店に到着した。なんと6階建てで地下が3階まである。

大阪の中でも大きい家電量販店だ。


「結局、何を買いに来たの?」

「えっとね……ここには液タブを買いに来たよ」

「今まで絵描く時って、タブレットか板タブじゃなかったけ?」

「タブレットでも十分なんだけど、パソコンで書いた方が楽だから。後、板タブは私には、合わなくてさ」

「それで液タブを買おうと」

「そういうこと」


パソコンで絵を描くには、板タブと液タブのの2種類がある。簡単に説明すると、パソコンのモニターを見ながら描くのが板タブで、付いている液晶に描くのが、液タブだ。


「けど、そういうのってネットで買うもんじゃない?」

「しかしながら、ここには液タブ、板タブが沢山売ってあるという口コミを見つけたんだよ〜」

「なるほど、それじゃあ色々見ながら探すか」


探索しながら探していると、B1階にあった。


「せあ兄あったよー!この辺全部液タブだよ〜」


見てみると最近の液タブは小さいものから大きいものまで。中には、パソコンのモニターとしても使えるものまである。希空は1時間ぐらいそのスペースを歩き回り悩んだ結果。決めたようだ。


「前から迷っていた物を買うことにした〜」


希空の持っているカゴの中には、大きな液タブが入っていた。


「結構大きな液タブ買ったんだな」

「大きい方が描きやすいだよ」

「ちなみにお値段は?」


少し間が空くと小さな声で話す。


「………7万円」

「何円持ってきた?」

「………5万円」

「つまり最初から俺に出してもらおうと」

「せあ兄!お金出して」


ものすごく可愛く言ってきた。幻覚で背中に羽が生えているように見えるぐらい可愛いかった。他人がこれを見たら1発で落ちてもおかしくないだろう。


「わかったよ。4万円渡すから3万は自分で出せよ」

「せあ兄ありがとう!愛してる〜」

「どうもー」


お金を渡すとニコニコしながら希空はレジに歩いて行った。俺は近くにATMがあったので、少しお金をおろすことにした。ATMは少し並んでいてお金を下ろすのに時間がかかった。戻ってみるとレジを終えた希空がいた。しかし希空の周りには、チャラチャラした男が2人いた。


「ねぇ君かわいいね。ちょっとお茶しない?」

「1人?お金は出すよ」

「えっと…その…」


今だに都会には、こういうナンパする人がいるみたいだ。こういうのは苦手なのだが放置する訳にもいかないので希空の方へ向かう。


「あのー希空に手出さないでくれます?」


割り込むと凄く睨まれる。怖いが妹の前なので引く事はできない。


「誰だお前?お前はこの子の何だ」


……そう聞かれると困ってしまう。彼女だったら、「俺の彼女だ」といえば、いいだけなんだが、妹のなのでそう言う訳にもいかない。一瞬で考えた結果こう答えることにした。


「希空は俺の大事な人だ。」

「……え?」


その時の私、八神希空は絶対顔が赤くなっていた自覚があった。まさかせあ兄がそんなこと言ってくれるなんて思ってもいなかった。


「なんだよ、彼氏いるのかよ。早く言えよ」

「じゃあな。おい彼氏幸せにしてやれよ」


最近のナンパする人達は潔くて、少し優しい所もあるみたいだ。チャラチャラした人たちは、すぐどこかにいった。


「…ありがとうせあ兄」

「それは、どうも。あんな奴らこれからは、きっちり断れよ」

「うん。……ちょっと荷物持っててトイレ行ってくるね」

「気をつけろよ」


私は少し、早く歩いてトイレに行った。

鏡を見ると、やはり私の顔は赤くなっている。


「さっきのせあ兄カッコよかった〜。てか、早く赤くなってるのおさまれ〜」

「…………そんなん兄に言われてもドキドキしちゃうよ」


俺、八神星空はドキドキしている。


「ふぅ〜、怖かったー。」


まさか、こんな漫画みたいな場面が来るとは思ってもいなかった。

上手いことよかったから良かったがもし殴られたりしたら勝ち目はなかっただろう。

心の底から安心した。

少ししたら、希空が帰ってきた。


「お待たせ、せあ兄。」


いつもの調子に戻った希空が戻ってきた。時計を確認すると、12時を過ぎていた。


「よしそれじゃあ次は、パソコンショップの前にご飯だな」

「賛成!私もうお腹ペコペコだよ」

「事務所の近くに、美味しそうなハンバーグ屋さん見つけたけど、そこいく?」

「私賛成!せあ兄の奢りだし沢山食べよ」

「……そういえばそうだった」


ここから歩いて15分ぐらいのところにそのお店はある。しかし行き道の途中にあるLive withの事務所前を通った時に事件は起こった。


「あれせあくんじゃ〜ん。ん?あれれもしかしてデートですか?私には、出かけるって言ったくせに〜この嘘つき。」


すると希空に横腹をつままれた。


「せあ兄、あの人誰?」


ジト目で希空が見てくる。


「希空さん痛いとりあえず手離して。あの人は、一期生の陽奈先輩」

「ふ〜ん。仲良いんだね」

「イタタタ。ちょ希空ギブ」

「彼女さん初めましてせあくんの先輩の陽奈です。よろしくね」

「初めまして陽奈さん。せあ兄の妹の希空です。よろしくお願いします」

「あらら、妹さんか〜。それは失礼。立ち話もなんだし、そこのハンバーグ屋さん行かない?」

「俺達もちょうどそこいこうと思ってたんですよ。」

「せあ兄余計なこと言って…」

「ん、何か言ったか?」

「…なんでも」


希空はまた少し怒っているように見えた。


「それは偶然だね。それじゃ行こっか〜。」


お腹を空かせた昼下がり。昼ご飯を食べる人が1人増え、妹が少し怒りました。

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