第43話 「遠足」それはお近づき⑨

露天風呂に足からゆっくりと入り、肩まで浸かる。タオルは頭の上に置く。入っていると今日1日の身体の疲れが徐々に抜けていくのを感じる。やはり風呂は


「サイコーだな〜」


少し情けない声がでるが気にしない。それほど気持ちいいのだから。


「おいおいおじさんかよ」

「俺はこの露天風呂を心から堪能してるんだよ。」


隣でこう言っている蒴も気持ちよさそうに入っている。やはり温泉はどんな人間でも気持ちいいのだろう。

そのまま雑談してたけど、俺は長く風呂に入るのは苦手な為に先に切り上げた。

備え付けのドライヤーで髪の毛を乾かし、楽な服装に着替え温泉入口にある自販機で牛乳を購入しようとしたら、見覚えのある顔があった。


「お!先輩も牛乳買いにきたんですか?やはり温泉上がりは牛乳ですよね!」


自販機の横のベンチに浴衣に身を包み牛乳を片手に持ちながら手を振っている後輩ひなの姿があった。


「わかってるなやはり温泉上がりは牛乳だ」


俺はそう言うとフルーツ牛乳を選択し、取り出し口から取り出す。


「まさかのフルーツ牛乳。先輩それは邪道ですよ!やっぱり普通の牛乳じゃないと」

「風呂上がりの牛乳に邪道もクソもないだろう」


どうでもいい論争を繰り広げた後、ひなが「まぁ、とりあえず座って下さい」みたいな表情で見てくるので、隣に座る。


「先輩はなんで浴衣着てないんですか?」

「え?どこかにあったか?」

「部屋の押し入れの中にありましたよ」

「なるほどバタバタしてて押し入れ開けてないから気づいてないんだ」


牛乳を飲み終えたひなは牛乳瓶をベンチに置きこちらを向く。少ししっとりとした髪がなびいて、シャープーの匂いがする。


「そういえば、前言ってた約束忘れてないですよね」

「あれだろ、お土産一緒に選ぼうってやつ」

「そうです。この後自由時間ですので、30分後にお店の前集合でいいですか?」

「え?このまま直接行けばいいだろ」

「先輩も浴衣きましょう!絶対に合います」


ひながグイッと顔を寄せてくる。俺は体全体が下がる。


「まぁいいけど」

「ありがとうございます」


ひなの顔がとても笑顔になった?


「そういえば温泉で月奏と胡桃先輩に会いましたよ」

「お前いつの間に月奏って呼ぶようになったんだよ」

「まぁ、色々ありまして。それでなんですけど胡桃先輩疑ってましたよ。「先輩と夜廻様って声似てるよねー」って」


前々から危惧してたことが結構やばくなってきていた。基本配信での声は生声で声は作ってないから胡桃みたいないつも間近にいる人にはバレてしまうかも知れないと。


「マジかバレないように気をつけないと」

「バレない事を祈ってますよ。それじゃあ30分後お店の前集合で」

「りょーかい」


フルーツ牛乳を飲み干した後、俺は自分の部屋に向けて歩き始めた。そこでふと思った。


「浴衣ってどうやって着るんだろ〜??」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る