第2話 「話し合い」それは本音を語る所

太陽はちょうど自分の真上にあり、桜の木の蕾は大きくなり春の訪れを感じさせている。そして俺は今、大阪のあるビルの前に立っている。そう「Live with」の事務所が入っているビルだ。


周りには大きな駅と高層ビルが立ち並び、常に人が往来している。道を1つ奥に行けばゲームセンターや、カードショップ、アニメグッズを売っている青いお店などが固まっている道がある。


なぜ、「Live with」の事務所の前にいるかと言うと、手続きや規約の説明とか実際に会って話した方がわかりやすいかららしい。


中に入って見ると、普通の会社みたいだった。

事務所内マップを見ると、スタジオや、会議室、休憩所などがある。とりあえず、中にいたスタッフさんに事情を話して、指定の会議室を教えてもらった。会議室に向かって歩いていると、後ろから肩を叩かれた。


「すいません。あなたこのハンカチ落としましたよ」


振り向くと、そこには、綺麗なミルキーゴールドのロングヘアの髪。透き通った綺麗な肌。大きな眼と長い睫毛。少し小柄な体系の中には、女の子魅力が溢れていた。


「あ…そのハンカチは私のです。拾って頂いてありがとうございます」

急だったので、一人称がつい変になってしまう。

「いえいえ、大丈夫ですよ」

彼女は俺にハンカチを渡すとそのまま歩いて行った。このなんの変哲もない出会いがこれからの未来に影響を与えるという事を俺は知るはずもない。

少し歩くと目的の会議室が見えた。中に入ると椅子があり、座って待っているとドアをノックする音が聞こえた。


「失礼するよ。」

入ってきたのは、半袖のパーカーにジャージにを履いた、20代の男の人が入ってきた。一瞬誰かと思ったが、顔見た瞬間全てを理解できた。

竜胆蓮りんどうれん、「REN」と言う名前で配信をしていて、配信歴6年目のベテランだ。登録者数200万人を越え、会社「Live with」を作った社長陣の一人だ。さらに元プロゲーマーで、過去に優勝経験がある。尊敬している人も多い超人気配信者だ。なぜ本名を知っているかと言うと、少し前の配信で、誤って自分の名前を公開してしまったからだ。

そう言うおちょっこちょいな所も人気の秘訣なんだろう。


「初めまして、竜胆蓮さん。V配信者の夜廻せあ、本名八神星空と言います。よろしくお願いします。」

「あぁ、よろしく頼むよせあくん。早速で悪いけど、説明始めるよ。」

「はい。よろしくお願いします。」


その後細かい説明などを受け、話しの最後にある事を質問された。


「最後に質問なんだけど、なんでうちに入ろうとしたの。たった1年でこんなに大きくなったんだから他の事務所からもオファー来てたでしょ。さらに正直な所、君1人でやっていけるんじゃない」


本来は、配信歴1年だと、まだまだ同時接続者数もバラバラで不安定な時期だが、俺は、急激に伸びたおかげで、既に安定してきている。1人でやっていけるかと聞かれたら、やっていけるのだ。さらに、青春したいので、ここに来ましたとは絶対に言えない。なので、俺は建前を使う事にした。


「やはり1人でやることには何事にも限界があるで、事務所に所属し…」

「建前はいいよ、俺は君の本音が知りたいんだ。」

少し鋭い視線でこちらを見てくる。見抜かれていたようだ。配信歴も長いし、こういう話し合いの機会も多かったのだろう。さらに所属している配信者全員の面接を見てきたはずだ。見抜かれても仕方がない。そこまで言われてしまったらどうしようもできないので、俺は本音を語ることにした。


「俺は配信者ですが、普通の高校生です。青春の中で1番楽しいであろう高校生活を配信ばかりで終わってしまうのは嫌なんですよ。なので青春と配信を両立したいので、事務所に所属して、少しでも配信の手助けをしてもらいたいと考えているからです。後、他の有名な事務所全部事務所東京なんですよ」


ありのままに全てを話した。流石にこれはまずいかなと思った。しかし相手を見ると、笑っていた。


「いいね。青春をしたいからここにきたのか。

まぁこっちから持ちかけた話だから断るつもりはなかったけど、まさかそんな理由だったとは。いいだろう君の配信と青春の両立の為君をバックアップするよ」


まさか本音を言って、事務所入りが決定するとは思ってもいなかった。


「とりあえず必要な書類とか渡して今日の所は終了。せあくんは、明日空いてる?」

「はい。空いてますよ」

「それじゃ明日も事務所に来てくれる。伝えたい事とか、あるから」

「今からではダメなんですか?」

「これでも俺は多忙なんだ。今から別の人と話し合いをしないと行けないんだ。悪いね」


と言って出て行った。扉が閉まったかと思ったら勢いよくすぐ扉が開く。


「あ!今日の夜、少し配信するから、絶対見に来てくれ」


そういうと、俺が返事する前にすぐ部屋から出て行った。


「台風ような人だなあ〜」


そう呟くと、俺は、事務所を後にし家に帰った。その時の俺は、考えてもいなかった。あの時彼が言った言葉の本当の意味を。

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